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六話 再発

 くそ・・・

もうどうしようもない・・・か。

ロボの言葉通り、この爆弾事件が薬品によって行われたのだとしても、もうこれ以上何をどうすればいいのだろうか。

近衛の親がきっと学校に問い合わせてくるだろうし、手芸部だってこれ以上文化祭にこだわりはしないだろう。

だって、関係のない近衛にまで危害を加えてしまったのだから。

「先生、どうするんです?僕は警察に言うことをお勧めしますよ。少なくとも、先生が此処まで背負う必要はない。教師だからって、全てを解決する必要はないんです。」

「ロボ・・・」

ロボの言うとおりだ。はじめから警察に言っていれば、犯人が2通目の脅迫状を出してくることもなかったのかもしれない。

助けられないことに俺は無意識のうちに抵抗を覚えてしまっていたんだ。

「わかった。ロボ、警察に・・・」

俺の言葉の途中、聞き覚えのある音が俺の耳に届いた。

バアアアアン!!!

! まさか・・・また爆弾が?

「せ、先生!」

「わかってる!廊下からだ!」

俺たちは急いで手芸部の部室を出た。廊下は先ほどの大きな音で騒然としている。

「どいてくれ!」

集まった教師たちの真ん中で保健医の白木先生に介抱されていたのは、さっきまで元気そうにしていた美智だった。

「美智!」

俺は美智に駆け寄る。そこには苦痛に顔をゆがめる美智の姿があった。

「爆発によって意識がもうろうとしているようですね・・・火傷をしていますが大したものではありません。」

違う・・・やはり薬品が使われたんだ。だからこそ気分が悪くなり、もうろうとしてしまっているんだ。

「美智、大丈夫か?」

「・・・私、犯人を見たわ・・・ あの長い髪・・・女の人だった・・・」

女。それを聞いて、俺はやはりあの人しか思い浮かばなかった。もう、逃げられない。

腐れ縁とはいえ、知り合いがけがまでしているんだ。もはや黙っているわけにはいかない

美智は、保健室で検診の段取りについて、白木先生と話をしていたらしい。そして、ようやく特別教室に移動しようというところに、爆発が起きたというのだ。

俺はとりあえず、美智と一緒に保健室に行くことにした。犯人捜しよりけがの治療を優先させなきゃな。現場の検証はロボに任せているし、大丈夫だろう。他の教師や生徒への説明を考えると頭が痛いが。



保健室は先ほどの廊下のすぐ先にあった。

中では保健室特有のにおいが充満していて、奥のベッドでは先ほどけがをした近衛が寝ていた。うなされているんだろうか。息苦しそうな感じだ。そういえば、近衛についていたはずの木嶋や武藤達がいない。ああ、おそらく夏川と同じく美智に促されて健康診断に行っているんだろう。



「大変でしたね・・・」

口を開いたのは保険医の白木先生。20代半ばで、大人の魅力を感じさせるという理由から、生徒の人気は高いらしい。中坊が何を言うか。

「でもさあ・・・やっぱ私男運ないわ。」

「は?」

美智は痛そうに腕の火傷をさすりながらぼやいた。

「どういう意味だ?」

「だって、昨日の占いからこの爆発よ?もう神がかってるわよね、悪い意味で。」

ちょ、ちょっと待ってくれ、混乱しているぞ俺は。

「待てよ美智。お前が見た不審人物は女だったんだろう!?」

「あ、言ってなかったっけ。私爆発でびっくりしたと同時にうしろをみたのよ。そしたら背の高い男が立っててさあ。ふつうか弱き乙女がけがしてたら助けるでしょ?なのにあの男、そのまま校舎のほうへ走って行ったのよ!」

美智は二人の人物を見ていた!

