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天才魔導師(美女30)が、情けない恩師(42)を全力で守って落とします ~ポンコツ乙女の暴走ラブコメ~  作者: よっしぃ@書籍化


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第41話 セレスティア・零式と、絶望のカウントダウン

 レティシアさんが検知した『人間ではない生命反応』の正体を確かめるべく、私たちは、『古代の自動工房』のさらに奥深く、ひときわ厳重に封鎖されたかのような巨大な扉の前に立っていた。


 私の機転と先生のサポートで扉のロックを解除すると、その奥にはこれまでとは全く異なる、静謐で、どこか神聖な、そして物悲しい空気が漂う円形の広大なホールが広がっていた。


 ホールの中心、まるで祭壇のように設えられた黒曜石の台座の上に、それは静かに横たわっていた。


 淡い桜色の長い髪が、床に絹のように広がり、雪のように白い肌は人間とは思えないほど滑らかで、どこか透き通っているように見える。


 身体のラインを拾わない、シンプルで飾り気のない純白のワンピースのような衣服をまとい、その小さな手は胸の上でそっと組まれていた。


 年の頃は、十代半ばといったところだろうか。


 そのあまりの美しさと儚げな姿に、先生も私も息を呑んだ。


「なんて…綺麗な…でも、どこか…寂しそうな…」


 私は、吸い寄せられるように少女に近づこうとした。


 その瞬間、レティシアさんが鋭く制止した。


【アリア様、お待ちください! 危険です!】


 レティシアさんの赤い警告灯が激しく点滅する。


【この個体より、高レベルの生体反応と、同時に極めて不安定かつ強大な魔力エネルギー反応を検知。特に、胸元で明滅している青い宝玉…あれは、起爆装置と連動した高密度エネルギーコアである可能性が99.8%です。彼女自身が…この工房の『最終安全装置』、すなわち自爆型ゴーレム、あるいはそれに類する特殊な生体兵器と推測されます!】


 その言葉とほぼ同時に、台座の上の少女の瞼が、ゆっくりと持ち上がった。


 現れたのは、吸い込まれそうなほど大きく、そして何の色も映さないかのように虚ろな、美しい金色の瞳だった。


 少女はゆっくりと上半身を起こすと、プログラムされたような滑らかな動きで台座から降り立ち、感情の欠片も見せない無表情のまま、私たちを見据えた。


 そして、鈴を転がすような、しかし抑揚のない声で告げた。


「侵入者を…確認…。識別コード、未登録…。私は…『セレスティア・零式ゼロシキ』…。かつて…『リリア』と…呼ばれた…存在…」


 彼女の言葉は、まるで遠い昔の記憶を辿るように途切れがちだった。


「私の…存在理由は…この工房と共に…訪れるべき終焉を…もたらすこと…すなわち…全てを…無に帰すこと…」


 その言葉と共に、リリアの胸元で青く明滅していた宝玉の光が、わずかにその輝きを増し、点滅の間隔が早まったように見えた。


 それが、自爆へのカウントダウンが開始されたことを示唆しているかのようだった。


「そ、そんな…! あなた自身が爆弾だなんて…! そんなの、あんまりですわ!」


 私は、悲痛な声を上げ、その美しい瞳からはらはらと涙をこぼした。


 私にとって、これほどまでに美しい存在が、ただ破壊のためだけに生み出されたという事実は、耐え難い苦痛だった。


「誰が君をそんな道具にしたんだ…! やめろ、君はそんなことをするために生まれてきたわけじゃないはずだ!」


 先生もまた、リリアのあまりにも悲しい運命と、その無垢な姿に、強い憤りとどうしようもない無力感を覚えたようだった。


 レティシアさんが、緊迫した状況の中で冷静に分析結果を報告した。


【リリア…いえ、セレスティア・零式の体内エネルギーコアの臨界点到達まで、残された時間は推定…20分。自爆シーケンスのプログラムは極めて高度かつ多重にプロテクトされており、現時点の私の演算能力とアクセス権限では、外部からの解除は不可能と判断されます】


 絶望的な宣告。


 しかし、レティシアさんは言葉を続けた。


【ただし…外部からの強力な魔力エネルギーによる干渉、あるいは彼女の意識レベルを強制的に安全な状態まで低下させることができれば、カウントダウンを一時的に遅延、あるいは停止させられる可能性は残されています。確率は低いですが、0ではありません】


