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天才魔導師(美女30)が、情けない恩師(42)を全力で守って落とします ~ポンコツ乙女の暴走ラブコメ~  作者: よっしぃ@書籍化


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第4話 託された核と、再生への誓い

「先生!先生!起きてください!」

 私は、慌てて先生を揺り起こした。

 私はパジャマ姿だった。日本で買った、薄手のピンク色のパジャマ。先生の前でこんな格好を晒すのは恥ずかしかったが、今はそれどころではない。

 そして、私は裸足だった。

「アリア君…?どうした…?」

 先生が、眠そうに目を開ける。

「先生、コロさんが…!」

 私は、AIスマホの画面を見せた。

【緊急警告:次元ゲート起動システム、臨界点到達】

【コア・エネルギー残存率:3.2%】

【帰還可能時間:残り26分】

 先生の表情が、一瞬で凍りついた。

「…まさか…!」

 先生は、跳ね起き、コロの元へと駆け寄った。

 コロの胸部の核は、もはやほとんど光を失い、か細く、不規則に明滅を繰り返している。

【マスター…アリア様…申シ訳…アリマセン…】

 コロのスピーカーから、途切れ途切れの、かすれた声が聞こえた。

「コロ!しっかりしろ!今、何とかする…!」

 先生が、必死にAIスマホを操作する。

 でも――

【警告:修復不可能。コア・エネルギー、最低動作レベルを下回りました】

【推奨:即座に次元ゲート起動。帰還後、新ボディへの核移植を実施】

「くそっ…!間に合わないのか…!?」

 先生の声が、絶望に染まる。

【マスター…モウ…時間ガ…】

「コロ…お前…まさか…!」

【残リノ…全テノエネルギーヲ…次元ゲート起動ニ…使イマス…】

 コロの声が、さらに弱々しくなる。

「待て、コロ!それをしたら、お前は…!」

【…構イマセン…マスターヲ…アリア様ヲ…元ノ世界ニ…帰サナケレバ…】

 私は、涙が溢れてくるのを止められなかった。

「コロさん…!」

【アリア様…マスターヲ…ヨロシク…オ願イ…シマス…】

 そして――

 コロの胸部の核が、最後の力を振り絞るように、一際強く輝いた。

【次元ゲート起動シーケンス、開始…残リ時間…30秒…】

「コロ!やめろ!お前まで失ったら…!」

 先生が、コロを抱きしめる。

 でも、もう止められない。

【29…28…27…】

「待って!」

 私は、咄嗟に周囲の荷物を掴み始めた。

 リカちゃん人形の箱、日本の雑誌、買い物袋――

「先生!カバンを!物資を!」

「ああ!」

 先生も、22年の成果が詰まった非常用カバンと、洗濯カゴを掴む。

【15…14…13…】

「先生!」

 私は、先生の腕を掴んだ。

 でも――

『待って!靴…!裸足のままでは…!』

【12…11…10…】

「先生!靴を!」

 私は、咄嗟に玄関へと駆け出した。

「アリア君!時間が…!」

 先生の声が聞こえたが、構わない。

 裸足のまま玄関に飛び込み、私が買ったスニーカーと、先生の靴を掴んだ。

『2人分…!これで…!』

 こういう時、冷静に判断できるのが、私の強みだ。

【8…7…6…】

 私は、靴を両手に抱えて、先生の元へと駆け戻った。

「先生!」

「アリア君…!」

 先生が、私を抱き寄せた。

 私は、靴を抱えたまま、先生の腕の中に飛び込んだ。

【5…4…3…】

「コロさん!ありがとうございます…!」

 私は、コロに向かって叫んだ。

【2…1…】

【マスター…幸セニ…アリア様…先生ヲ…】

 その言葉と共に、青白い閃光が部屋を満たした。

 そして――

 私たちの姿は、日本のアパートから消え去った。


 ――アストリア王国。


 青白い閃光が収まり、私とヨルグ先生は再びアストリア王国の、あの西の森外れにある古い狩人の小屋の近くに立っていた。

 周囲には、私たちが日本から持ち帰った物資が散らばっている。

