恋に恋して
紅桜です。
この小説は私が書かせていただきました。
お楽しみいただければなによりです。
「遊螺、帰ろ。」
「あ、ごめん凛!私今日は拓海と約束しちゃったの。だから今日は…」
「分かった、じゃあ私は寂しく一人で帰るとしようかな?」
申し訳なさそうな、でもどこか嬉しそうな顔で言う遊螺に笑って返事をした。
「楽しんでおいでね。」
「うん!ありがと。」
親友の遊螺には恋人がいて、すごく幸せそう。私はそれをうらやましく思ったけど、初恋もまだの私から恋人を作るなんて出来なくて。遊螺いわく私は“モテる”らしく、下駄箱にラブレターなんてベタなことはよくされるのだけれど、でもそれじゃ、ときめかない。白い紙の上のよく考えられた文章じゃ、ときめけない。じゃあそれ以外ならときめくのかと言われれば、されたことがないからわからないけれど。とにかく私は、穏やかな恋情に、恋い焦がれることに、燃えたつような恋愛に、憧れていた。使い古された表現をするならば、“恋に恋をしていた。”まだしたことのない“恋”に、夢中になって、余裕を奪われてみたかった。
教室で少しのんびりとしていたせいか人のいない玄関の下駄箱から靴をだし、履く。そして、いざ日差しの中へと踏み出そうとした時、
「流川先輩、待ってください!」
私を呼ぶ声がして振り向いた。そこに居たのは、私よりも少し背が高いくらいの男の子。私を先輩って言っていたから、おそらく後輩だろう。
「私になにか?」
「あの、今、いいっすか。」
何だろう。ここではダメなのか。見知らぬ彼の言葉に少し戸惑ったけれど、私は頷いた。
彼が私を連れてきたのは、青空の広がる屋上。風が気持ちいい。
「…あの。」
「ああ、話だっけ、いいよ。」
彼を振り返り、促した。のに、彼は困ったように、口を開きかけては閉じる。私が首を傾げ、彼に問いかけようとしたとき、
「好きです。」
意を決したように彼は言った。
「流川先輩のことが好きです。俺と、付き合ってくれないっすか。」
「…それは、愛の告白と受け取って、良いんだね……?」
私の確認に、彼は顔を赤くして目を逸らす。そして頷いた。私はそれを見て微笑み、言った。
「私ね、初恋もまだなの。」
「は…?」
私の言葉が彼への返事ではなかったせいか、彼は困惑したように私をみる。
「それでね、恋に憧れてるの。恋に、恋してる。……ねぇ、君は、」
私は彼の耳もとで囁いた。
「私に恋、させてくれますか?」