反復回数 2380
湿っている。
石壁も、床も、空気も、重さは変わらない。
足音がする。
通路の奥から、ひとつ。
間隔は短く、速い。
躊躇はない。
光が揺れる。
壁に影が走る。
視界に情報が浮かぶ。
《侵入者》
《種族:人間》
《状態:正常》
《反復回数:2380》
数字を認識する。
――多すぎる。
考える必要はない。
動く。
床を蹴る。
一気に距離を詰める。
侵入者が境界に入る前。
その手前で間合いに入る。
侵入者の動きが止まる。
目が開き、呼吸がわずかに荒くなる。
剣はまだ上がりきっていない。
口が開く。
「――っ」
言葉にならない。
振る。
腕を振る。
刃が襲う。
侵入者が反応する。
剣をすばやく振り返す。
動きを避ける。
踏み込み、回避、反転。
次々と軌道を変えて避ける。
動作は途切れず、無駄がない。
だが、距離は詰まる。
避けてはいるが、密度の高い間合いに飲まれていく。
腕を振る。
間に合う。
避けられる。
もう一度。
刃が来る。
侵入者が跳ねる。
回避する。
互いの呼吸が、通路の空気を震わせる。
刃と剣の音は響かないが、振動が伝わる。
踏み込む。
間合いに入る。
避ける、跳ねる、反転。
速度が増す。
連続する回避。
侵入者の目が開く。
驚き。
焦りではない。
ただ、瞬間、少しだけ眉が上がる。
数字が示すものが、こちらの判断を促す。
反復回数2380。
何も迷う必要はない。
踏み込む。
先に動く。
避けられる。
だが、次の瞬間には別の角度から腕を振る。
届く。
肉が裂ける。
侵入者が揺れる。
膝が折れる。
血が床に落ちる。
呼吸が乱れる。
しかし、再び剣を振る。
次の回避。
跳ねる。
踏み込む。
密度の濃い攻防が続く。
刃と剣の間に生まれるわずかな空間を読み取り、腕を振る。
血が飛ぶ。
侵入者の身体が少し傾く。
それでも、相手は止まらない。
回避し、踏み込み、跳ねる。
連続する避けの動作に、驚きが残る。
距離を詰める。
さらに踏み込む。
腕を振る。
避けられる。
だが、すぐに別の角度から再び振る。
衝撃。
皮膚が裂け、血が跳ねる。
侵入者が後退する。
膝が床に触れる。
呼吸が乱れる。
目がこちらを捉える。
驚きが瞬間、瞳に光る。
それでも、侵入者は剣を握り直し、踏み込む。
避ける、跳ねる、角度を変える。
連続する回避。
しかし、間合いの密度は変わらない。
踏み込みの隙間に腕を滑り込ませる。
刃が当たる。
肉が裂け、血が飛ぶ。
侵入者が倒れる。
膝が折れ、床に手をつく。
呼吸が荒くなる。
視線が上がる。
驚きが残る。
口が動く。
「……なんで……こんな……」
音が途切れる。
手が動く。
剣を持ち上げようとするが、力が入らない。
腕が落ちる。
身体が傾く。
床に倒れる。
呼吸が止まる。
輪郭が崩れ、消える。
静寂。
湿った空気だけが残る。