 非常用カバン、洗濯カゴ、リカちゃん人形の箱、雑誌、買い物袋、そして――2人分の靴。

 でも、その中で最も大切なものは――

 先生の腕の中で、完全に動きを止めたコロのボディだった。

「コロ…!」

 先生が、崩れ落ちるように膝をつき、動かなくなった相棒をそっと地面に横たえた。

 コロの胸部の核は、もはや完全に光を失っている。

 AIスマホの画面には、無情にも【戦術支援ユニットG-7型改、全機能停止】の文字が表示されていた。

「…ありがとうな、コロ。お前は…最高の相棒だった…」

 先生の声が、震えている。

 そして――先生の目から、涙が溢れてきた。

 私は、そっと先生の隣に膝をつくと、先生の頭を優しく抱き寄せ、自分の胸に押し当てた。

「……アリア君?」

「泣いていいのです、先生。悲しい時は、思いっきり泣くのが…」

 私は慈愛に満ちた表情で、先生の頭を撫でる。

 先生は、私の不器用な優しさに、静かに涙を流した。

『先生…こんなに悲しんで…コロさんは、先生にとって本当に大切な存在だったのですね…』

 私も、涙が溢れてきた。

 コロさん。

 私は、あなたのことをよく知りませんでした。

 でも、あなたは最後まで、先生を守ろうとした。

 そして、私にも――「先生をよろしく」と託してくれた。

『必ず…必ず、あなたを生き返らせます…!』


 しばらくして、先生は涙を拭い、顔を上げた。

 その瞳には、悲しみと共に、新たな決意の炎が燃え盛っている。

「……ありがとう、アリア君。だが、泣いてばかりもいられない」

 先生は、日本から持ち帰った物資の中から、『精密ドライバーセット(マグネット付き)』を取り出した。

「アリア君、手伝ってくれ。この『核』を……『コロ』の魂を、取り出すんだ」

「はい…!」

 私も、散らばった荷物の中から、必要な工具を探した。

 そして――

 私の目に、リカちゃん人形の箱が映った。

『コロさん…あなたの犠牲のおかげで、この人形を持ち帰ることができました…』

『この技術を使って…必ず、あなたを新しい姿で蘇らせます…!』

 私は、リカちゃん人形の箱を胸に抱きしめながら、固く誓った。


 二人は協力し、慎重に『コロ』の胸部装甲を開いた。

 先生の手が震えている。

「先生、私が…」

「いや…これは、俺がやらなければならない」

 先生は、震える手で、ドライバーを握った。

 中には、全ての光を失ってはいたが、まだ微かな魔力の残滓を宿した美しい水晶のような『核』があった。

 それは、『コロ』の魂そのものだった。

「……必ず、生き返らせてやるからな」

 先生は、核を大切に懐にしまうと、動かなくなった『コロ』のボディを、森の木陰へと運んだ。

 柔らかな土の上にそっと横たえ、両手で土をかけていく。

『先生…』

 私は、その光景を見守りながら、涙を流した。

 先生が、どれほどコロさんを大切にしていたか。

 そして、どれほど悲しんでいるか。

 ささやかな墓標の代わりに、先生は近くで見つけた美しい野花を添えた。

「『コロ』さんへの一番の供養は、先生が、そして私たちが前に進むことです」

 私は、力強く言った。

「日本から持ち帰ったデータと、私の知識を合わせれば、きっと『コロ』さんを新しい形で……」

 先生は、私を見つめ、静かに頷いた。

「ああ…ありがとう、アリア君」


 その時、私の耳が、何かを捉えた。

「先生!小屋の方から、人の気配がします! もしかしたら、追手が……!」

 スヴェン殿下の兵士たちが、まだこの周辺を捜索している可能性は十分にある。

「まずいな……長居は無用だ。アリア君、君の工房へ案内してくれるか? そこなら、アンドロイドの再生作業に必要な設備もあるだろう」

「はい、私の秘密の工房なら、おそらくまだ安全です!」

 私は立ち上がり、出発の準備をする。

「先生、靴を履いてください」

 私は、先生の靴を拾い上げ、先生に差し出した。

「ああ…ありがとう、アリア君。よく靴まで持ってきてくれたな」

 先生は、感心したように言った。

「当然ですわ。あの状況でも、冷静に判断するのが私の強みですもの」

