プロローグ
いよいよ2作目です。
学校対策室!を読んでからお越しください。
子供たちは僕が思っているほど、純粋なものではなかった。
その闇は深く根ざしていて、僕が少し助けようとしただけでは、払われないほどに濃い。
助けられると思っていたんだ。いや、助け終わったと思って、少し満足していたのかもしれない。
子供の様子というのは、すぐにかわる。だから、解決した後も、もっとあの子を見ていなければならなかったんだ。それを怠った僕は教師失格なのかもしれないね・・・・
「ああ、寝れねえじゃねえか。」
11月も中旬になり、いよいよ文化祭の準備も本格化してきた。おかげで放課後の喧騒が倍になっているような気がする。俺のブレイクタイムが減ってしまうじゃないか。
せっかく西條先生の目を盗んで対策室から逃げてきたというのに。
対策室とは、生徒の悩みを聞くために、2~3年前に設置されたものだ。訳あってひと月ほど前からそこの担当になっているのだが。詳しくは①のほうを読んでいただきたい。つーか読んでから来い。
1巻読まずに2巻来るやつがあるか。バカ野郎。
ま、最初の相談を初週で解決できたまではよかったのだが、それ以来全然相談がない。
例外的にたまに来る夏川というお調子者がいるが、あれは相談ではない。愚痴だ。
さすがにガキの色恋の愚痴を聞いてられるほど暇じゃない。現時点では暇なのだが。
というか、役職をいやいややっているとはいえ、あまりに暇だと気がめいるのが人間の不思議なところだ。
「桐生先生!あなたはここに来るしか能がないんですか!」
失礼なことを言いながら屋上に入ってきたのは、西條先生という、黒く長い髪をたなびかせている女教師だ。
しかし、その服装はいつもと違う。
「耳が痛いよ・・・あれ?西條先生、何で白衣なんか着てるんだ?」
「6限が実験だったんです!え・・・もしかして私が理科教師って、知らないわけじゃないですよね・・?」
ヤバい空気だ。しかし西條先生は理科教師だったのか。雰囲気から国語っぽいなと勝手に想像していた。
「それより、文化祭の準備は大丈夫なのか?」
「また話をそらして・・・文化祭は順調ですよ。部活ごとの出し物の準備も着々と進んでいます。」
そりゃよかった。ま、ここに来れる余裕があるなら大丈夫だということか。
「いいから、早く対策室に戻りますよ!」
「ひ、引っ張るなよ・・・」
日曜日。久々にゆっくりと休めるような気がする。先週は前の相談中にほったらかしだった仕事をいっぺんにやったからな。
さて、11時だが、昼寝をするとしよう。
コンコン
誰だ俺の安眠を妨げるのは・・・
コンコン
うるさいな、無視だ、無視。
「起きろおおおおおお!!!」
「うお!?」
大きな音ともに入ってきたのは、隣で父親と二人で暮らしている女子高生だった。
というか、ドアをぶち破りやがった・・・
「何しやがんだてめえ!また和子のババアにどやされるだろうが!」
「いくらノックしても起きないのが悪いんでしょ!?」
しょうがない奴だ・・・5年前に俺がこのアパートに来た時から、何も変わっちゃいない。
「で、何をしにきやがった南。どうせくだらねえことなんだろうが。」
「失礼だなあ。最近せんせーが忙しそうにしてたから、さみしかったんだよ?」
「俺はさみしくないんだよ。折角の休みなんだから、ゆっくりさせろや。」
南は頬をふくらませて、すねている、という感情を表現しているようだ。可愛くないぞ。
「つれないなあ。ロボ君も心配してたんだよ?」
「あ?あいつが?つーか戻ってきてんのかよ。大学に寝泊まりしてるんじゃなかったか?」
ロボ君は、南が小学生の時につけたあだ名で、もちろん本名ではない。
本名は芦屋快。大学2回生で、文学部に所属していながら、ロボット工学の道に目覚めるという、ちょっと変わったやつ。自作のロボットの性能を他5部屋の住民で試すというとんでもない奴でもある。
「とにかく明日、みんなでパーティーするんだからね!明日は父ちゃんも夜勤だし、どんちゃん騒ぎだよ!」
「は、パーティー?なんのだよ。クリスマスはもうちょい先だろうが。」
実はこのアパートの連中は合同でイベントやるのが好きらしく、俺もほとんど参加させられている。
ぶっちゃけ、この歳になって豆まきだの、ひな祭りだのやりたくないのだが。
「何言ってんのさせんせい!明日は美智姉の誕生日ジャン!プレゼント忘れてたら殺されるよ~」
「げ!」
美智姉もとい、神野美智子。俺はこいつを20年前から知っている。腐れ縁でもまだ俺らの関係を言い表せない。その辺のことを説明すると長くなって面倒なので割愛するが。
「やっぱり忘れてたんだ!ひと月も前から言ってたのに。美智姉も言ってたじゃん。忘れたやつ耳の穴にビールたらふく注ぎ込むって。」
なんてエグイことをやろうとしてんだあいつは。大体男の家に泊まってんだったら、そっちで祝ってもらえばいいだろが。
「あと~美智姉また別れたんだってさ。せんせーに慰めてもらいたいんじゃん?」
またかよあの野郎。俺が月に何回慰めてやってると思ってんだ!誕生日にかこつけて、また朝まで愚痴聞かせる気かよ!
