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三話 捜索(後)

 いよいよ手芸部の部室に来てしまった。なぜか夏川のほかに近衛もついてきてしまっている。説明すんのがめんどくさいじゃねえか。

「何やってんだよきりっち。」

「早く開けろよきりっち。」

こいつら・・・

手芸部は2人しかいないということで、同じく2人しかいない演劇部と部室が共同らしい。手芸部はともかく、2人で演劇なんてできるんだろうか。

そんなことを考えながら、部室のドアを開けると、当然なのだが4人の人間の姿が見えた。

「先生、来てくれたんですね!」

武藤が駆け寄ってくる。次いで身長が最も高い好青年が近づく。

「桐生先生が対策室の担当だったんですねー!いやあ、意外だなー。」

俺はこいつを知っていた。3年2組の木嶋翔だ。見た目はお調子者のような感じだが、意外に成績がいいので覚えている。相当珍しいことだが。しかし、この木嶋が手芸部で人形を作ったりしているのか。あまり想像はできないな。

「木嶋先輩、きっと桐生先生が何とかしてくれますよ!」

「そーそー。爆弾くらいきりっちにかかれば一発だ!」

まあそんなに期待されても困るんだが。近衛まで乗っかりやがって。それに、武藤を見ているとこっちが照れてくる。木嶋への好意が見え見えだ。木嶋は鈍感な感じなので気づいてないようだがな。

そんな武藤を後ろで見ていた、小柄な少年がむっとした顔で俺のほうへ来る。

「そんなところで無駄話してる場合じゃないでしょう。一刻も早く人形を調べてもらうべきです。」

まあ消去法で考えて、演劇部の部員の一人なんだろうが、生意気そうなやつだな。優等生タイプか。確かに制服の着こなしもそれっぽい。髪は短めだが、少し茶色がかっているのが意外なところだ。

「ご、ごめんね、相澤くん。」

武藤が謝る。ため口ってことは、一年生なんだろうな。まだ子供っぽさが抜けていないのが顔立ちからもわかる。

「まあいいじゃん。イタズラの可能性も高いんだからさー。そんなにカリカリしなくてもいいだろー?相澤ー。」

「き、木嶋先輩・・・く、僕は別に・・・そんなつもりでは・・・ただ・・・」

ははあ、こいつ、きっと武藤が好きなんだな。武藤と同じくらいわかりやすい。

「ごめんねえ。うちの良がカリカリしちゃっててニャー。」

ニャ、ニャー?最後の一人はこの中で一番背の低い、武藤よりも低い女子だった。

「良もお年頃ってやつだからワン。許してやってほしいチュン。」

ワン?チュン?なんだこの不思議系女子は。見た目は割と普通で、髪を二つに束ねている。もしやと思うが演劇部の部長なんだろうか。だとしたら相澤の心労は相当なものなのではないだろうか。