 私は、胸を張って答えた。

 先生は、靴を履いた。

 私も、自分のスニーカーを履いた。

 パジャマ姿にスニーカー――奇妙な格好だったが、裸足よりはマシだった。

『さすがの私ですわ。緊急時でも、必要なものを見極める判断力…技術者として、そして5冊のバイブルで恋愛術を完璧にマスターした女性として、完璧な行動でしたわ!』

 私は、自分の判断を誇らしく思った。


「でも、先生…私、この格好では…」

 私は、自分のパジャマ姿を見下ろした。

 薄手のピンク色のパジャマ。森を歩くには心もとない。

「小屋に、私が置いていった着替えがあるはずです。急いで取ってきます!」

「待て、アリア君!追手がいるかもしれない。俺が行く」

「でも…」

「大丈夫だ。すぐ戻る」

 先生は、そう言って小屋へと向かった。


 数分後――


 先生が戻ってきた。

 その手には、何か持っていた。

「先生? 着替えは…?」

「……なかった」

「え…?」

「小屋の中は、完全に荒らされていた。アリア君の着替えも、スーツも、すべて持ち去られていた」

 私は、息を呑んだ。

「そんな…!」

『私の服が…すべて…!?』

「ただ、これだけが残っていた」

 先生が差し出したのは――

 5冊の薄い本だった。

「!」

 私は、思わず叫びそうになるのを必死でこらえた。

『バイブル…!5冊の恋愛指南書…!』

 蒼の書、紅の書、桃の書、紫の書、黒の書――

 私が密かに小屋に持ち込んでいた、あの5冊だ。

「これは…重要な本か?」

「は、はい! とても…とても重要な…研究資料ですわ…!」

 私は、顔を真っ赤にしながら、5冊の本を受け取った。

『なぜこれだけが残っていたのかしら…? 追手の方々は、この本の価値が分からなかったのですわね…!幸運でしたわ!』

「それと…もう一つ」

 先生が、申し訳なさそうに言った。

「小屋の金庫に、何か水着のようなものが入っていた。これしか残っていなかったんだが…」

 先生が差し出したのは――

 黒地に青いラインの入った、極めて露出度の高い、競泳水着のような形状のもの。

『!』

 私は、目を見開いた。

「これは…!私が以前、水中活動用に開発した特殊スーツですわ!」

『なぜこれが小屋に…!? ああ、そういえば以前、小屋で水中調査の準備をした時に、予備として置いていたのでしたわ…!』

「アリア君…すまない。これしか…」

「いえ、構いませんわ。服があるだけでも幸運です」

 私は、先生に背を向けると、パジャマを脱ぎ始めた。

「ちょ、アリア君!?」

「大丈夫ですわ。先生は後ろを向いていてくださいな」

 先生は、慌てて背を向けた。

 私は、手早く水着(特殊スーツ)に着替えた。

 体にぴったりとフィットし、私のスレンダーで均整の取れた肢体が惜しげもなく露わになる。

『これで…先生の視線を…!紅の書の「大胆な肌見せで視線を釘付けに」…完璧ですわ!』

「先生、着替え終わりましたわ」

 先生が振り返り――そして、一瞬固まった。

「ど、どうですか? このスーツ、防御力も動きやすさも抜群なんですのよ」

「あ、ああ…そ、そうか…」

 先生は、努めて冷静に、しかし内心では目のやり場に困りながら言った。

『先生が…見てくださっている…!視線を感じますわ…!さすがバイブルの教え…完璧ですわ!』


 こうして、私たちは森を抜け、私の秘密の工房へと向かった。

 私は水着姿、先生は洗濯カゴ(日本の物資入り)とカバンを持って。

 私の腕の中には――リカちゃん人形の箱と、日本のファッション雑誌、そして5冊のバイブルが、しっかりと抱かれていた。


 数時間後。


 アリアの案内でたどり着いた彼女の秘密の工房は、王都の喧騒から離れた、森の奥深くに巧妙に隠されていた。

 しかし、二人が工房の扉を開けた瞬間、息を呑んだ。

 中は、まるで竜巻にでも襲われたかのように、無残に荒らされていたのだ。

 精密な機械や高価な魔法触媒は床に散乱し、貴重な研究資料や設計図は引き裂かれ、あるいは持ち去られた痕跡がある。壁にかけられていた工具類も、いくつかは無くなっていた。

