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天才魔導師(美女30)が、情けない恩師(42)を全力で守って落とします ~ポンコツ乙女の暴走ラブコメ~  作者: よっしぃ@書籍化


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第47話 魂の告白と、零れた雫 ~騎士の真実と、天使の受諾~

 私は、先生が意識を取り戻し、動けるようになるのを待って、全てを終わらせるつもりだった。

 

 その決意が、この後、どうなるのか、私自身もまだ知る由はなかった――。

 

          ◇

 

 数日が経過し、先生の傷は私の献身的な看病とレティシアさんの高度な医療処置により、奇跡的とも言える速さで回復に向かっていた。

 

 意識もはっきりとし、簡単な会話なら問題なくこなせるまでになっていた。

 

 しかし、私の表情は日に日に曇り、私の瞳からは以前のような輝きが失われていた。

 

 先生は私の異変に気づいているようだったが、まだ体力が完全に戻らないため、深く問い詰めることができずにいたようだった。

 

 そして、先生がようやく寝台から起き上がれるようになった日の朝。

 

 私は、いつになく改まった様子で先生の前に立った。

 

 私の手には、先生の着替えと、小さな荷物が握られている。

 

「先生…いえ、ヨルグ様。お加減が良くなられて、本当によかったですわ」

 

 私の声は平坦で、感情が抑えられている。

 

「わたくし…もう、行かなければなりません」

 

「…行く? 一体どこへだ、アリア君」

 

 先生の声に、不安の色が滲む。

 

 私は俯き、唇をきゅっと結んだ。

 

 そして、絞り出すような声で言った。

 

「これ以上、ヨルグ様のご迷惑になるわけにはいきません。わたくしのような者がおそばにいては、きっとまた、あなた様を危険な目に遭わせてしまいます。わたくしは…あなた様にふさわしくありませんもの…」

 

 その言葉は、私がここ数日、どれほど苦しみ、悩み抜いた末に出した結論だった。

 

「待ってくれ、アリア!」

 

 先生は、まだ完全ではない体を引きずるようにして立ち上がり、工房を出て行こうとする私の細い腕を掴んだ。

 

 その力は、驚くほど強かった。

 

「迷惑だなんて、一度たりとも思ったことはない! 君が足手まといだなんて、そんなこと、あるはずがないだろう!」

 

 私は、先生の必死の形相に驚き、潤んだ瞳で先生を見つめ返した。

 

「俺は…」

 

 先生の声が震える。

 

「俺は、君が思っているような立派な男じゃない。アストリアを離れて22年、エージェントとして何を成し遂げられたわけでもない。帰ってきてからも、君の才能と優しさに頼ってばかりで、情けない姿ばかり見せてきた…」

 

 先生の瞳からは、熱いものが止めどなく溢れ出す。

 

「君は若く、才能に溢れ、そして…本当に美しい。誰よりも優しく、そして強い心を持っている。俺のような、過去に囚われ、先の見えない男には…分不相応な女性だと、ずっと思っていた…」

 

「そ、そんなことは…!」

 

 私が何かを言い返そうとするが、先生はそれを遮るように、さらに言葉を続けた。

 

「だが…それでも、俺は…君がいないとダメなんだ! アリア!」

 

 先生の魂からの叫びが、静かな工房に響き渡る。

 

「君の笑顔が、君のひたむきさが、君の…時々、本当に突拍子もなくて、俺の胃をキリキリさせるような行動でさえ、俺にとってどれほどの支えになり、どれほどの喜びを与えてくれたか…! 君が俺を困らせていたなんて、一度も思ったことはない! むしろ、君がいたから、俺は絶望せずに、ここまで来られたんだ!」

 

「君の、あの『貴重な文献』に基づく奇行の数々も、確かに俺の理性と心臓には多大な負荷をかけたが…」

 

 先生は、苦笑を浮かべた。

 

「それ以上に、君の純粋な、真っ直ぐな好意は、凍てついていた俺の心を、知らず知らずのうちに溶かしてくれていたんだ。君に責任を感じてほしくない。もし、何か間違いがあったとすれば、それは、君のあまりの魅力に抗えなかった、俺自身の弱さだ」

 

 先生は、私の両肩を掴み、私の濡れたアイスブルーの瞳を真っ直ぐに見つめた。

 

「アリア…こんな俺だが、君の全てを愛している。君の笑顔を、誰よりも近くで、生涯見ていたい。俺のそばにいてほしい。……結婚しては、くれないだろうか」

 

