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エルフさんと妖精さん(1)

目を開けると、そこには見知らぬ天井がありました。


……これは、知らない天井だ。と呟いた方が良いのか? 元ネタは見た事はないけど。


そんな下らない事を考えながら起き上がると、ギシリとベッドが軋む。



周りを見ると、四畳くらいの大きさの部屋で、ログハウスみたいな建物だ。部屋にはベッドだけで他は何もない。


私は何でこんな所にいるんだろう、と直前の記憶を辿る。そしたら大体思い出してきたが、やっぱりよく分からない。


事故死したかと思えば、見知らぬ土地で化け物に襲われて、また死にかけて……。ほんと、意味が分からん。


そう言えば、助けてくれた人は、今までで見た事がないくらい、物凄く綺麗な人だったなあ。


テレビや漫画でしか見た事がないローブを着ていた上に、耳も尖っていたけれど、コスプレか何かだろうか? ……確か、よくゲームやファンタジーとかで見るエルフだよね?


もし、本物のエルフならここは異世界? だとしたら、私は異世界トリップと言う、とってもあり得ない現状に出くわしている事になる。まあ、そんな事はないだろうけどね。ハハハ。


……いや、現実逃避は止めて、唯、ありのままを考えれば異世界かも知れないが、私が住んでいた地球の場合もあるのかも知れない。


あのエルフさん? は山奥深くに住む普通のコスプレマニアで、技術者。そして、あのゴキブリ擬きを作ったのは良いけど、暴走したので、燃やして廃棄したのかも知れない。……流石に無理があるか。



そんな風に悶々と考え込んでいたら、急に扉が開き、部屋にに入って来たのは、蝶々の様な綺麗な羽を持つ、とっても小さくて、可愛らしい女の子。


それを見た私は唖然としながらも、良くできた妖精のロボット何だよ、きっと。と頭の片隅でそう考えていた。



「□◎△? ×●◇☆□◎!」



妖精さんは何かを話していたかと思えば、慌てた様子で部屋を出て行き、私はそれを唯、ぼんやりと見ている事しか出来なかった。



暫くして、部屋の扉がまた開き、入って来たのは助けてくれたエルフさんと、先程の妖精さんだ。



「◎◇△☆□?」



妖精さんを頭に乗せているエルフさんが話しかけて来るけど、さっぱり分からない。



「ごめんなさい。言葉が全く分かりません」



つい最近、どこかで同じような言葉を返したなあ。と思いながら、綺麗なエルフさんに見惚れていると、妖精さんが自分の背丈よりも半分くらいの大きさの小箱を私に渡してきて、無意識に受け取ってしまう。


首を傾げながら、エルフさんと妖精さんを見ると、エルフさんは初めに会った時と変わらない無表情で、妖精さんはにこにこと無邪気な笑顔。



……多分、この箱を開けろ、という事だろうか?


そう思い、戸惑いながらも小箱を開けると、中には銀色に輝くシンプルな指輪がそこにある。



「……指輪?」



思わず呟き、もう一度、エルフさんと妖精さんを見ても、無表情と笑顔だけで、何もない。



……はめれば、良いの?


