【最終話】エピローグ 愛の帰還と、新たな門出
先生――いえ、ヨルグさんと結ばれてから、私たちは改めて『古代の自動工房』の探索を再開した。
リリアと共に、私たちは『第7研究セクター:キメラプロジェクト』の最深部へと到達し、そこで工房が放棄された真実を知った。
かつて、この工房では、人間と機械を融合させた究極の生命体を創造する研究が行われていた。しかし、その研究は倫理的な問題と、制御不能な暴走により放棄され、工房は封印されたのだ。
リリアは、その研究の最後の成功例――純粋な心を持つ、美しい生命体として生み出された存在だった。
私たちは、工房の中央制御システムを完全に掌握し、暴走していたキメラゴーレムたちを全て停止させることに成功した。
そして――
◇
工房からの帰路、私たちは再びスヴェン殿下と遭遇した。
彼は、工房の技術を手に入れようと執念を燃やしていた。
しかし、ヨルグさんは、冷静に、そして毅然と告げた。
「スヴェン殿下。この工房の技術は、人類にはまだ早すぎる。いや、もしかしたら、永遠に手にしてはならないものかもしれない。我々は、この工房を完全に封印する」
私も、ヨルグさんの隣に立ち、決然と頷いた。
「この技術が悪用されれば、世界は破滅します。わたくしたちは、この工房の秘密を、永遠に封じます」
スヴェン殿下は、激しく抵抗した。
しかし、レティシアさんの圧倒的な戦闘能力と、ヨルグさんの空間制御技術、そして私の魔法工学の知識を結集した私たちの前に、彼は敗北を認めざるを得なかった。
最終的に、スヴェン殿下は、工房の技術を諦め、アストリア王国へと撤退していった。
私たちは、工房の全システムを完全に停止させ、入り口を崩落させることで、永遠に封印した。
◇
リリアは、私たちと共に、新しい人生を歩むことを選んだ。
彼女は、もはや「セレスティア・零式」ではなく、一人の少女「リリア」として、この世界で生きていく。
レティシアさんは、リリアの姉のような存在として、彼女を優しく見守ると約束してくれた。
そして――
◇
アストリア王国、王都の小さな教会。
そこで、私とヨルグさんの結婚式が静かに執り行われた。
参列者は、エルリック翁、レティシアさん、リリア、そして私の父と数人の友人だけ。
小さな、しかし温かい式だった。
私は、純白のウェディングドレスに身を包み、ヨルグさんの隣に立った。
神父が、厳かに問いかける。
「ヨルグ・シュタイン、汝はアリア・セレスティアを妻とし、病める時も健やかなる時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」
ヨルグさんは、力強く答えた。
「アリア・セレスティア、汝はヨルグ・シュタインを夫とし、病める時も健やかなる時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」
私は、涙で声を震わせながら、しかしはっきりと答えた。
「では、指輪の交換を」
ヨルグさんは、私の左手の薬指に、銀色の指輪をそっと嵌めてくれた。
私も、ヨルグさんの指に、同じ銀色の指輪を嵌めた。
「誓いのキスを」
ヨルグさんは、私のベールをそっと上げ、優しく、そして愛おしそうに私の唇に口づけた。
それは、工房で交わした緊迫したキスとは違う、穏やかで、温かく、そして永遠を誓うキスだった。
教会に、温かい拍手が響いた。
私は――幸せだった。
◇
それから数年。
私とヨルグさんは、王都の郊外に小さな工房を構え、穏やかな日々を過ごしている。
私は、ゴーレム技術と魔法工学の研究を続け、ヨルグさんは、王国のために技術顧問として働いている。
レティシアさんとリリアも、私たちの近くに住み、時々訪ねてきてくれる。
リリアは、日に日に人間らしい感情を取り戻し、今では、よく笑う明るい少女になった。
ある日の夕暮れ。
私とヨルグさんは、工房の庭で、夕日を眺めていた。
「ヨルグさん」
私は、ヨルグさんの手を握りながら、静かに問いかけた。
「わたくし、ようやく本当の愛を知りました」
ヨルグさんは、優しく微笑んだ。
「ああ、俺もだ」
「文献には、愛について、たくさんのことが書かれていましたわ。でも、本当の愛は、文献の中にはありませんでした」
私は、ヨルグさんの目を見つめた。
「本当の愛は、あなたとの時間の中に、ありましたのね」
ヨルグさんは、私を優しく抱き寄せた。
「アリア。君がいてくれて、本当に良かった」
「わたくしも…あなたと出会えて、本当に幸せです」
私たちは、夕日の中で、静かに抱き合った。
もう、『貴重な文献』は必要ない。
もう、計算通りの作戦も必要ない。
ただ、ヨルグさんと一緒にいるだけで、私は幸せだった。
そして――
私のお腹には、小さな命が宿り始めていた。
それは、まだヨルグさんには伝えていない、私だけの秘密。
でも、もうすぐ伝えよう。
きっと、ヨルグさんは、あの優しい笑顔で、喜んでくれるはず。
私たちの物語は、まだ始まったばかり。
これから、どんな困難が待っていても、ヨルグさんと一緒なら、きっと乗り越えられる。
私は――そう信じている。
◇
夕日が、地平線に沈んでいく。
私とヨルグさんは、手を取り合い、工房へと戻った。
その背中には、確かな愛と、未来への希望の光が灯っていた。
――完――
◆
【あとがき(アリア視点版)】
わたくし、アリア・シュタイン(旧姓セレスティア)は、今、この物語を振り返り、懐かしく思っております。
かつて、わたくしは「貴重な文献」に頼り、先生――いえ、ヨルグさんを困らせてばかりおりました。
でも、今なら分かります。
本当の愛は、計算や戦略では手に入らない。
本当の愛は、相手を思いやる心と、共に過ごす時間の中で、自然と育まれるものなのだと。
この物語を読んでくださった皆様。
もし、誰かを想っているのなら、どうか、素直にその気持ちを伝えてください。
文献や攻略法に頼る必要はありません。
あなた自身の言葉で、あなた自身の想いを、伝えてください。
それが、一番の「恋愛成就の秘訣」ですわ。
――アリア・シュタイン
◆
【著者あとがき】
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
「異世界帰りのエージェント、天才教え子(美女)に間違った恋愛知識で攻められる」のアリア視点版、いかがでしたでしょうか。
アリアの純粋で、天然で、でも一生懸命な姿を、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
本作は、残念ながらここで完結となりますが、アリアとヨルグの幸せな未来は、きっと続いていくことでしょう。
皆様の応援、本当にありがとうございました。
また、別の物語でお会いできることを楽しみにしております。
――著者




