八話 団円
いい報告ができそうだ、と思っていたら、呼び出しがかかった。
生徒指導の豊田と教頭が鬼のような顔で職員室似た時はびっくりしたなあ。
廊下で起きた爆発について聞かせてほしい、ということだったが、「知らねえ」って言っといた。
被害者が俺の知り合いってことで、事情を聴きたかったんだろう。
近衛の爆発の件は白木がごまかしといたんだろう。豊田たちは知らないようだった。
この感じなら文化祭を開催できるだろう。
・・・といういい報告をしようと思っていたのだが、遅くなりすぎて全員帰っていた。
なんて薄情なやつらだ。まあ生徒たちはしょうがないが、美智やロボも帰りやがって。こいつらのおかげで解決したのもあるから強くは言えないが。
「しょうがない、西條先生、飲みにでも行きますか。」
「え!」
校門のところで硬直してしまう先生。
「あ、お酒は嫌だったか?」
「い、いえ。そういうことではないです!まったく!・・・・ふ、二人でですか・・・?」
なるほど。西條先生の反応に合点がいった。
「二人は嫌だよな。じゃあまた今度に・・・」
「いいえ!!行かせてください!」
なんだ、二人きりが嫌じゃなかったのか。しかし必死だな。まだ近衛の件がショックなんだろうか。
俺たちは近くの飲み屋に向かっている途中だ。
「今回は、本当に申し訳ありませんでした。」
「ん~?いや、いいって。近衛のやり方は本当に汚かったからな。ま、研究してた時に何があったかは知らねえし、聞かねえ。でも、先生がそんな奴に従う必要はなかったと思うけどな。」
「そう。やっぱり私の弱さが原因なんです。美智さんやみんなに謝らないと。教師を続けることも悩んでいるんです。このまま続けてもいいのかなって。」
あれだけのことがあった後だ。そう簡単に立ち直れるわけないな。が、言っておきたいことは言っておこう。
「大丈夫だって!美智のバカは丈夫だし、手芸演劇のやつらも、文化祭にうきうきしてるだろうさ。」
「でも・・・・」
「むしろ、謝らないでやってくれ。西條先生は、生徒たちの理想であってくれ。今回は間違えてしまったかもしれない。でも、その後悔を引きずらずに、教師の鏡であってくれよ。」
「桐生先生・・・」
「あああああああああああああああ!!!」
俺がそこそこいいことを言った後に、大絶叫が聞こえる。なんなんだ。厄介ごとはごめんだぞ。
「せんせい!」
「ぐっ!」
俺の背中に猛烈な勢いでダイブしてきたのは、アパートの隣人の少女、南だった。
「今日なにもいいことなかったけど、帰り道にせんせいに会えたあ!占いあたったのかな!?」
「・・・俺はたった今嫌なことがあったがな・・・」
相変わらずの猪突猛進ぶりだ。5年前から変わっちゃいない。
「南。お前、もう7時回ってんぞ。いくら親父帰ってこないとはいえ、夜遊びはダメだろ。」
「違うよー。補習だったの!また赤点でさあ・・・」
「またかよ!あれだけ教えてやったのに・・・」
無邪気な笑顔で語る南の顔が急に変わった。なんだ?腹でも痛くなったのか?
「・・・この人だれ。」
南が指をさしたのは、隣で笑っていた西條先生だった。
「こら。指をさすな。この人は同僚の西條先生だよ。」
「こんばんわ。西條です。よろしくね南ちゃん。」
「・・・よろしく。」
南は明らかに不機嫌だ。なんだこいつ。
「もう遅いから早く帰ろうよー。そうだ!また歴史教えて?」
「ああ、悪いな南。これから先生と飲みに行くんだよ。また今度な。」
「え・・・」
南はうつむいたかと思うと、急に顔をあげて言った。
「だめ!」
「・・・あ?」
だめってなんだ?