まさか、これは奴隷になる指輪とか言わないよね? もしくはこれをやるから金を寄越せとか、そんな事はない、と良いなあ。



そんな事を考えつつも、少し震える手で指輪を持ち、左手の中指に指輪を付ける。すると、



「ねぇねぇ! 言葉が分かるようになった?!」


いきなりの日本語に驚いて、顔を上げると、妖精さんが目の前にいる。そして、満面な笑みを浮かべて私に話しかけてくる。



「えっ!?」


「リーシャー! 失敗してるよ~」


「いや、そんな筈は……」



妖精さんはふよふよと、リーシャーと呼んだエルフさんの頭の上に飛んで行き、逆さまになりながら言う。エルフさんは無表情だけれど、眉を少しだけ寄せて話した。


急に言葉が分かるようになり、驚いていたが、慌てて私は話し出す。



「いや、分かりますよ! ごめんなさい、いきなり分かるようになったので、驚いていたんです」


「良かったね、リーシャー! 成功だ~!!」



妖精さんは文字通り飛び跳ねて喜び、ぐるぐる天井を回り、エルフさんは僅かに頷くだけだった。



「そうだ! 体の方は大丈夫なの? リーシャーから聞いたら、襲われてたらしいけど」



喜びながらぐるぐる回っていた妖精さんは、突然に止まったかと思うと、心配そうな顔で私の目の前に来て、聞いてきた。


心配している妖精さんが安心する様に微笑みかけ、大丈夫だと伝えると、妖精さんは良かったと言いながら、エルフさんの頭の上に座る。……どうやら、妖精さんの定位置はエルフさんの頭の上らしい。



「助けて頂いて、ありがとうございました。えっと、リーシャーさん?」


「リーシャだ。唯のリーシャ」


「ボクは~、スーだよ!」


「はい、ありがとうございました。リーシャさんにスーさん」


「スーで良いよっ! 貴女のお名前はなあ~に?」


「あ、私は佐川木葉さがわ このはです。私も木葉で良いですよ」



お礼を言い忘れないように、お礼を言うと、二人? に自己紹介をされ、再びお礼を言ったら、スーが私の名前を聞いてきたので教える。


普通にこの妖精さん? 見たいな子とお話をしている私は、意外に順応が早いんだな。と自分の事ながら感心してしまう。



「コノハっていうんだ! 変わった名前だね。でも、サガワは何なの?」


「苗字、いや、家名ですね」


「へぇー、家名。つまりコノハは貴族なんだ! 凄いねっ!」


「いえ、貴族じゃないですけど、家名があるんですよ」


「ほー。そうなんだあ。凄いね!」



にこにこと、気がついたら私の目の前に来て、しゃべっているスーは、本当に分かっているのか、いないのか、多分、分かっていないのだろう。けれど、楽しそうに話す、スーを見ていると、こっちまで楽しくなるのは何でだろうか?



「スー。悪いが、お茶を入れてくれないか?」


「うん、良いよっ! コノハ。今から美味しいお茶を入れて来るから待っててね~!」


「うん、気をつけてね」



いつの間にか敬語がなくなっていて、少々びっくりするけれど、リーシャさんの真面目な雰囲気に呑まれて背筋を伸ばす。



「楽しそうに話し合っていたが、すまない。スーがいると、話が進まないから……」


「大丈夫です。私も聞きたい事がありましたから」


「そうか。まずは君からの質問を聞こう」



真っ直ぐな視線を私に向けるリーシャさんに、どぎまぎしながら、私もリーシャさんを見る。そして、私が一番初めに考えていた事を一息吐いた後に聞く。



「ここは、どこですか? そして、私を襲った“あれ”は何なんですか?」


「ここは『リヴァルウの森』通称、魔甲の森だ。君を襲ったのはここら辺によく生息している魔物の一種で、魔昆虫のゴギーバルという。本来なら、あの大きさはいない筈なのだが……。普通は大体、スーよりも少し小さく、人を襲える様な物ではない」



