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0 青
私の、彼に関する記憶はあの場面から始まる。
見渡す限りの草原。柔らかに芽吹いた草のにおい。
見たこともない、綺麗な青海原。
空き地にぼうぼうに生えた草原しか知らない私には、まるで身に覚えがない。知らない。こんな、自然で、優しい場所なんて。
記憶は都合良く上書きされて、改竄されるものだ。けれど、やはりあんなところを他に見たことがない。
振り返ってみても、何故、私がそんな、名前も知らない場所にいたのかも解らないままだ。
覚えているのは、あの草原のただ中で、彼が蹲る私を見下ろしながら言った言葉だけ。
「初めまして!僕は君の魔法使い。
さあ、君の願いを教えてくれる?」
あの日、見知らぬあの場所で、私は私の魔法使いに出会った。
久屋坂月。
そういう名前の、魔法使い。






