反復回数 980
湿っている。
石壁も、床も、空気も。
重さは変わらない。
足音がする。
通路の奥から、ひとつ。
速い。
間隔が詰まっている。
光が揺れる。
壁に影が走る。
視界に情報が浮かぶ。
《侵入者》
《種族:人間》
《状態:正常》
《反復回数:980》
数値を捉える。
高い。
動く。
床を蹴る。
距離を一気に詰める。
侵入者が境界に入る前。
その手前で間合いに入る。
侵入者の動きが止まる。
目が開く。
剣はまだ上がりきっていない。
口が開く。
「――」
音にならない。
振る。
当たる。
肉が裂ける。
血が跳ねる。
侵入者の身体が後ろに揺れる。
だが、完全には崩れない。
足が踏みとどまる。
剣が上がる。
「ここで終わる――!」
声が遅れて出る。
踏み込む。
刃が来る。
速い。
だが遅い。
避ける。
内側に入る。
もう一度、振る。
当たる。
衝撃。
侵入者の身体が崩れる。
膝が落ちる。
血が床に広がる。
呼吸が乱れる。
短く、強く吐き出される。
視線が上がる。
こちらを見る。
驚きが残っている。
焦点が揺れている。
口が動く。
「……なんで……先に……」
音が途切れる。
手が動く。
剣を持ち上げる。
上がりきらない。
腕が落ちる。
身体が傾く。
床に倒れる。
呼吸が続かない。
動きが止まる。
数秒。
輪郭が崩れる。
消える。
静寂。
湿った空気だけが残る。