無表情ながらも眉間に皺を寄せて話すリーシャさんは、それでもとっても綺麗だった。……いや、現実逃避くらい、させて下さい。


何となく、感づいてはいたんだけど、こう、突き付けられると、どうしていいのか分からなくなるのです。


『リヴァルウの森』は地球上のどこかを探せばあるのかも知れないけれど、魔物何て、私の中の常識に入っていませんから。地球に魔物はいなかったです。はい。


「そう、ですか。ありがとうございます」



茫然となりながらも、答えてくれたリーシャさんにお礼を言えた私は凄い、と自画自賛する。……どうやらまだ、混乱しているみたいだ。



「……君は、こことは違う世界。つまり、異世界から来たのだろう」



断定的に言うリーシャさんに疑問を持ち、俯いていた顔を上げると、リーシャさんは心配そうな目を向けながら、こちらを見ている。



「何で異世界から来たと分かるんですか」


「この世界にはごく偶に、異世界から飛ばされて来る人がいる」


「っ!? その人達は元の世界に戻れたんですか!!?」



リーシャさんは首を振り、唯、分からない。と一言だけ言った。


気がついたら、ベッドから下りていて、リーシャさんに詰め寄っており、私は慌ててリーシャさんから離れて、謝る。



「いや、大丈夫だ。突然、見知らぬ土地に飛ばされたんだ。仕方がない」


「……あり、がとうございます」


「おまたせ! スー特製の紅茶が入ったよ~!!」



沈んだ空気を壊すようにやって来て、無邪気に笑うスーを見ると、つい笑みが零れる。


スーは自分よりも大きなおぼんを持って、私の目の前に来たので、私はおぼんを持ち、ありがとう、と言う。

おぼんの上には木で出来たカップが三つあり、二つは普通のサイズだが、一つはとても小さくて、これはスーの分か。



「ふふん。ついでにリーシャーの分も入れてあげたよ~」


「ありがとう。スー」


「えへへへ」



リーシャさんは人差し指で、スーの頭を撫でてから、おぼんの上に乗っていたカップを取る。


私もカップを持ち上げ、口に近づけると、爽やかな香りがして、一口飲んでみる。すると、仄かな甘味と、すっきりする味わい、そしてどこか、ほっとする味だ。


スーはわくわくしながら、私の感想を待っている。



「とっても美味しいよ」


「ほんとに、ほんとに?」


「うん。本当にとっても美味しい」



お世辞ではなく、本当に美味しいので、そのままを伝えると、スーは喜色満面にあふれていた。

ふと、リーシャさんを見れば、無表情だけれど、とても優しい目でスーを見ていて、思わず、ぼーっと見惚れる。


目は口ほどに物を言うって、こういう事なんだなあ、と思っていると、スーが自分のカップを持ちながら、いきなり目の前に来た。



「リーシャーを見つめて、どうしたの?」


「リーシャさんはとっても綺麗で、優しい人なんだなあって思いながら、見とれてたの」


「おお! 良かったね~、リーシャー! リーシャーをわかってくれる人がここにもいたよっ! ……じゃあ、ボクは綺麗?」



本当に嬉しそうにスーはリーシャさんに向かって、そう言うと、リーシャさんは少し固まったかと思えば、またお茶を飲み始めた。


そして今度は自分はどうかと、スーは聞いてくるので、私は自然と笑みを浮かべながら話す。



「スーは綺麗よりも、可愛いらしいよね。ちょっとしか一緒にいないけど、自然に元気を分けて貰えて……出会えて嬉しいな」



この気持ちは本当だ。ほんの僅かしか接していない筈なのに、異世界に飛ばされて、こんなにも落ち着いていられるのは、スーの無邪気で天真爛漫な性格のおかげだろう。


そう思い、私は先程、リーシャさんがしていたように人差し指で、スーの頭を撫で、お礼を言う。


すると、スーはだんだんと顔を赤くしていき、何故か私から離れて、リーシャさんの頭の上に乗り、カップを口元に持って行くと、どういたしまして、と何とか私に聞こえる声で言い、私はそれを聞いて、スーに微笑んだ。



紅茶を飲み、照れているスーを微笑ましく見ていると、そう言えば、と思い出す。



「リーシャさんも、ありがとうございます。助けて頂けた上に、この指輪のおかげで、こうして会話も出来るようになりました」



スーに向けていた視線をリーシャさんに向けて、お礼を言う。


言葉が分かるようになったのは嬉しいと、ここまで思った事はないだろう。はっきり言って、意志の疎通が出来なかった少しの間はとてつもなく恐ろしく、不安だったのだ。


見知らぬ土地に、見た事もない生き物に襲われ、どうしようもない恐怖だった。そして綺麗な人に助けられたのは良いけれど、言葉が通じないだけで、あんなにも怖かったのに、言葉が分かるようになって優しい人だと分かり、少しだけ安心した。


