反復回数 1
湿っている。
石壁に触れなくても分かる。
空気が重く、肺の奥に残る。
音は遠くへ行かず、ここに沈む。
この場所は、静かだ。
だから――外から来るものは、すぐに分かる。
足音。
ひとつ。
奥の通路から、ゆっくりと近づいてくる。
硬い靴底が石を叩くたび、音が短く途切れる。
歩幅は揃っていない。
わずかに乱れている。
止まる。
少し進む。
また止まる。
視界に、情報が浮かぶ。
《侵入者》
《種族:人間》
《状態:正常》
《反復回数:1》
暗闇の向こうに、光が揺れる。
手に持った灯りだ。
その光が壁にぶつかり、歪んだ影を作る。
影は大きくなったり、小さくなったりする。
侵入者が、現れる。
通路の境界で足が止まる。
こちらを見ている。
視線が合う。
呼吸が、はっきりと聞こえる。
浅く、速い。
手に持った剣が、わずかに震えている。
力が入りすぎている。
侵入者の喉が動く。
「……ここが……」
言葉が途中で切れる。
もう一度、息を吸う。
足が動く。
一歩。
慎重に床を踏む。
石の感触を確かめるような動き。
視線は外れない。
距離を測る。
まだ遠い。
侵入者は、こちらを見たまま動かない。
動けない。
剣を構え直す。
手首に余計な力が入っている。
もう一度、息を吸う。
「……来いよ」
声が細い。
踏み込む。
侵入者の肩が跳ねる。
反応が遅れる。
刃が動く。
振り下ろし。
軌道は大きい。
力はあるが、制御が甘い。
届かない。
距離の内側に入る。
侵入者の目が見開かれる。
口が開く。
声が出る前に、腕を振る。
感触。
肉。骨。抵抗。
侵入者の身体が揺れる。
力が抜ける。
膝が折れる。
床に血が落ちる。
侵入者が、こちらを見上げる。
視線が揺れている。
焦点が合わない。
口が動く。
「……なんで……」
音になりきらない。
身体が傾く。
床に倒れる。
呼吸が乱れる。
短く、切れる。
血の匂いが広がる。
侵入者の指が動く。
剣を掴もうとしている。
届かない。
動きが止まる。
視線が空を向く。
数秒。
輪郭が崩れる。
音もなく、消える。
残るのは、湿った空気と、何もない床。
静寂が戻る。
音は、ない。