「ひどい……! 一体誰が、こんなことを……!」

 私は愕然とし、その場に崩れ落ちそうになるのを、先生が咄嗟に支えた。

 私の瞳からは、怒りと悲しみ、そして深い絶望の色が浮かんでいた。

「おそらく、スヴェン殿下の手の者だろう。私が君と接触したことを、もう掴んでいるのかもしれない……」

 先生は苦々しく呟いた。

『先生のせいで、私の大切な研究場所まで危険に…』

 いえ、違う。

 これは先生のせいではない。

 これは、スヴェン殿下の横暴のせいだ。

「先生…私の服も、すべて持ち去られているようですわ…」

 私は、荒らされたクローゼットを見た。

 普段着も、研究用のスーツも、そして――

「下着まで…!」

 私は、顔を真っ赤にした。

「変態ですわね、あの方々は! 私の下着を物色するなんて…!」

 先生は、バツが悪そうに視線をそらした。

「……すまない、アリア君。俺のせいで…」

「いえ、先生のせいではありませんわ。それに――」

 私は、自分の水着姿を見下ろした。

「この特殊スーツがあれば、当面は問題ありませんもの」

『でも…下着がない…ということは…この水着の下は…!』

 私は、自分の状況に気づき、さらに顔を赤らめた。

『こ、これは…黒の書の「見えないところにこそ大胆な罠」状態…!完璧ですわ!バイブルの教え通り…!』


 気を取り直した私は、工房の奥へと進んだ。

 そして――

「あった…!」

 私は、部屋の隅に置かれた、大きな布で覆われた何かを発見した。

 布を取り払うと、そこには――

 美しい銀色の髪を持つ、滑らかな曲線を描く女性型のアンドロイドが、静かに眠っていた。

「これは…!」

 先生が、驚きの声を上げた。

「レティシアですわ。私が、これまでの研究の集大成として作り上げた、最高傑作のアンドロイド…」

 私は、誇らしげに言った。

「でも…動かないのか?」

「ええ。レティシアは完成していますわ。ボディも、AI制御システムも、すべて。でも――」

 私は、レティシアの胸部を指差した。

「『核』がないのです。私には、魂を宿す『核』を作ることができませんでした…」

 先生は、懐から『コロ』の『核』を取り出した。

「なら…この『核』を使えば…」

「はい! コロさんの『核』と、先生が持ち帰られた日本のAI技術を融合させれば、レティシアは目覚めるはずです!」

 私は、目を輝かせた。


「でも、その前に――」

 私は、リカちゃん人形の箱を手に取った。

「この日本の人形を研究させてください。この技術を、レティシアに応用したいのです」

「分かった。だが、アリア君…それは本当にただの玩具だぞ?」

「いえ、先生は分かっていらっしゃらない! この人形の技術的価値を!」

 私は、作業台にリカちゃん人形を置くと、顕微鏡や精密ドライバーを用意した。

「いざ……日本の極小テクノロジーの真髄、拝見しますわ!」

 私は、緊張した面持ちで、リカちゃん人形の腕にドライバーを当てた。


 パカッ――


 腕が外れる音がした。

「……え?」

 私は、外れた腕を見つめた。

 中には――

 何もなかった。

 歯車も、バネも、魔力伝達路も。

 ただの、プラスチックの棒と、穴だけ。

 空っぽだった。

「な、中身が……ない?」

 私は、信じられないという表情で、人形の中を覗き込んだ。

「だから言っただろう? ただの玩具だって」

 先生が、苦笑しながら言った。

「そ、そんな……まさか、魔法で動いていたとでも? いや、魔力反応はない……」

 私は狼狽した。

 でも――

 私は、外れた腕をもう一度はめ込み、動かしてみた。

 滑らかに動き、ピタリと止まる。

「……まさか」