「だめだよせんせい!もう7時回ってるんだよ?遅くなる前に帰ったほうがいいって!」
「それはおまえだろ!俺は大人だからいいんだよ。」
「わたしだって飲みに連れてってもらったことないのにいいい!」
「お前は未成年だろうがあああ!」
なんだかコントみたいになってしまった。西條先生あきれてるんじゃないだろうかと思ってみると、いまだほほえみを浮かべていた。
「ふふ・・・仲いいんですね。」
「むむ・・・大人の余裕だ!くうう・・・」
こいつはさっきから何語をしゃべってるんだ。意味が分からない。
「お前どうしたんだ?変なものでも食べたか?」
「う、うるさいな!いいからせんせいは帰るの!」
「お、おい引っ張るな!」
「いいですよ、桐生先生。またいつでもあいてますから、改めて今度お願いします。」
西條先生は空気を読んだようだ。
「悪い。また文化祭のあとにでも。」
「ふん!またなんてないかもね!」
なんつー態度だ。お前のために飲みがおじゃんになったんだぞ。
「お前、今度会ったら謝れよ?」
「せんせいは大人の女のほうがいいんだ。スケベな男なんだ。」
帰り道。南はいまだ不機嫌なままだ。
「西條先生のほうが年下だ。あと、誰がスケベか、ガキが。」
「そうやっていつも子ども扱いするんだから・・・」
「あ?なんて?」
「何でもないよ!帰ろ!」
また俺の手を強く引っ張る南。イタイイタイ。
「ぜったい、負けないから・・・」
アパートに到着すると、そこは地獄絵図だった。
「カイ~。早くビール持ってきなさいよお!」
「美智子さん。もうやめましょう、先生の冷蔵庫はもう空ですよ・・・」
「ああ?だったら買ってきなさいよお!!」
ベロンベロンの美智子とそれに振り回されているロボ。
「何やってやがる・・・」
「あ、先生・・・ちょっとなんとかしてもらえますか?」
「あ~!きるう!もっと酒用意しときなさいよお!」
ろれつが回ってない。危険だ。
「私がせんせいに晩酌するつもりだったのに!」
南も相変わらずほざいている。缶ビールで酌もクソもあるか。
「お前らいい加減俺の部屋に集まるのやめろ!」
「先生、解決したみたいですね、今度こそ。」
美智子は俺とロボに買い出しを命令しやがった。ロボと二人で行ってきた帰り道である(ちなみに美智は千円を俺に投げつけたが、もちろん足りなかった)。
「ああ、お前には本当に世話になった。ありがとうな。」
「やめてくださいよ。先生には散々お世話になったんですから。」
そんなに世話したか俺?まあそういってくれるのは悪いもんじゃあないな。
「でも、先生の周りで悪いことが起こるたび、僕は気が気じゃないですよ。」
「ん?」
「いえ、でも、気をつけてくださいね。悪いことは続くものです。先生なら大丈夫かとは思いますが・・・」
「お、おお・・・」
ロボのやつ、少し心配性すぎやしないか?もう近衛は出て行った。爆弾騒ぎは起きようもない。
だが、実は俺もまだ引っかかることが二つあった。一つは「あの女」だ。
あの女が何をたくらんで近衛に手を貸したのか。そもそも校内のどこに潜んでいるというのか。
今更俺に何の興味があるというのか。これは近衛にも言えることだが。
もう一つは岡本先生だ。あの口ぶりは何かを知っている。俺はそう確信していたのだが。
近衛の爆発の件を報告した時の様子からすると、彼はこの件に関係していないのか?それとも、近衛が言っていた別の勢力のメンバーなのか?
5年前・・・・が発端なのか?
