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天才魔導師(美女30)が、情けない恩師(42)を全力で守って落とします ~ポンコツ乙女の暴走ラブコメ~  作者: よっしぃ@書籍化


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第3話 異界日本と、乙女の研究

 強烈なGと、空間が引き裂かれるような感覚の後、私は固い床の上で荒い息をついていた。

 先生の腕の中で、私はまだバスタオル一枚を体に巻き付けているだけだった。

「アリア君、大丈夫か?」

 先生の心配そうな声が聞こえる。

『先生の声…優しい…そして、私は先生の腕の中…』

 私は、ゆっくりと身を起こし、周囲を見回した。

 そこは、見たことのない、奇妙な部屋だった。

 薄暗い蛍光灯の光、プラスチック製の家具、ビニールのカーテン……見たこともない物質ばかりだ。

「ここは……どこ……?」

 私は、混乱しながら尋ねた。

「ここは…日本だ。俺が22年間過ごした、異界日本のアジトだ」

 先生の言葉に、私は息を呑んだ。

『異界日本…!先生がいらっしゃった場所…!』

 そして、私は自分の格好に気づき、顔を真っ赤にした。

「あ……わ、私としたことが……こんな……は、恥ずかしい……!」

 バスタオルを固く握りしめ、身を縮める私。

『でも…これは…ある意味、チャンス…?先生と二人きり、異界で、私はバスタオル姿…!』

「アリア君、今は気にするな。それより、これを」

 先生は、何やら古びた布のようなものを取り出した。

「サイズが合うか分からないが、ないよりはマシだろう」

 先生が差し出したのは、ヨレヨレのTシャツとジャージのズボンだった。元々、日本での質素な生活で着古した部屋着らしい。

「こ、これは……先生が普段着ていらした衣服……!」

 私は、渡された服を、まるで聖遺物のようにうやうやしく受け取った。

『先生の服…先生の匂いが…!』

 私の頬が熱くなった。

「俺は部屋の中で、元の世界へ戻るために役立ちそうな物資をかき集める。少し待っていてくれ」

 先生は、そう言って部屋の奥へと消えていった。


 一人残された私は、震える手で、先生の匂いが染み付いたTシャツに袖を通した。

 ブカブカで、襟元からは鎖骨が覗き、裾は太ももまで隠れる。ジャージのズボンは長すぎて、裾を何度も折らなければならない。

『先生の服…先生の匂いに包まれている…これは…これは…!』

 私は、Tシャツの襟元を鼻に近づけ、深く息を吸い込んだ。

 先生の匂い――それは、あの優しいラベンダーの香りと、先生自身の香りが混ざり合った、何とも言えない心地よい匂いだった。

『これを着ていれば、いつも先生と一緒…まるで先生に抱きしめられているよう…!』

 私は、幸せな気持ちに包まれながらも、すぐに我に返った。

『いえいえ!今はそんなことを考えている場合ではありません!まずは、この異界日本について理解しないと…!』


 部屋の中を見回す。

 壁には、見たことのない素材の「紙」のようなもの(ポスター?)が貼られている。その上には、日本語らしき文字が書かれているが、私には読めない。

 床には、薄い「布」のようなもの(カーペット?)が敷かれている。

 そして、部屋の隅には、黒い箱のようなものがあった。

『あれは…何かしら…?』

 私は、恐る恐る近づいた。

 黒い箱の表面は、滑らかで、鏡のように光を反射している。そして、その正面には、何やらボタンのようなものがついている。

『これは…魔道具…?』

 私は、そっとボタンを押してみた。

 すると――

 突然、箱の表面が光り始め、そして――

「きゃあ!?」

 そこには、動く人間の姿が映し出されていた!

 私は、驚きのあまり後ずさった。

『な、何ですの!?人が…箱の中に閉じ込められて…!?』

「アリア君、それはテレビだ。驚かせてしまったか?」

 先生が、慌てて戻ってきた。

「て、テレビ…?」

「ああ、映像を映し出す装置だ。人が閉じ込められているわけじゃない。安心してくれ」

 先生は、優しく説明してくれた。

『映像を映し出す装置…!これが日本の技術…!』

 私は、テレビの画面に釘付けになった。

 そこには、美しい女性が、男性に何やら話しかけている姿が映っていた。そして、突然、その女性が男性を壁に押し付け、顔を近づけた――

『!?』

 私は、息を呑んだ。

『あ、あれは…!壁に手をついて、顔を近づけて…!これが日本の恋愛術…!?』

 私は、画面に映る光景を食い入るように見つめた。

 そして、テレビの中の女性が、何やら甘い声で男性に囁いている。

「…好きなの…」

『き、聞こえましたわ…!「好き」と…!これは告白…!そして、あの壁に押し付ける技…これが日本の女性の戦術ですのね…!』

 私は、心の中でメモを取った。

(指南書を置いてきてしまいましたけれど、この日本の映像装置『テレビ』が新しい聖典になりますわ…!)