まだ、漠然とした不安感と恐怖もあるけれど、この人達は安全だと分かっただけでも嬉しいのだ。



「いや、大したことではないが、喜んで貰えて嬉しいよ」


「色々とお礼をしたいのですが……何も持っていないので、私に何か出来る事があれば、やるので言って下さい」



そう、私は何も持っていない。気がついたら、事故に合った時の姿でいて、鞄はなく、ポケットに入っていたスマートフォンと小銭入れだけだったのだ。



リーシャさんはそう言った私をじーっと見ていたかと思えば、頷く。



「そうか、なら先ずは、スーと話している時みたいに気楽に話をしてくれ」


「……はい、分かりました」


「ふふふっ、コノハ! まだ少し固いよ!」



リーシャさんの言葉に頷いて言う私に、スーは何か楽しそうに笑いながら、私の目の前に来て、言う。



「コノハが、リーシャーにボクの時みたいに話さないと、リーシャーはすぐに拗ねちゃうよ~」


「そんな事では拗ねない」


「はははっ、どうだか~」



スーの言葉にリーシャさんは溜め息を吐き、スーはリーシャさんの目の前に行くと、逆さまに浮かびながら一笑した後に、やれやれ、と言うように首を横に振る。それを見たリーシャさんは無表情だったが、眉間に少しだけ皺が寄っている。


そのやり取りを見た私は吹き出して、お腹を抱えながら笑ってしまう。


笑っている私にスーは不思議そうに、でも嬉しそうに近づいてきて、言う。



「やっぱり、女の子は笑顔が似合うよね~」



いきなりの言葉に、私はきょとんとなったが、自分もそう思っていたので、頷く。



「そうだよね。スーみたいに可愛い子や、リーシャさんのような綺麗な人の笑顔はとっても良いよね。……リーシャさんの笑った顔は見た事ないけど素敵だろうねぇ」



言いながら、リーシャさんの顔を見て、想像しようとするけど、中々出来ない。どうやら、私の想像力はあまりないみたいだ。でも、素敵だろう、絶対。



「うへへぇ。また、可愛いって言われちゃった~!」



赤面しながら両手を頬に当てると、にこにこして、スーは嬉しげに言い、私は可愛らしい反応に癒される。


スーに癒されていると、どこからか、ぐーきゅるるー。と言う音が聞こえてきて、一人は不思議そうに首を傾げて、もう一人は最後の人を見つめて、その最後の一人の私は顔を真っ赤にしながらお腹を押さえている。


そう、先程の音の出所は私のお腹だ。



そしてお腹を押さえていて、今更ながら気づく。



「あ、服が違う」



この世界に来た時とは全然違う服装だった。



「服が汚れていたので、悪いが着替えさせて貰った。それと、これからご飯を作ろうかと思うが、口に合わなかったらすまんな」


「いえ、別に大丈夫です。なんか、何から何まで色々とありがとうございます。本当に……」



淡々と無表情で言うリーシャさんに恥ずかしさと、申し訳なさが入りながらも、お礼を言い、私は俯く。



気を失う直前、そう言えば、お漏らしをしていた事を思い出した。……二十になって、お漏らしって…………。


でも、仕方がないよね。あの場面じゃあ、誰だってお漏らしをしたってしょうがないよっ。絶対!


そう思いながらも落ち込んでいる私に、リーシャさんは声をかけてくる。



「そうだ。その指輪何だが、ちょっとの事では落ちないように出来ているから安心して欲しい」


「そうなんだ。ありがとう」


「代わりに、嵌めたら指を切らなければ外れないように出来ている」


「……えっ?」



リーシャさんはそう言い、飲み終えたカップをおぼんに乗せ、持つと、部屋を出て行く。スーも「ボクも美味しいご飯を作る手伝いに行くねっ!」と元気に言い、部屋を出て、私だけ、ぽつりと部屋に残される。



先程、左手の中指に嵌めた銀色の指輪を見て、外そうとしたけれど、外れない。強く引っ張っても無理で、痛いだけだった。


リーシャさんの言葉通りなら、外す時は指を切らなければならないらしい。


…………ある意味、呪いの指輪じゃん!?




多分、次は説明が多いと思います。


おかしい部分がありましたら教えて下さい。




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