「まーた新しい遊びかよ浅野。飽きないねえ。」

「遊びとは失礼ブー、木嶋。若葉式幸せゲット法と呼んでほしいガルルルル。」

「浅野部長!その珍妙なしゃべり方をやめろと何度も言ってるでしょう!恥ずかしいじゃないですか!」

「恥ずかしくないぞ良グへアアア。語尾動物鳴き声幸せゲット法で幸せをつかむのだデローーーン。」

「何の鳴き声なんですかそれ!!」

しかし、個性豊かな面々だな・・・今まで黙ってた夏川と近衛が口を開く。

「ろくなのがいねえなあ・・・」

「まったくだ・・・」

お前らに言われたら終わりだよ・・・


「あ!お前3組の相澤良じゃねえか!」

夏川が急に大声を出したと同時に相澤がひるむ。

「君は4組の夏川に近衛!な、何でこんなところにいるんだよ!」

「俺はきりっちの優秀な助手になったんだ!」

いや雇った覚えはないのだが・・・

「俺は爆弾騒ぎが面白そうだから来たんだ!」

近衛・・・それもどうかと思うのだが・・・

「それよかお前、分かったぞお!武藤先輩のことが・・・」

「ちょっとこっちで話をしようか夏川君!」

俺たちを部室の外へ押し出す相澤。夏川だけでいいだろうが。デリカシーないのはそいつだけなんだから。

「夏川君。余計なことを言わないでもらえるかな?」

「なんだお前!キャラが違うじゃねえか!やっぱり好きなんだろ~!」

ほんとに人の心にズカズカ入ってくるやつだな。ある種才能かもしれないが。

「じゃあなんで武藤さんと同じ手芸部に入らなかったんだ?」

近衛の疑問ももっともだと思う。武藤のことが好きなのに、なぜ同じ部に入らなかったのか。入って活動していくうちに好きになったのだろうか。

「にゅ、入部勧誘の段階で分かったんだよ。武藤先輩が、木嶋先輩のことが好きだってことがさ。そんなところに入ったって、みじめになるだけじゃないか!」

だから共同で活動することの多い演劇部に入ったというわけか。

気持ちはわからなくないが、木嶋のほうはそんなに武藤を意識してないのだから、武藤にアピールすることはできたはずだ。まあ、奥手なんだろうとは思う。

「良。一番邪魔してるぞぱおーん。爆弾の有無を調べてもらうんだろ?あ、先生おはつにお目にかかります、3年3組の浅野若葉でっすごろにゃーん。」

そうだ、しゃべり方に突っ込む場合ではなく、爆弾を調べなければならないのだ。

とりあえずロボの到着を待つかと思っていたところに、ちょうど南が入ってくる。

「やっほーせんせい。ロボ君のマシン重過ぎ!結局持たせてきちゃった!」

じゃあ何しに来たんだよ!といいたいところだったがロボも後からくるようだし、久々の母校にテンションが上がっているのだろうと、咎めるのをやめた。

「あんまり先先いかないでよ、南ちゃん。」

遅れてやってきたロボは中くらいの段ボールくらい大きさの機械を持っていた。まさかそれで爆弾の有無がわかるのか?

「ま、こいつらは俺の知り合いなんだが、爆弾があるかどうかを調べてくれる。ある程度の信頼は置けるやつらだから、心配はしないでいいと思うぞ。」

「わざわざすみません・・・でも、すぐにわかりますかね?今回の劇は白々デレラなので、結構人形の数があるんですけど・・・」

俺とロボ、南は目を合わせる。言いたいことは一致していた。白々デレラってなんだ。

俺らのそんな空気を察したのか、相澤が口を開く。

「白々デレラとは、僕と浅野部長の頭をフル回転させてつくった演目です。聞いての通り、白雪姫とシンデレラをコラボさせたものなのですが、白を強調するために白々と重ねさせていただきました。」

最近よくあるコラボはいい。が、白雪姫は雪のように白く美しいという意味なのだ。なのに雪という文字を入れなくてどうする。白々しいシンデレラみたいになるではないか。全然かわいそうなかんじがない。

俺がそんなどうでもいいことを考えていると、ロボが説明しだす。

「数は関係ないから大丈夫ですよ。一発ボタンを押してあげれば、瞬時に爆弾の有無がわかるようになっていますので。まあ、金属探知機みたいなものと思っていただければ。」

マジでそんなものを一人で作ったのか?

「ここに爆弾はないようですね。」

「ええ!もう調べたのかよ!」

あまりの速さにその場の全員が突っ込む。

「一応部屋全体も調べましたが、爆発物の反応はなかったので、やはりイタズラでしょう。これでよかったですか?先生。」

「あ、ああ。ありがとうな・・・」

どんな仕組みなのか聞こうと思ったが、やめた。どうせ俺には分からない難しいことを言われるに決まっているのだから。

ま、白々デレラは気になるが、人形自体は魔女や姫、小人などを可愛くアレンジしたものなので、そう珍しいものではなかったので、大丈夫だろう。

「やっぱりイタズラだったんですね!よかった!これで安心して文化祭のけいこができます!あと一週間を切ったので、焦っているところだったんです。」

しかし、まだ油断はできない。何者かが文化祭を中止にしようとしたのは事実だ。少しのイタズラならば大丈夫だろうが、この脅迫には少なからぬ悪意が潜んでいると俺は感じる。杞憂ならばいいのだが。

「まあ、犯人が見つかるのが一番なんだがなあ。警察にでも行かない限り、筆跡鑑定もできないだろー?」

木嶋がそういうと、浅野も乗っかって話し始める。

「そうだニョロ。この手紙は手書きだパンダ。詰めが甘い犯人さんなんだガオオ。」

「そうか、筆跡かあ。」

近衛が声を漏らす。

浅野、パンダの鳴き声はパンダではない。それはともかく、筆跡については同感だ。軽はずみのイタズラならば納得できるが、明らかな悪意を持っている人物が、筆跡に気が回らなかった。現代にはこんなにもパソコンが普及しているというのに。そこまで頭のまわらなかった理由があるということか?


