第8話 日常の幸せと、夜の決意
レティシアの誕生から一週間が経った。
私たちの工房での生活は、少しずつ日常のリズムを取り戻していた。
朝は、レティシアの報告で目を覚ます。
「マスター、アリア様。おはようございます。本日の気温は18度、湿度は65%です」
「おはよう、レティシア」
「おはようございます、レティシアさん」
朝食は、先生が作ってくれる。
日本から持ち帰った調味料で味付けされた、簡単な料理。
でも、それが何よりも美味しい。
『先生の手料理…毎朝食べられるなんて…幸せですわ…!』
私は、幸せをかみしめながら食事をした。
午前中は、工房の修復作業。
私は、破壊された機械の修理や、新しい魔道具の開発を行う。
先生は、日本から持ち帰ったデータの整理や、王国の情報収集。
レティシアは、私たちをサポートしながら、様々なことを学んでいく。
「アリア様、この魔力回路の配線、こちらの方が効率的ではないでしょうか?」
レティシアが、設計図を見ながら提案してくれる。
「まあ!レティシアさん、素晴らしい発想ですわ!」
私は、レティシアの成長に驚いた。
コロさんの魂を受け継いだレティシアは、日に日に賢くなっていく。
そして、私の技術を理解し、さらに改善案まで提示してくれるようになった。
『レティシアさん…私の最高傑作…!誇らしいですわ!』
昼食後は、少し休憩。
この時間が、私にとって最も大切な時間だった。
なぜなら――
先生と、二人きりになれる時間だから。
「先生、お茶をどうぞ」
私は、先生の隣に座り、お茶を差し出した。
「ああ、ありがとう、アリア君」
先生は、疲れた表情で微笑んだ。
『先生…疲れていらっしゃる…』
私は、先生の顔を見つめた。
工房の修復作業、追手からの逃避、そして新しい生活への適応。
先生には、大きな負担がかかっている。
『何か…先生を元気づける方法は…』
私は、枕元に置いてある5冊のバイブルを思い出した。
特に、紫の書の「癒しの技術」の章。
「先生」
私は、優しく声をかけた。
「ん? どうした?」
「少し、肩を揉んでもよろしいですか?」
「肩…?」
「ええ。先生、お疲れのようですから」
私は、紫の書の教えを思い出しながら、先生の背後に回った。
そして、そっと先生の肩に手を置いた。
「ア、アリア君…?」
「動かないでくださいな」
私は、優しく先生の肩を揉み始めた。
紫の書には、「疲れた男性を癒すには、優しいマッサージが効果的」と書いてあった。
『これで…先生の疲れが取れれば…!』
最初は緊張していた先生も、次第にリラックスしていく。
「…気持ちいいな」
先生が、小さく呟いた。
『!』
私の心臓が、高鳴る。
『先生が…喜んでくださっている…!紫の書の教え、完璧ですわ!』
しばらく肩を揉み続けていると――
先生が、突然私の手を掴んだ。
「アリア君」
「は、はい…?」
「ありがとう。君がいてくれて…本当に助かっている」
先生の声は、優しかった。
私は、顔が熱くなるのを感じた。
「い、いえ…私こそ、先生に助けられていますわ…」
その時――
「マスター、アリア様」
レティシアの声が響いた。
私は、慌てて先生から離れた。
「な、何かしら、レティシアさん!?」
「午後の作業の準備が完了しました。確認をお願いします」
「あ、ああ…分かった」
先生は、立ち上がった。
私は、一人残されて、深くため息をついた。
『ああ…もう少しで…もう少しで先生と…!』
でも、同時に――
『でも、先生が喜んでくださった…紫の書の教えは正しかったですわ…!』
私は、自信を深めた。
午後の作業を終え、夕食を済ませた後――
私は、自分の布団の中で、5冊のバイブルを広げていた。
蒼の書、紅の書、桃の書、紫の書、黒の書。
そして、日本から持ち帰ったファッション雑誌。
「さて…次は、どの作戦を実行しましょうか…」
私は、真剣な表情でバイブルを読み返した。
蒼の書には、「知的な会話で心を掴む」と書いてある。
紅の書には、「大胆な肌見せで視線を釘付けに」と書いてある。
桃の書には、「甘えと気遣いのバランス」と書いてある。
紫の書には、「癒しの技術」と書いてある。
黒の書には、「最終段階:直接的な告白」と書いてある。
『今日の肩揉みは、紫の書の教え通り…完璧でしたわ!』
私は、満足そうに頷いた。
『次は…そうですわね…蒼の書の「知的な会話」を試してみましょう!』
私は、蒼の書の該当ページを開いた。
そこには、こう書いてあった。
「男性は、自分の専門分野について語ることを好む。相手の話を真剣に聞き、適切な質問をすることで、相手はあなたを『理解者』と認識する」
『なるほど…先生の専門分野…日本の技術や、エージェントとしての経験…それについて質問すれば…!』
私は、メモを取り始めた。
「明日、先生に質問すべきこと…」
1. 日本での任務について
2. エージェントの技術について
3. 先生の過去について
『これで…先生との距離がさらに縮まるはず…!完璧ですわ!』
その時、工房の外から、また物音が聞こえた。
私は、ハッと起き上がった。
「先生…」
私は、小声で先生を呼んだ。
先生も、既に起きていた。
「また追手か…」
「レティシア、確認を」
「了解しました、マスター」
レティシアが、センサーを起動した。
「工房の外に2つの生体反応。おそらく、スヴェン殿下の兵士です」
私たちは、息を潜めた。
幸い、兵士たちはすぐに立ち去ったが――
この生活が、いつまで続くのか。
私は、不安を感じた。
「大丈夫だ、アリア君」
先生が、私の肩を優しく叩いた。
「俺たちは、必ず道を見つける」
先生の言葉に、私は勇気をもらった。
「はい…先生」
その夜、私は先生の優しさを胸に、眠りについた。
そして――
枕元には、5冊のバイブルと、日本のファッション雑誌、そして今日書いたメモが、しっかりと置かれていた。
私の「先生攻略作戦」は、着実に前進していた。
そう、私は信じていた――。