保健室から出てきた美智に後ろから爆発を起こしてけがをさせた女。

その後倒れる美智を見ながらも無視して校舎に逃げた男。

俺は意味が分からなかったが、男のほうも関係していると直感で思った。

「ちょっと?桐生なんでそんな怖い顔してるのよ・・・」

「ああ?犯人が許せねえからだよ。決まってんだろ。」

「桐生・・・」

絶対に許さない。こんな事件起こしたことも。何かあるなら相談しなかったことも。

そして、俺から逃げ続けていることも。



「何してるんです?」

俺は化学準備室の人影に声をかける。

「あまり暖房はきいていないようですね。さっきまで出ていたんですか?」

俺はあえて敬語で追い詰める。人影は明らかにあせっている。

「そのビン、なんです?四つあるみたいですけど。なぜそれだけが棚から出ているんです?」

人影は持っているビンを机に置いた。

「空のビンばっかりですね。何かに使われたんですか?」

人影はうっすらと汗をかいている。

「西條先生?それで何したんですか?」

「・・・・・・」

「何したのかを聞いてんだよ!」

俺が大声で怒鳴りつけると、西條先生は観念したかのようにうつむいた。自虐的な笑みを浮かべていて、いつもの強気な様子は見られない。

「よく、分かりましたね・・・」

「! 西條先生、あんた、やっぱり・・・」

覚悟していたはずなのに、本人の口から認める言葉が出てきてしまうと、悲しい気持ちになってしまう。

「証拠は、なかった。確証もな。目撃証言も決め手にはならなかったし。でも、思い浮かんじまったんだよ。爆発で薬品で長髪。ここ最近様子のおかしかったあんたの顔がな。」

「さすが、です・・・やっぱり桐生先生は、対策室に向いてらっしゃる。人の思考を客観視する能力がおありなんですね、きっと。」

「話をそらすんじゃねえよ。俺の質問に答えろ。何を、したんだ!」

俺は西條先生の口から、何をしたのかを聞くまで信じるつもりはなかった。俺は信じていたかった。生徒とまっすぐに向き合っていたはずのこの人を。

「私は。銀とマグネシウムを使って、近衛君と神野さんにけがをさせてしまいました。すべて、桐生先生が想像されていた通りだと思います。脅迫状を出したのも私です。文化祭を中止にするためでした。」

俺はこの人を、対策室担当になってから、少なからず信頼していた。こんな裏切り方をされようとは。

「何でだ・・・あんなに文化祭の準備も頑張っていたじゃねえかよ!文化祭だけじゃない!あんたは生徒のためなら目上の教師にも食って掛かれるほどの信念をもってたじゃねえかよ!なんでだ!今回のあんたの行為は、真逆じゃねえかよ!」

「なぜか・・・は答えません。あなたには関係ないことですから。職員室に連れて行くなり、警察に突き出すなり、ご自由にどうぞ。」

俺は絶望した。関係ない、だと? 信頼していたのは俺だけだったのか?あまりに西條先生の言葉が冷たく、俺の心に突き刺さる。

「あんたは、何も言わずに逃げるのかよ。ここまでのことをしといて、対策室の俺に、何も言わないで逃げるのかよ!」

俺は心の底から祈った。西條先生が俺に心を許し、全てを話してくれることを。

しかし、西條先生からかえってきた言葉は、またしても俺のことを突き放すものだった。


「私に、対策室は不要です。」


俺は頭が真っ白になった。

もう、いい。この人を職員室に連れて行けば、あとはどうにでもなる。

俺は、この人をあきらめた。

この人もただの人間だったんじゃないか。

信用なんかできない、人間の一人だったんじゃないか。


待て、桐生。俺は対策室の担当になって何を学んだ。悩みを持った生徒の相談を解決すること、不安を除去することに満足感を覚えていたんじゃないのか。教師であろうと同じことだ。

俺の周りの人間は、俺をあきらめただろうか?いや、美智も、ロボも、南も酒田も、アイツだってあのころの俺を気にかけてくれてた。

今俺が西條先生をあきらめたら、彼女だけではなく俺もあのころに逆戻りするんじゃないか?

そもそも、あの西條先生の様子がおかしいことに、もっと疑問を持つべきだ。

西條先生がこんな人間だったと憂う前に、なんでこうなったかを追求しなければならない。

西條先生をまだ信じるならば、その材料はまだ残っている。

「待てよ、西條先生。」

「なんです?もう話すことはないんですが。」

「あんたには共犯がいるか?」

俺の問いは当たっていたようで、西條先生は明らかに辟易している。

「な、何をいってるんです・・・!」

「これも確証はない。だが、美智が爆発の瞬間後ろに長身の男を確認している。」

そう、その男と西條先生に何か関係があるんじゃないだろうか。

「そ、そんな人知りません!関係のない、通りかかった人じゃないですか!?」

「俺自身、どういうことかはわからない。廊下で見かけたその男は、美智とは逆方向の校舎のほうへ行ったんだ。通りかかったでは済まされないと思わないか?あのタイミングで保健室から出てきて、校舎へ逃げていく人影を怪しむのは当然だ。」