「わかったーーー!!!」

「うるせえ!」

急に大声を上げたのは夏川だ。嫌な予感しかしない。そんな夏川をよそに近衛は人形をいじくっている。壊すなよ、爆弾がなくても公演できなくなるかもしれねえからな。

「何がわかったのか興味はありますね。聞いてみてくださいよ、先生の助手さんなんでしょう?」

「だいじょうぶかな~?みるからにバカっぽそうなんだけど?」

助手ではないし、初対面でひどすぎるだろう南。

「犯人がわかったんだよお!!!!」

は?

「なんだって!ほんとかよ夏川!すげえ!」

「任せとけ近衛。俺は1年4組の誇りさ!」

自分で言うもんでもないだろう。が、まさか、本当に・・・?

「ちょっと部会がありますので、代表として私と浅野先輩が行ってきますね!」

「行ってきますパラリラパラリラ~」

夏川の推理を聞かずして、武藤と浅野は行ってしまった。パラリラはもはや動物ですらないだろう。いや、暴走族を人間ととらえ、人間を動物ととらえれば・・・・バカか俺は。今日はどうでもいいことを考えすぎだ。

「と、いうか木嶋君が部長じゃなかったっけ。」

南が口を開いた。

「南、木嶋を知ってるのか?」

「うん。私の友達が手芸部だったんだよ。で、2年後輩が木嶋君だったってわけ。たまに遊びに来てたからね~。浅野さんのことも知ってるよ?」

そうだったのか。新事実だ。

「いやあ、もう世代交代っつーことで、武藤にいってもらってるんすよ。それよか久しぶりっすね~。あ、杉谷先輩は元気ですか?最近遊びに来てくれないんで文化祭に招待してるんすけど。」

「だあああああ!どうでもいいんだよ!いいから俺の話を聞けって!」

「ふん、まだいってるのか。みただろう夏川。誰もお前のことなんて信用してないんだ。」

きついことを言い出す相澤。怒り出すかと思ったが、なぜか夏川は笑っている。

「はははははははは!」

「なんだ?ついにおかしくなったか?」

「茶化すなよきりっち!しかしよゆうだなあ相澤。もうばれないと思ってるんだろ?お前がこの事件の犯人だって!」

「・・・!」

相澤が爆弾騒ぎの犯人・・・?どういうことだ?

「ば、バカ言うな!どうして僕がそんなこと!」

「自信満々にいってますね・・・それ相応の根拠があるんですか?」

「もちろんだ!これは悲劇の愛憎劇だったんだよ!文化祭公演だけに!」

うまくねえし、何のドラマ見たんだこいつ。

「見ての通り、相澤は武藤先輩が好きだ。」

「おおおい!何こんなところで!」

「それはみんなわかってるけど~。」

「ええ!ば、ばれていたのか!」

そりゃそうだろう。あの話し方や視線は明らかに武藤を意識している。

「で、武藤先輩は木嶋先輩が好きなんだろ?爆弾騒ぎ隠してまで公演を成功させたい。そうすると二人の仲は深まっちゃうって考えたわけだ。つまりお前は、二人の仲を引き裂くために、こんなバカなことをしたんだ!俺は悲しいよ・・・こんな悪い奴が同級生にいるなんて・・・おとなしく警察に行こう。」

「なるほど!頭いいね君!警察行こう警察!」

「い、行くわけないでしょう!ふざけるな夏川!そんなの理由になってないじゃないか!」

相澤が必死で抗議する。つーか南まで夏川に加勢してどうする。

「確かに、具体的な証拠は何一つありませんね。他に何か根拠はあるのですか?」

ロボは真剣に夏川の話を聞いているようだ。まあ夏川の推理もわからんでもないが、あまりに稚拙すぎるだろう。第一、相澤だって公演を成功させたいはずだ。4人のうちの一人なのだから。

