第45話 古代工房ベースキャンプ化計画!とアリアの愛の巣(予定地)
私の瞳に「先生との添い寝」という新たな野望の炎が灯ったことを、先生はまだ知らない。
先生はただ、私がリリアの世話をレティシアさんに(意外とあっさり)任せたことに、一抹の安堵と、ほんの少しの違和感を覚えていただけだったようだった。
翌朝(工房内に朝日の概念はないが、体内時計とレティシアさんの計時による)、先生は昨夜の卒倒と連続ハプニングの疲労を引きずりながらも、リーダーシップを発揮しようと努めた。
「よし、まずはこの周辺の安全を確保し、長期的な活動拠点となりうる場所を探そう。レティシア、索敵と分析を頼む」
【了解しました、マスター。半径500メートル以内の構造物及びエネルギー反応を再スキャン。候補地を3箇所に絞り込みました】
レティシアさんが提示したのは、比較的損傷の少ない『旧第3動力供給制御室』、水質浄化システムらしきものが確認できる『元研究員用生活区画の一角』、そして以前アクセスに成功した『セクター0:オリジンコア』の管理室だった。
「オリジンコアの管理室は情報アクセスには最適ですが、居住性には欠けますわね。生活区画は魅力的ですが、まだ安全性が未知数…ここは、動力供給制御室を最初の拠点として確保し、そこから段階的にエリアを広げていくのが合理的ではないでしょうか、先生?」
私が、的確な意見を述べる。
先生もそれに同意し、私たちと、おずおずと後をついてくるリリアは、まず動力供給制御室の確保へと向かった。
幸い、制御室周辺には目立った罠や防衛システムは残っておらず、レティシアさんが数体の小型残存ドローンを無力化するだけで、比較的容易に安全を確保できた。
「よし、ここを我々のベースキャンプとする!」
先生が宣言すると、私の目がキラキラと輝きだした。
「まあ、先生! でしたら、早速この場所を、わたくしたちの快適な『愛の巣』…いえ、活動拠点として最適化しなくてはなりませんわね!」
先生は背筋に冷たいものを感じたようだった。
私は、その言葉通り、無限収納箱から次々と謎のアイテムを取り出し始めた。
「まずは照明ですわ! この薄暗さでは気分も滅入りますもの! これはわたくし特製の『癒やしのラベンダーアロマ発光塗料』! 壁に塗れば、心安らぐ香りと共に、目に優しい光が…」
「アリア君、待て! そのラベンダーの香りは、スヴェン殿下を引き寄せかねんぞ!」
「あら、そうでしたわね。では、こちらの『太陽光スペクトル再現・超小型魔力ランプ』を複数設置しましょう! これなら植物だって育てられますわ!」
次に私が取り出したのは、フカフカの巨大なクッション、レースのカーテン、そして何故か猫耳付きの可愛らしいルームウェア数着だった。
先生は不安を覚えたようだったが、私の次の発言で、その不安は現実のものとなったようだった。
「リリアさんのお部屋には、やはり天蓋付きのベッドがよろしいですわよね? そして、わたくしと先生のお部屋は…うふふ、熱効率とスキンシップ効果を最大限に高められるよう、ダブルベッド一択ですわね!」
先生は顔面蒼白になった。
その間、レティシアさんは黙々と制御室のメインコンソールにアクセスし、工房の基本的なシステム――照明、空気循環、最低限のセキュリティなど――の再起動を試みていた。
リリアは、私の暴走っぷりと、先生の困惑した顔を、不思議そうに交互に見つめている。
数時間後。
私の「快適化」作業(一部先生とレティシアさんによって阻止されたものの、それでもかなり趣味が反映された)と、レティシアさんのシステム復旧作業により、動力供給制御室とその周辺区画は、驚くほど居住性の高い空間へと生まれ変わりつつあった。
「ふぅ、これでようやく落ち着いて研究に集中できますわね!」
私は満足げに汗を拭う。
【マスター、アリア様。オリジンコアの基本データベースへのアクセスに成功。工房全体の詳細な構造図、及び各セクターの概要が判明しました】
レティシアさんが、巨大なホログラムディスプレイに工房の立体図を映し出した。
そこには、複雑に入り組んだ通路と、無数の部屋、そしてひときわ大きく表示された『第7研究セクター:キメラプロジェクト』の文字が、不気味な存在感を放っていた。
「やはり、ここがスヴェンが狙っている場所か…そして、リリア…君の故郷でもあるのかもしれないな」
先生は、リリアの顔を見ながら静かに呟いた。
リリアは、その言葉にわずかに瞳を揺らしたように見えた。
私は、ホログラムの『第7研究セクター』を指さし、決意を新たにした。
「先生、レティシアさん、リリアさん! いよいよ、この工房の最大の謎に挑む時が来ましたわ! わたくしの知恵と勇気で、必ずや真実を解き明かしてみせます!」
先生は心の中で何か強く願っているようだった。
こうして、私たちは、『古代の自動工房』内にひとまずの拠点を確保し、その深淵なる謎へと、本格的に足を踏み入れようとしていた。
私の「添い寝計画」のカウントダウンは、静かに、しかし確実に進行しているのであった――。
そして――私は知らなかった。
この先に、私の人生を大きく変える――出来事が待っていることを。