「アリア君、何をそんなに真剣に見ているんだ?」

 先生が、不思議そうに尋ねてきた。

「あ、いえ!日本の…その…文化を研究していましたの!」

 私は、慌てて答えた。

『先生には、まだ私の作戦を知られるわけにはいきません…!』

「そうか。まあ、君は研究熱心だからな」

 先生は、苦笑しながら言った。


 その後、先生は部屋の中で物資を集め始めた。

「アルミホイル、1円玉のストック……アルミニウムは向こうでは貴重な魔法触媒になるはずだ。全部持っていく」

「サランラップ、ジップロック……保存用に使える」

「塩、コショウ、醤油、マヨネーズ……向こうの味気ない食事はもうごめんだ」

 先生は手当たり次第に、しかし明確な意図を持って、日本の日用品を非常用カバンや洗濯カゴに詰め込んでいく。

『先生は、こんなに計画的に…さすがですわ…!』


「アリア君、腹は減っていないか?少し外に出て、食料を調達してくる」

「外…!?私も一緒に…!」

「いや、君はその格好では目立ちすぎる。ここで待っていてくれ」

『そうですわね…このダボダボのジャージでは…』

 私は、残念そうに頷いた。


 先生が外出している間、私は部屋の中を探索した。

 そして、先生の「本棚」を発見した。

 そこには、様々な「本」が並んでいる。日本語で書かれているため、私には読めないが、表紙の絵を見るだけでも興味深い。

 特に、私の目を引いたのは、色とりどりの表紙を持つ、薄い本だった。

『これは…?』

 私は、その本を手に取った。

 表紙には、美しい女性の写真が載っている。そして、その横には「恋愛特集」「彼を落とす7つのテクニック」などの文字が――

『!』

 私は、心臓が高鳴るのを感じた。

『これは…日本の恋愛指南書…!?』

 私は、その本をじっくりと眺めた。

 中には、様々な女性のファッションや、化粧の方法、そして――男性との接し方についての記事が載っているようだった。

 写真を見ているだけでも、何となく内容が伝わってくる。

『日本の女性は、こうやって殿方を…!なんと大胆な…!でも、これは勉強になりますわ…!』

 私は、その雑誌を大切に抱きしめた。

『指南書を失ってしまいましたけれど、この日本の恋愛指南書があれば…!』


 しばらくして、先生が戻ってきた。

 手には、透明な袋(ビニール袋?)に入った、様々な食べ物が入っている。

「アリア君、日本の食事だ。口に合うか分からないが…」

 先生が取り出したのは、三角形の白いおにぎりと、何やら丸いパン(菓子パン)、そして謎の容器に入った麺(カップ麺)だった。

「これは…?」

「おにぎりだ。米を握って作ったものだ。日本では一般的な食事だよ」

 先生は、おにぎりの包装を開けてくれた。

 私は、恐る恐るそれを手に取り、一口かじってみた。

「…!」

 美味しい。

 シンプルだけれど、米の甘みと、中に入っている具材(梅干し?)の酸味が絶妙に調和している。

「美味しい…!これが日本の食事…!」

 私は、感動しながらおにぎりを食べ続けた。

『先生が獲ってきた獲物…!先生が私のために…!これは…これは愛の証…!』

 私の妄想は、止まらない。

「気に入ってくれたようで良かった。これは菓子パンと言って…」

 先生は、次々と日本の食べ物を紹介してくれた。

 私は、そのすべてに感動し、そして――

『先生が、私のためにこんなに…!』

 幸せな気持ちに包まれた。


 食事の後、先生は言った。

「明日、街に出て、必要な物資を調達する。君の服も買わないとな」

「服…!?」

「ああ、そのジャージではさすがに外を歩けないだろう」

『服…!日本の服…!』

 私は、目を輝かせた。

『日本の女性のファッション…!あの雑誌に載っていたような…!』


 その夜、私は先生の部屋の片隅で、布団(先生が用意してくれた)に横になった。

 先生は、少し離れた場所で、同じように布団に横になっている。

 薄暗い部屋の中、私は先生の寝息を聞きながら、今日一日のことを思い返した。

『異界日本…不思議な場所…でも、先生がいてくれる…』

 私は、先生から借りたTシャツの襟元を、もう一度鼻に近づけた。

 先生の匂い。

 それは、私にとって、何よりも心地よい、安心する匂いだった。

『明日は、日本の街を探索…そして、先生との時間…』

 私は、幸せな気持ちに包まれながら、眠りについた。

