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反復回数  作者: San


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1/6

反復回数 1

湿っている。


 石壁に触れなくても分かる。

 空気が重く、肺の奥に残る。

 音は遠くへ行かず、ここに沈む。


 この場所は、静かだ。

 だから――外から来るものは、すぐに分かる。


 足音。


 ひとつ。

 奥の通路から、ゆっくりと近づいてくる。


 硬い靴底が石を叩くたび、音が短く途切れる。

 歩幅は揃っていない。

 わずかに乱れている。


 止まる。


 少し進む。


 また止まる。


 視界に、情報が浮かぶ。


 《侵入者》

 《種族:人間》

 《状態:正常》

 《反復回数:1》


 暗闇の向こうに、光が揺れる。

 手に持った灯りだ。


 その光が壁にぶつかり、歪んだ影を作る。

 影は大きくなったり、小さくなったりする。


 侵入者が、現れる。


 通路の境界で足が止まる。

 こちらを見ている。


 視線が合う。


 呼吸が、はっきりと聞こえる。

 浅く、速い。


 手に持った剣が、わずかに震えている。

 力が入りすぎている。


 侵入者の喉が動く。


「……ここが……」


 言葉が途中で切れる。


 もう一度、息を吸う。



 足が動く。


 一歩。

 慎重に床を踏む。


 石の感触を確かめるような動き。

 視線は外れない。


 距離を測る。

 まだ遠い。


 侵入者は、こちらを見たまま動かない。

 動けない。


 剣を構え直す。

 手首に余計な力が入っている。


 もう一度、息を吸う。


「……来いよ」


 声が細い。


 踏み込む。


 侵入者の肩が跳ねる。

 反応が遅れる。


 刃が動く。

 振り下ろし。


 軌道は大きい。

 力はあるが、制御が甘い。


 届かない。


 距離の内側に入る。


 侵入者の目が見開かれる。

 口が開く。


 声が出る前に、腕を振る。


 感触。

 肉。骨。抵抗。


 侵入者の身体が揺れる。

 力が抜ける。


 膝が折れる。


 床に血が落ちる。


 侵入者が、こちらを見上げる。


 視線が揺れている。

 焦点が合わない。


 口が動く。


「……なんで……」


 音になりきらない。


 身体が傾く。


 床に倒れる。


 呼吸が乱れる。

 短く、切れる。


 血の匂いが広がる。


 侵入者の指が動く。

 剣を掴もうとしている。


 届かない。


 動きが止まる。


 視線が空を向く。


 数秒。


 輪郭が崩れる。

 音もなく、消える。


 残るのは、湿った空気と、何もない床。


 静寂が戻る。


 音は、ない。


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