「ほかの根拠?ないよ。だって思いつきなんだしさ。」

こいつ、舐めてるんだろうか。いや、こいつなりにマジなんだろうな。ある種国宝級だよこいつ。バカさ加減が。

「な、なんなんだお前は!そんな雑な考えで僕を犯人にするんじゃない!」

「ちぇ、冗談じゃんかよー。」

「あ、冗談だったんだ・・・私てっきり・・・」

とんだ茶番劇だったな・・・

「とにかく、バクダンはなかった。これでお前らも安心だろ。さ、下校時刻は過ぎてる。帰んな。」

「ありがとうございました~」

「夏川・・・覚えておけよ!」

いろいろあったが、爆弾騒ぎもイタズラで終わってよかったな・・・

「ロボと南もありがとうな。帰りになんかおごってやるよ。」

「マジで!?せんせいお金あるの?」

「月の最初じゃないとおごってもらえませんよ・・・」

お前ら俺をなめてんのか!と突っ込もうとしたとき、廊下を走る人影があった。

あの長い黒髪と白衣は・・・

「西條先生・・・?」

彼女が急いでいるなんて珍しいことがあったもんだ。何かあったんだろうか。。その顔は今まで俺が見たそれとは違っている。明日にでも話を聞いてみるか。




 とあるマンションの一室

「爆弾、爆弾、爆弾ねえ・・・」

青年はもう30分も考え込んでしまっている。岡本が爆弾騒ぎの話をしてからずっとこうだ。

「あのー、話がないんだったら帰ってもいいかい?」

「我慢弱い人だね。俺がせっかく君の大好きな楽しいことを考えてやってるっていうのに。」

だったら考えがまとまってから呼んでくれ、と岡本は思ったが、確実に矢が飛んでくるので黙っていた。

「今回は俺も予想外だったんだよ。俺の計画以外で何か起きてるみたいだし。前の剣道部のやつとは決定的に違うもんね。」

「ああ、どうせイタズラだろうからなあ。おそらく大して面白いことにはならんと思うなあ。」

「バカだなあ新さんは。だからこそ、俺が面白く脚色するんだろう?これほど俺が生きがいを感じる瞬間はないんだ。」

性質の悪い生きがいを語る青年を黙って見つめる岡本。

またしばらくして、青年はうれしそうな顔で話し始めた。

「そうだ、思いついたよ。仁義さんにやってもらおうかな。」

「赤間のダンナに?日本に帰ってきてるのかい?」

「シリアで一仕事終えてきたみたいだけどねえ。彼に面白くしてもらおう。」

岡本も思わず笑みを浮かべるが、青年にある疑問を投げかける。

「それは今の状態より幾分面白くなりそうだが、ダンナに頼んじまうと、大惨事になりかねないんじゃないか?俺も一応教師だからな。あんまり大事にされると困るんだがなあ。」

「あのころと変わらず臆病だよねえ新さんは。大丈夫だよ!仁義さんは人の死に興味があるわけじゃあない。人の苦しみに興味があるんだからさ!」

だから困るといっているのだが、この件で死人が出ることはなさそうなので、岡本は良しとした。

「で、今回のテーマは何なんだい?もしかして、急すぎて適当になってるんじゃないだろうね?」

「バカな。俺を誰だと思ってる?あの先生を煮るも焼くも俺の手の内にあるんだ。あの先生がどんな反応をするのか。俺はそれが楽しくて仕方がない!」

青年は立ち上がり、窓を開く。少し肌寒い風が部屋に入ってくる。

そして、岡本のほうを振り返りながら不敵な笑みを浮かべる。

岡本は思わずゾッとしてしまった。その笑みからは、純粋な興味しかうかがえない。悪意がないのだ。これから起こそうとするとある事件への。


「今回のテーマはねえ・・・『油断』だ。」



さて、基本的に人物の名前は思いつきですので、弱っております。

青年の名前も今は伏せてますが、いつか出ます。その時につけることになると思います。

ではでは。

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