 私は戦慄した。

「歯車も動力も使わず……この『素材の摩擦』と『絶妙な公差』だけで、制御しているというのですか!?」

 私は、人形の関節部分を何度も動かしてみた。

 確かに、単純な球体関節と受け皿の構造だけだ。

 でも、それだけで、自由自在にポーズが取れる。

「複雑な機構を捨て、素材そのものの特性で機能させる……これぞ究極の『メンテナンスフリー構造』!」

 私は、感動で涙ぐんだ。

「日本の技術者は、ここまで計算して……!?」

(※先生:計算というか、コストダウンの結果なんだが……)

「これこそが…『引き算の美学』…!」

 私は、リカちゃん人形を胸に抱きしめた。


「先生! 分かりましたわ!」

 私は、興奮しながら先生に向き直った。

「私は、レティシアに複雑な魔導回路を詰め込みすぎていたのです! だから、動きが硬く、メンテナンスも大変で…!」

「でも、この人形の『単純さ』を応用すれば…関節そのものを『柔軟な魔力樹脂』で作れば、複雑な機械部品なんていらなかったんです!」

 私は、作業台に戻ると、レティシアの設計図を広げた。

「この関節部分を、リカちゃん人形の構造を参考に、シンプルに作り直せば…!」

 私は、日本から持ち帰った素材と、工房に残っていた魔力樹脂を使い、レティシアの関節部分を調整し始めた。


 その後、数時間にわたる作業の末――


 レティシアは、新しい関節構造と、『コロ』の『核』、そして日本のAI技術を融合させた、全く新しいアンドロイドとして、完成した。

「あとは、AIスマホからのデータの転送と、初期起動シークエンスだけです、先生」

 私は、額の汗を拭い、期待と緊張の入り混じった表情で、先生を見つめた。

 先生も、固唾を飲んで頷く。

「よし…始めるぞ」

 先生は深呼吸をし、AIスマホの画面をタップした。

 『コロ』の『核』とレティシアのボディを繋ぐように、幾筋もの青白い光のラインが走り、AIスマホから膨大な情報が流れ込んでいくのが、魔法的なエフェクトとして視認できる。

 工房内の魔力計が激しく振れ、周囲の機械が微かな唸りを上げた。

 私は、息を詰めてその光景を見守る。

 やがて、光の奔流が収まり、レティシアのボディが微かに痙攣した。

 そして――

 そのアイスブルーの瞳が、ゆっくりと開かれた。

 最初は何も映していなかったその瞳が、やがて工房の天井を捉え、次に隣に立つ私、そして最後に、目の前にいる先生の姿をはっきりと認識した。

「起動シーケンス、完了。自己診断……オールグリーン。……マスター?」

 レティシアの声は、合成音声でありながら、滑らかで、どこか落ち着いた響きを持っていた。

 そして、その声のトーンには、不思議と『コロ』の面影を感じさせる温かみがある。

 先生は、思わず目頭が熱くなるのを感じた。

「ああ…そうだ。私が、君のマスター、ヨルグ・シュタインだ。そして、こちらはアリア君。君の…母親のようなものだ」

「母親…? データにない概念です。再定義を要求します」

 レティシアは首を小さく傾げた。

 その仕草は、まるで生まれたばかりの子供のようだ。

 私は、その様子を見て、思わず笑みを浮かべた。

「ふふ…レティシアさん、これからたくさん教えてあげますからね」

『成功した…!コロさん、あなたの魂は、こうして新しい姿で蘇りましたわ…!』

 私の目から、喜びの涙が溢れてきた。

 そして、先生も――

 静かに、でも確かに、微笑んでいた。


 こうして、失われた相棒『コロ』は、美しいアンドロイド『レティシア』として、新たな命を得たのである――。


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