「そーいうことだから、楽しみにしてるからね、せんせー。」
「おい。」
帰ろうとする南を呼び止める。
「ドアは直して帰れよ?」
「あ、私宿題あるんだった!じゃあね~!」
「てめえ!」
いつもぎりぎりになって俺のところに来る癖しやがって!クソガキが!
月曜日。いよいよ夜に控えた美智子の誕生パーティーという名の惨劇を前に、俺は憂鬱な気持ちになっていた。
何とかプレゼントは準備したから、耳ビールはないだろうが。しかし・・・
「あー屋上で昼寝してえなあ。」
「我慢しろよきりっち。あと1時間で下校時刻だろ?」
何だってまたこいつがいるんだ。夏川一矢。ただのお調子者である。
「お前も早く藤堂のところにでも行って来いよ。面倒くせえ。」
「行かねえし!藤堂とはもう終わったんだよ!」
始まってもなかっただろう。あの剣道少女と付き合うのはあきらめたんだろうか。
「俺さ、放課後一緒に帰れる子がいいんだよね。あとつめたくなくて、怖くなくて・・・可愛くて・・・俺が他の女の子としゃべったりしてたら嫉妬しちゃったりして・・・」
お前の好きなタイプなんざどうでもいい。あと、そんな女漫画にしかいねえよ。美智子を見てきた俺が言うんだから間違いない。しかもお前中1だろ。10年早いわ。
言いたいことはいっぱいあるが、口には出さないである疑問をぶつけてみる。
「なんでお前俺を見張ってんだよ。」
「涼子先生に頼まれたからだっつっただろ?」
涼子先生・・・ああ、西條先生の下の名前だったか。ん・・・?
「なんでお前西條先生についてんだよ!また惚れたか、惚れたのか?」
「バカ言うなよ!俺は同い年か1,2個上までしか許さないんだ!」
13の分際で何を言うか。
「涼子先生、きりっちを見張ったら宿題の提出1日待ってくれんだって!」
あの女、生徒を釣りやがったな。つられるお前もお前だが。
「あーあ。俺だって歴史の宿題待ってやってもいいんだけど。」
俺は今まで全学年の2組しか受け持っていなかったのだが、11月から産休の先生の代わりにこいつのいる1年4組も受け持つことになったのだ。
「いいんだよ、俺歴史は得意だから。」
「お前人が下手にでてりゃ・・・!次の試験絶対0点つけてやるかんな!」
「大人げないぞきりっち!それ、職権らんよーっていうんだぞ!」
「うるせえ!大体前の小テスト30点しかなかったぞ!どこが得意だてめー!」
「俺の中じゃあ得意の部類に入るんだよ!」
俺たちがくだらない言い合いをしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「ほらみろ、相談したい人じゃん。」
どうせ西條先生だろうと思いあけると、そこには小柄な少女がたっていた。
よくみると、ぶるぶると震えている。
「ど、どうしたんだ?」
「先生!爆弾が仕掛けられたんです!!」
「は?」
新たな相談は、およそ学校の対策室なんかが扱うのには程遠い、危険なものだった・・・
前より長くなると思います!