 その言葉は、静かに、しかし確かな重みを持って、私の心へと染み込んでいった。

 

 私の大きな瞳から、堰を切ったように大粒の涙が溢れ出し、私の白い頬を幾筋も伝い落ちる。

 

 それは、これまでの後悔や自己嫌悪、そして不安や悲しみが全て洗い流されていくかのような、温かい涙だった。

 

 私は、何度も、何度も、しゃくりあげながら頷いた。

 

「はい…! はい…っ! 先生…! い、いいえ…ヨルグさん…っ! わ、わたくしで…わたくしのような者で…本当によろしいのですか…? 喜んで…! 喜んで、お受けいたします…! ずっと…ずっと、あなた様の…おそばにいさせてくださいまし…!」

 

 そして、私は、これまでで最高の、心の底からの、輝くような笑顔を見せた。

 

 先生は、愛おしさに胸が張り裂けそうになりながら、私の華奢な体を強く、そして優しく抱きしめた。

 

 工房の片隅で、二つの魂は、ようやく、本当の意味で一つに結ばれたのだった。

 

 少し離れた場所で、レティシアさんが静かにその光景を見守っていた。

 

【…マスター、アリア様、心より祝福申し上げます。お二人の幸福度パラメータは、計測可能な最大値を振り切り、システムエラーを発生させています。これは、極めて良好な、そして理想的なパートナーシップの成立を示していると結論付けられます】

 

 その声は、いつものように冷静だったが、どこか人間的な温かみが込められているようにも聞こえた。

 

 リリアも、私たちの姿をじっと見つめ、その小さな唇に、ほんのわずかな、しかし確かな微笑みが浮かんでいた。

 

 『古代の自動工房』の謎も、スヴェン殿下の脅威も、まだ何も解決してはいない。

 

 しかし、私と先生の心には、どんな困難も乗り越えられるという、確かな愛と希望の光が灯っていた。

 

 私たちの『本当の物語』は、今、この瞬間から始まる――。

 

          ◇

 

 工房の片隅、先生と私は、しばらくの間、ただ固く抱きしめ合っていた。

 

 互いの温もり、鼓動、そして言葉にならない想いが、静かに、しかし確かに流れ込んでくる。

 

 私の肩は微かに震え、先生の胸元は私の涙でしっとりと濡れていたが、それは悲しみの涙ではなく、長い誤解と苦しみを乗り越えた先にある、純粋な喜びと安堵の雫だった。

 

 やがて、私は少しだけ顔を上げ、潤んだアイスブルーの瞳で先生を見つめた。

 

「ヨルグ…さん…本当に…本当に、わたくしでよろしいのですか…? こんな、何も知らない、世間知らずで…あなた様を困らせてばかりのわたくしで…」

 

 私の声には、まだ一抹の不安と、信じられないというような響きが混じっていた。

 

 先生は、私の濡れた頬を優しく両手で包み込み、親指でそっと涙を拭った。

 

「アリア…君以外に、誰がいるというんだ。君のその純粋さが、ひたむきさが、そして…時々、俺の想像を遥かに超える行動が、どれほど俺を救い、勇気づけてくれたか、君は分かっていないんだろうな」

 

 先生は、照れくさそうに、しかし確かな愛情を込めて微笑んだ。

 

「俺の方こそ、君のような素晴らしい女性に選んでもらえるなんて、望外の幸せだ。これからは、君を全力で守り、そして…君を、世界で一番幸せにすると誓う」

 

「ヨルグさん…!」

 

 私の瞳から、再び新たな涙が溢れ出す。

 

 しかし、私の表情は、一点の曇りもない、輝くような笑顔だった。

 

「はい…! わたくしも…わたくしの全てで、あなた様をお支えいたしますわ! そして、あなた様と一緒に、どんな困難も乗り越えてみせます!」

 

 私たちは、改めてお互いの気持ちを確かめ合い、その手を取り合った。

 

 もう、そこに「先生」と「元生徒」という壁は存在しない。

 

 ただ、愛し合う二人の男女がいるだけだった。

 

 私は――思った。

 

『これが…本当の愛…なのですね…』

 

 文献にはなかった。

 

 この温かさ。

 

 この安心感。

 

 この幸福感。

 

 私は――ようやく理解した。

 

 本当の愛は――文献の中にはなかった。

 

 本当の愛は――先生との、この時間の中にあったのだ。

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