 20分――あまりにも短い、運命のタイムリミット。


 目の前には、自らの存在理由を「全てを無に帰すこと」と告げた、儚くも美しい少女。


 私たちは、この絶望的な状況にどう立ち向かうのか。


 『無垢なる硝子の花』リリアを、悲しい運命から救い出すことはできるのだろうか。


 それとも、この『古代の自動工房』と共に、全てが終わりを迎えてしまうのか――。


 私は――必死で考えた。


 何か方法はないのか。


 このリリアを救う方法は。


 その時――私の脳裏に、失われたはずの「貴重な文献」の数々の中から、ひときわ印象的だった一節が鮮明に蘇った。


「先生! レティシアさん! わたくし、思い出しましたわ! わたくしがかつて熟読した『古代神聖魔術と恋愛成就の秘儀~失われた奇跡の力~』という、極めて信頼性の高い文献に、このような記述がありましたの!」


 私は、自信満々に(しかし今は必死の形相で)語り始めた。


「『異なる魂を持つ二者が、真実の愛をもってその魂を共鳴させ、聖なる口づけを交わす時、その純粋な愛の波動はあらゆる呪縛を解き放ち、奇跡を呼び起こす』と! リリアさんのそのプログラムも、一種の強力な呪縛ですわ! わたくしたちの愛の力で、きっと…!」


「(で、出たーーーーっ! アリア君の文献知識! しかもこんな時に!?)ア、アリア君、それはいくらなんでも…!」


 先生は思わず叫んだが、私の瞳は真剣そのものだった。


「先生! 今は、ありとあらゆる可能性に賭けるべきですわ! この工房のテーマが『愛』であるならば、この方法こそが唯一の希望かもしれません! それに、先日の扉も、わたくしたちの『永遠の愛』のパスワードで開いたではありませんか!」


 私は、続けた。


「さあ先生! わたくしと、聖なる口づけを! そして、その愛の波動でリリアさんを救うのです!」


 私は、先生の前にぐっと顔を近づけ、そのアイスブルーの瞳で真っ直ぐに見つめた。


 頬は紅潮し、呼吸も少し荒い。


 それは、危機的状況と、私なりの決意、そして…先生への秘めた想いが入り混じった、切羽詰まった表情だった。


 先生は、私の突拍子もない提案と、そのあまりの真剣さに、一瞬言葉を失ったようだった。


 だが、他に有効な手段がすぐには思いつかないのも事実。


 そして何より、私の先生を信じきるその瞳に、心が揺さぶられたようだった。


「…分かった。アリア君、君を信じよう」


 先生は、覚悟を決めた。


 私たちは、ゆっくりと顔を近づける。


 私はそっと目を閉じた。


 先生も、一瞬ためらった後、私の唇に自分の唇を重ねた。


 それは、ぎこちなく、不器用で、そしてほんの数秒の、しかし互いの温もりと、言葉にならない想いが確かに伝わるようなキスだった。


 私の心臓が、喜びと緊張で破裂しそうに高鳴っていた。


 その瞬間――。


 リリアの金色の瞳が、カッと見開かれた。


「!!!!」


 彼女の身体が微かに痙攣し、胸の宝玉が不規則に激しく明滅し始める。


 そして、これまで感情のなかったはずのその瞳に、初めて困惑と、苦痛と、そして…何かを探し求めるような、切ない色が浮かんだ。


「ア…アア…コノ…カンジョウ…ハ…ナニ…? アタタカイ…? クルシイ…デモ…ナゼ…ナミダガ…?」


 リリアの白い頬を、一筋の透明な雫が伝い落ちた。


 レティシアさんが鋭く声を上げた。


【マスター! アリア様! セレスティア・零式のシステムに、予期せぬ高レベルの感情パラメータが発生! 自爆シーケンスに深刻なエラーが生じています! カウントダウンが…一時的に停止しました!】


「やった…! やったですわ、先生! やはり愛の力は偉大ですのね!」


 私は、キスで真っ赤になった顔のまま、歓喜の声を上げた。


 先生は、まだ唇に残る私の感触と、目の前で起こった信じられない現象に、ただ呆然としていた。


 しかし、安堵したのも束の間、リリアは再び苦しげに呻き、胸の宝玉が不安定な光を放ち始めた。


「ダメです! まだ完全に停止したわけでは…! 彼女の中で、プログラムされた『破壊』と、芽生え始めた『何か』が激しくせめぎ合っているようですわ!」


 私は叫んだ。


「リリア! しっかりしろ!」


 先生がリリアに呼びかける。


 リリアは、苦痛に顔を歪めながらも、震える声で呟いた。


「ワタシ…ハ…コワシタクナイ…デモ…プログラム…ガ…アア…タスケテ…」


 その瞳には、初めて明確な「助けを求める」意志が宿っていた。


 私は――思った。


『この子を…絶対に…救いたい…!』


 私たちと、この『硝子の少女』の、本当の戦いは、これから始まるのかもしれない――。

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