反復回数 8000
湿っている。
石壁も、床も、空気も。
何も変わってはいない。
だが、情報が浮かぶ。
《侵入者》
《種族:人間》
《状態:正常》
《反復回数:8000》
数値を見た瞬間、体が反応する。
迷いはない。
――突っ込むしかない。
踏み込む。
床を蹴り、距離を一気に詰める。
侵入者は境界にまだ入らない。
目が開き、呼吸が整っている。
剣を握る手がわずかに震えているのを視界が捉える。
突進。
全力。
壁を蹴る音は、床に響かず空気だけが震える。
侵入者が動く。
避ける。
跳ねる。
回転する。
一つの攻撃をかわすたび、すぐに次の回避を繰り出す。
動きが止まらない。
無駄がない。
対等に、いや、少し優位に見えるほど正確だ。
腕を振る。
届かない。
侵入者は回避。
踏み込む。
刃が返る。
避ける。
間合いの密度が濃い。
何度も刃が交錯する。
風が裂ける。
わずかに痛みが走る。
――小さな傷。
それでも、足は止まらない。
再び踏み込む。
腕を振る。
避ける。
侵入者の剣が鋭く弾かれる。
反撃。
踏み込み、回避、跳ねる。
連続する動作の中で、わずかに魔物の肩に刃が擦れる。
傷が血となる。
視界の端で、侵入者の呼吸がわずかに乱れる。
驚きはない。
ただ、数千回を重ねた意志がそこにあるだけだ。
距離を詰め、タイミングを読む。
避けられる。
跳ね返される。
だが、攻撃の角度を変え、もう一度突き込む。
剣が振られる。
回避される。
だが、少しでも足を止めた瞬間を逃さない。
そしてその瞬間が来る。
侵入者が次の回避に全力を注いだわずかの隙。
呼吸がわずかに上ずったその瞬間。
腕を振る。
軌道を少し変える。
刃が当たる。
肉が裂け、血が飛ぶ。
衝撃で侵入者の体が揺れる。
膝が折れ、床に手がつく。
次の動きの瞬間、さらに踏み込む。
反撃を試みる腕が止まる。
剣を持ち上げる力が抜ける。
身体が傾く。
目がこちらを見る。
焦点が揺れ、驚きが残る。
一撃。
腕を振り下ろす。
斜めに切り込む刃が、隙間を突く。
侵入者の身体が崩れ、膝から崩れ落ちる。
呼吸は途切れ、動きが止まる。
数秒の静寂。
輪郭が崩れ、消える。
湿った空気だけが残る。
石壁も、床も、何も変わらない。
ただ、踏み込んだ衝撃だけが空間に残る。