「やーーっと帰ったわねきるう!・・・?」
「ロボは途中で大学に戻ったぞ。ほら、飲みすぎんなよ。ん?南はどうした?」
「宿題忘れてたーって部屋に戻ったけど・・・あんたどうしたの?」
美智が俺の顔を覗き込む。酒臭い。
「ん・・・ちょっとな。それよか、悪かったな、怪我させちまって。」
「それはあんたのせいじゃないでしょ?」
「・・・美智。お前に怪我させちまったやつはな、猛省してたよ。誰かに命令されたとはいえ・・・ってな。だから、許してやってくれないか。被害者のお前にこんなこと言うの、間違ってるってわかってる。だが、頼む。」
俺が頭を下げると、美智は目を丸くした後、笑った。
「何よ、らしくないわね。あんたはふてぶてしくしてればいいの!それに、私は何もされてないわ。跡だってのこらないんだもの。あんたこそ、何悩んでんだか知らないけど、シャキッとしなさい!」
「・・・ありがとう。」
「まったく・・・あんたは女には基本優しいんだから・・・」
「あ?」
「何でもないわよ!ほら飲むわよ!」
そういうとビールを一気飲みしてしまった。俺も今日は疲れたんだが、付き合うとしよう。今日くらいはな。
「せんせい!歴史教えてよお!ペリーが織田信長と戦うとこなんだよお!」
「全然時代違うじゃねえか!あってんのかその宿題の情報!?」
騒がしかった今日は騒がしく過ぎていくようだ。大家のババアがいなくてよかった。あと、酒田が此処にいればさらに騒がしかったろうな。よかった、旅に出てて。
いよいよ日曜日は文化祭。人形劇は成功するといいな。
「どうしたお前ら!?」
文化祭当日。俺は驚いていた。というのも、手芸演劇部の木嶋と相澤が絆創膏だらけだったからだ。
「いやー。気にしないでくださいよ!」
「ええ!気にしないでください!」
なんか息があってるな・・・
「おい武藤に浅野。何があったんだ?」
「いや、その・・・」
「公園で青春?ってやつだにゃあ。」
意味が全然分からん。
「とりあえず、僕たちは団結して今日の公演を成功させます!」
ものすごい気合いだな、相澤。みんな心なしか晴れやかな顔をしている。爆弾騒ぎが解決したからだろうか。それとも他に何か・・・
「きりっちーーー!!!」
「うるせえ!」
すごい勢いで走ってきたのはやはり夏川だった。
「俺のいない間に爆弾の犯人見つけたんだって!?ずりいよ!」
「ああ・・・お前いなかったんだっけか。」
というか、何か忘れてると思っていたが、こいつには近衛についての説明をしとかないと・・・
「あのな、夏川・・・」
「つーか近衛知らねえ?HR来なかったからさあ。まあ俺らのクラス展示だから別にいいんだけど!おかもっちが当日いねえから楽しいこと出来ねえんだって!つまんねえよなあ・・・」
「・・・」
「どうしたんだよ、きりっち?変なものでも食べたのかよ!?」
「あのな、夏川。近衛はな・・・自分の星に帰ったんだ。」
は・・・?きっと一同そう思ったことだろう。どうした桐生と。しかし、夏川のは?のベクトルは違っていた。
「マジか・・・ アイツ宇宙人だったのかよ・・・!身近にUMAがいたなんて・・・チクショウ!もっと話を聞いておくんだった。」
は・・・?どうした夏川。と一同はなっているが、俺からすれば予想通りだ。
「そうだったんだなあ・・・ひとこと言ってから帰ればよかったのに。いやむしろ俺を連れてってくれれば・・・」
「せ、先生?」
「気にするな。すべて解決した。おい夏川。お前といて楽しかったとさ。」
「え!?宇宙人に感謝されるなんて!俺今すごいテンションあがってるよきりっち!」
「そーかそーか。俺もうれしいよ夏川。」
俺と夏川しかわかってないワールドだ。俺も乗ってしまった手前引き返せなくなってしまった。
「それよか、まじで先生ありがとうなー。」
「そうでした!私、対策室に相談してよかったです!」
「夏川はともかく、ありがとうございます、桐生先生。おかげでいい公演ができそうです。」
「こいつらも仲直りしたし、白々デレラ頑張るワン!」
おお・・・やっぱり感謝されるのは慣れない。が、こいつらの力になれたなら、それはなによりだ。なりゆきでなった対策室だったが、今は非常に充実している。それはこいつらのおかげでもあるんだよな。
「よし、じゃあお前ら、文化祭楽しんで来い!」
長くなりそうなのでいったん切ります。