「・・・・」

「俺はあんたの口からききたいね。どの道、俺は真相にたどり着いてはいない。その程度の平凡な教師さ。だからこそ、他人とのつながりを大切にしている。武藤たちがどれだけ切実に文化祭を成功させたいと思っているかわかるか?あんたがまだ教師としての心を持っているというなら、あんたもそのつながりを大切にしてくれないか。」

俺には分かる。西條先生は今葛藤している。俺の指摘は真実だ。あとは西條先生が一歩踏み出すだけなのだが・・・

「私。あの・・・」

「!」

「私は、教師になる前、ある研究所で手伝いをしていました。」

そうだったのか。現役で教師になったのかと思っていた。

「その研究は、人の心の研究で、それはひどいものでした。目を覆いたくなるような、非人道的な実験。話すのも苦痛なほど、子供たちを傷つけた。最低最悪の記憶です。」

まさか、現代では想像もつかない実験が行われていて、それに西條先生が参加しているとは。心理学研究は褒められたものではない実験も数多くあると聞くが・・・

「私はそこで、本当の意味での絶望を知ったんです。だから、贖罪の意味を込めて、教師になったんです。教師になって、今度は子供たちを助けようって。」

それが西條先生のあの熱意につながっていたわけか。その熱意がぶれてしまう出来事。共犯の男は何者なんだ?

「そんな時、私の過去を知っている人が、私を脅しにやってきたんです。あの実験の時、私が子供に言われたある言葉を、彼は知っていた・・・ 私、もう従うしかなかった。従わないと、教師として頑張ってきたことが壊されてしまう。そう、思ったんです・・・」

「・・・何を命令された?」

「まずは脅迫状を。そこで終わってくれたらよかったのに、命令は続きました。一通目を手書きで書いたのもばれて、二通目はワープロで打てと命令されました。そして、爆弾に使える薬品の提供を。」

そうか。一通目の手書きは、きっと西條先生なりのSOSだったのだ。警察に行ったときに、自分が捕まることで芋づる式に真相が発覚するように。

「悪いな、俺が警察に行ってればよかったのかもしれない。そうしたら、あんたを早く救ってあげられたのに。」

「そんな!桐生先生が謝ることじゃありません!先生は、武藤さんたちを助けようとした。私は保身のために武藤さんたちの思いを踏みにじった。許されることではないとわかっていました。」

西條先生のことだ。きっと一人で思い悩んでいたんだろう。

「何で、俺に相談しなかった・・・?」

「え・・・?」

「俺は頼りないかもしれない。だが、見くびるんじゃねえぞ。俺だって、人の力になれるんだ。まだ対策室はいらねえなんて言いやがるなら、俺はあんたを許さねえぞ。」

俺の言葉に、西條先生は我慢していた何かが切れたように、わんわんと泣き出した。

女を泣かせる趣味はないので、俺は相当焦った。言いすぎてしまったんだろうか。

「ま、まて。言いたいことはそういうことじゃなくてだな・・・ん・・・と!あのな!」

焦りすぎてどもってしまった俺を見て、西條先生に笑顔が戻った。

「ふふ・・・違うんです、うれしくて・・・」

よかったみたいな空気になっている。いや、それ自体はいいのだが、まだ解決してないことは山ほどある。

「西條先生。」

「あ!すみません桐生先生!神野さんにはちゃんと謝りますから!」

そういうことではなく、まだ共犯の正体が・・・   !

いや、これまでの情報が示している人物。俺はそいつを知っている。

だが、完全に矛盾することがある。それはその人物の前提を覆すことになる。

そして、今西條先生と話したことで、犯人を絞り込むことは可能だ。

この真実は何を意味するのか?

「桐生先生・・・?」

「西條先生、まさか、あなたを脅した人は・・・」

長かった事件も終わりに近づこうとしていた・・・











なんかゴチャゴチャしてきましたねw

もうすぐ終わります! まあ薬品は雑に決定したのでご勘弁を。

あと2話くらいかな?

あっちサイドも終わらせとかないといけないのでね・・・

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