第38話 純白の衝撃と、近すぎる楽園
私が先ほど『無限収納箱』から取り出した純白のランジェリー『聖女のため息』を身にまとった時――
先生は、私に向き直り――
そして――
「先生。わたくしのこの"聖女の決意"、その身をもって、お確かめくださいまし…!」
私は、そう言ってそっと目を閉じ、純白のランジェリー『聖女のため息』をまとったその身を、先生に向かってほんの少しだけ背伸びをするように近づけた――その、まさに刹那。
ブファッ!!
鈍い音と共に、先生の鼻から鮮やかな赤い飛沫が飛び散った。
先生は大きく目を見開いたまま、まるで操り糸が切れた人形のように、ゆっくりと、そして抗うことなく後ろへと倒れ込んだ。
「先生っ!?」
私は驚きの声を上げ、迫っていた顔を慌てて離すと、床に崩れ落ちた先生に駆け寄った。
「先生、どうなさいましたか!? しっかりしてくださいまし! レティシアさん、先生の状態は!?」
レティシアさんは、倒れた先生のバイタルサインを冷静にスキャンしながら、私に淡々と告げた。
【マスターのバイタルサイン、急激に低下。心拍数は一時的に危険水域まで落ち込みましたが、現在は微弱ながらも安定を取り戻しつつあります。脳への酸素供給が瞬間的に滞ったものと推測されます。原因は、過度の精神的負荷、及びアリア様からもたらされた強烈な視覚情報による、脳の情報処理能力の限界超過と考えられます】
そして、レティシアさんは私の純白の姿を一瞥し、付け加えた。
【平たく申し上げますと、アリア様の現在の魅力が、マスターの許容量を大幅に超えてしまった結果、強制的にシステムダウン(気絶)なさったようです】
私は、自分の身にまとった『聖女のため息』と、ぐったりと意識を失っている先生を交互に見比べ、困惑した表情で首を傾げた。
「わたくしの…魅力…が…強すぎた…?」
私の愛読する『貴重な文献』には、殿方を気絶させるほどの魅力の副作用については、一切記述がございませんでしたのに…。
レティシアさんは、床に倒れたままの先生の頭をそっと持ち上げると、近くにあった私のリュックサックを彼の頭の下に素早く敷いた。
【このまま安静にしていれば、間もなく意識を取り戻されるかと。幸い、生命維持に関わる致命的なダメージは見受けられません】
私は――心配だった。
そして――申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
だから――私は、先生の頭をそっと持ち上げて、私の膝の上に乗せた。
膝枕――文献で読んだことがある。
『桃の書には「殿方が倒れた時、膝枕で介抱する女性は、殿方の心を癒す」と書いてある…』
◇
どれくらいの時間が経っただろうか。
先生は、ゆっくりと意識を取り戻し始めた。
うっすらと瞼を開けると、最初に視界に飛び込んできたのは、どこまでも清らかで繊細な、私の純白のレース生地だったはずだ。
そして、そのレースの向こう側から、心配そうに先生を覗き込む、私の優しいアイスブルーの瞳が見えたはずだ。
「先生、お気づきになりましたか? ご気分はいかがですの?」
私の声は、できるだけ優しく。
そして、先生は自分の頭が、私の太もも、すなわち膝枕状態であることに気づいたようだった。
「あ…ありあ…君…?」
先生は掠れた声で呟き、状況を把握しようとゆっくりと体を起こそうとした。
しかし、頭に鈍い痛みが走ったのか、先生は抗うことを諦め、再びゆっくりと私の膝に頭を預け直した。
私は――とても嬉しかった。
先生が、私の膝の上で、安心してくれているのが。
先生の顔は、みるみるうちに再び真っ赤に染まり、心臓が早鐘のように激しく鼓動しているようだった。
先生は必死に視線を彷徨わせるが、私の純白のランジェリーが織りなす姿から、そう簡単に目を逸らせないようだった。
私は、先生の真っ赤な顔を見て、まだどこか心配そうに首を傾げた。
「先生…やはりまだどこかお悪いのですか? お顔が、先ほどよりもさらに赤くなっていらっしゃいますわ」
先生は、首を横に振るのがやっとだった。
先生の口から絞り出された言葉は、蚊の鳴くような、か細い声だった。
「だ…大丈夫…だ…す、少し…疲労が溜まっているだけだ…」
しかし、先生の心臓の鼓動は、まるで祭りの大太鼓のように騒がしく鳴り響いているようだった。
そして先生の視線は、私の純白のランジェリーから、どうしても引き剥がすことができないようだった。
レティシアさんは、そんな私たち(主に先生のバイタルデータ)を冷静に見守りながら、報告を続けた。
【マスターのバイタルサイン、依然として不安定な状態が継続。特に心拍数及び血圧の変動幅が許容量を超過しています。アリア様の物理的な近接と、彼女の現在の服装が、マスターの自律神経系及び精神状態に、極めて重大かつ複雑な影響を与え続けていることは明白です】
私は――気づいていなかった。
先生が、私の膝枕の中で――目の前に広がるあまりにも近すぎる光景に――完全に「陥落」してしまっていたことを。
私は――ただ、先生を心配していただけだったのに。
そして――私の純白の『聖女のため息』が――先生にこれほどの影響を与えていたことを。
私は――少し、嬉しかった。
『文献の教えは…正しかった…先生が…私に…こんなにも…』
私の心の中で、何か温かいものが動いていた。
それは――先生への想いが、確実に深まっている証だった。




