第44話 天使のランジェリーと、研究記録という名の…
「では、始めますわね、先生! しっかりと記録してくださいまし!」
私は、まるで研究発表をするかのような真顔で、無限収納箱から取り出した、まだ先生が見たことのないデザインの、精巧なランジェリー(ラベンダー色で、銀糸の刺繍が施されたもの)を掲げて見せた。
「こちらが、今回わたくしが検証したい新作のランジェリーですわ! このラベンダー色は、文献によりますと『殿方の心を穏やかにしつつも、密かな情熱を呼び起こす神秘の色』とされておりますの! そして、この銀糸の刺繍は…」
先生は心の中で何か叫んでいるようだったが、私はお構いなしに、その場で旅装を脱ぎ始めた。
「先生! 目を逸らしてはいけませんわ! しっかりと記録してくださいまし! この銀糸の刺繍の繊細さ、レースの透け感の絶妙なバランス、身体の動きに合わせた生地の追従性、すべてを映像に収めていただきたいのです! ああ、そうそう、様々な角度からお願いいたしますわね!」
「(様々な角度!?)」
「正面、側面、そして後ろ姿も重要ですわ! ランジェリーは全方位から美しくなければなりませんもの!」
先生は、もはや記録用クリスタルを構え続けるしかなかったようだった。
目の前で繰り広げられる、私の、全く羞恥心という概念が存在しないかのような生着替えの光景。
ラベンダー色のランジェリーをまとった私は、まるで天使のような、それでいてどこか妖艶な美しさを放っていた(と文献に書いてあった)。
銀糸の刺繍が、部屋の魔法照明を受けて淡く輝き、私の白い肌をさらに際立たせている。
「先生! どうですか!? このフィット感、この透け感、お分かりになりますか!?」
私は、何の躊躇もなく、様々なポーズを取りながら、ランジェリーの「機能性」を実演してみせる。
「この部分のレースは、身体の動きに合わせて伸縮するのですわ! ほら、こうして腕を上げても…」
先生は、何か複雑な表情をしていた。
「そして、背中の部分のデザインも重要ですわ! 先生、後ろからもしっかりと記録してくださいまし!」
私は、先生に背中を向け、髪を片手でさっと持ち上げる。
その仕草は、文献で学んだ通りの「殿方の心を惹きつける仕草」だ。
先生の脳は完全に思考を停止したようだった。
私は――とても真剣だった。
この古代の技術を、しっかりと記録しなくてはならない。
そして――先生に、私の姿を、しっかりと見ていただかなくてはならない。
「よし、これで下着の検証は完了ですわ!」
私は満足げに頷くと、今度は軽やかなブラウスとスカートを取り出した。
「では、最後に、このランジェリーの上に普段着を着用した際の、ラインの出方なども確認いたしますわね!」
数分後。
私は、ラベンダー色のランジェリーの上に、軽やかなブラウスとスカートという、どこか活動的ながらも女性らしい装いに着替え終わっていた。
一方、リリアは、私が選んだ、お洒落なデザインだが比較的露出は控えめな、しかし上質な古代風のシルクのワンピースに落ち着いていた。
そして、私たちが、それぞれ最高の装いで先生の前に並び立ち、小首を傾げて問いかけた。
「先生、わたくしたち、いかがでしょうか? これで工房の探索も、より一層捗るはずですわ! しっかりとご覧になっていただけましたか? 記録も完璧ですわよね?」
私は自信満々の笑顔だ。
リリアも、私に促され、ぎこちなくお辞儀をする。
先生は、完全に魂が抜け殻になったような顔で、かろうじて「あ、ああ…す、素晴らしかったよ…二人とも…しっかりと…見守らせて…もらった…記録も…完璧だ…」と答えるのが精一杯だったようだった。
私は――とても満足だった。
先生が、私の姿を、しっかりと記録してくださった。
そして――この記録は、後で先生と一緒に確認する。
「先生、この記録用クリスタル、わたくしが後で確認いたしますので、大切に保管しておいてくださいまし。今度、工房の研究室で一緒に見ながら、改善点などをご相談させてくださいね」
私は、そう言って記録用クリスタルを先生に預けた。
先生は、何か複雑な表情をしていた。
でも――私は嬉しかった。
先生と一緒に、私の姿を見ることができる。
先生の目線から見た私を、確認することができる。
これは――とても大切な「研究記録」だ。
そして――私の「先生攻略作戦」の、重要な資料となる。
私は――静かに決意した。
『この記録を見ながら…先生との距離を…さらに縮めよう…!』
レティシアさんは、その一部始終を冷静に記録しながら、小さくため息をついたように見えた。
【マスターの精神的負荷、及び倫理観のパラメータに、重大かつ不可逆的な変化を検知。特に、『義務』および『研究記録』という名目での自己正当化パターンの形成を確認】
でも――私は気にしなかった。
これは――正当な研究だから。
そして――先生との絆を深めるための、大切な一歩だから。
私の「先生攻略作戦」は――確実に、成果を上げていた。