 そして、枕元には――先生の本棚から拝借した、日本の女性向けファッション雑誌が、しっかりと置かれていた。


 翌日――


「よし、行くぞ、アリア君」

 先生に促され、私は日本の街へと繰り出した。

 昨晩、先生が用意してくれた、少しだけマシな服(それでも、先生の古着だが)を着て。

 そして、足元には――先生のサンダルを履いている。

 ブカブカで、歩くたびにパタパタと音がする。

『先生のサンダル…大きすぎますわ…でも、これも先生の匂いが…!いえ、今はそんなことを…!』

 私は、歩きにくいサンダルに四苦八苦しながら、先生についていった。


 最初に訪れたのは、『100円ショップ』という場所だった。

「ここでは、様々な日用品が安く手に入るんだ」

 先生の説明を聞きながら、私は店内に入った。

 そこは――

 宝の山だった。

「先生!これを見てくださいまし!」

 私が手に取ったのは、銀色に輝く薄い「紙」(アルミホイル)だった。

「これは…アルミニウムの薄膜…!?こんなに薄く加工できるなんて…!しかも、こんなに安価で…!」

「ああ、それはアルミホイルと言って、食品の保存などに使うんだ」

「食品の保存…!でも、この素材…魔法触媒としても使えますわ…!」

 私は、興奮しながら、次々と商品を手に取った。

「これは…透明な膜…!(サランラップ)何という精密な加工…!」

「これは…密閉できる袋…!(ジップロック)保存魔法の代替品ですわ…!」

 先生は、私の興奮ぶりに苦笑しながらも、必要なものをカゴに入れていく。

『日本の技術は素晴らしい…!これらを持ち帰れば、王国の技術は飛躍的に向上しますわ…!』


 次に訪れたのは、『おもちゃ売り場』だった。

「先生、こちらは…?」

「ああ、子供の玩具を売っている場所だ。君には関係ないかもしれないが…」

「いえ!見せてくださいまし!」

 私は、先生の手を引いて、店内に入った。

 色とりどりの玩具が並ぶ中、私の目は、ある一角に釘付けになった。

 人形――それも、極めて精巧な人形たちが、ガラスケースの中に美しく並んでいる。

「先生…!あれを…!」

 私は、まるで磁石に引き寄せられるように、そのコーナーへと駆け寄った。


 そこにあったのは、『リカちゃん人形』と呼ばれる、日本の代表的な着せ替え人形だった。

 身長約22センチ。長い栗色の髪。大きな瞳。そして――

「これは…!」

 私は、震える手で人形を手に取った。

 店員に許可を得て、人形の腕を動かしてみる。

「関節が…11箇所も可動する…!?」

 肩、肘、手首、腰、股関節、膝――それぞれが、滑らかに、そして自然に動く。

「信じられませんわ…!この可動域…!人間の関節の動きを、ここまで精密に再現するなんて…!」

 私は、技術者としての興奮を抑えきれなかった。

「アリア君、それはただの子供の玩具で…」

「ただの玩具ですって!?」

 私は、先生を睨みつけた。

「先生!この人形の技術的価値が分かりますか!?」

 私は、人形を先生の目の前に突き出した。

「まず、この関節の構造を見てくださいまし!」

 私は、人形の腕の関節部分を指差した。

「この球体関節…プラスチック成形でここまでの精度を出すには、恐らく0.1ミリ単位の金型技術が必要ですわ!しかも、この素材の柔軟性と耐久性のバランス…!」

「そして、この髪の毛の植毛技術!」

 私は、人形の髪を優しく撫でた。

「一本一本が頭部に植え込まれている…!この密度、この質感…!王国のゴーレム技術では、髪の毛の再現は最大の課題の一つですのに…!」

「さらに!」

 私は、人形の顔を凝視した。

「この瞳の造形…!瞳孔、虹彩、ハイライト…すべてが多層構造で表現されている…!まるで本物の人間のような…いえ、それ以上の美しさ…!」

 私は、完全に技術者モードに入っていた。

「そして、この肌の質感…!触ってみてください、先生!」

 私は、先生の手を取り、人形の腕に触れさせた。

「この滑らかさ…!この温かみのある色合い…!これは…これは…!」

 私の目から、涙が溢れてきた。

「これは…革命ですわ…!」


 先生は、私の興奮ぶりに圧倒されていたが、やがて優しく微笑んだ。

「…君は本当に、技術者なんだな」

 そして、私の頭をポンポンと撫でた。

『!』

 私は、固まった。

『せ、先生が…!頭を…!』

 心臓が、激しく鳴り響く。

『これは…桃の書の「父性的な優しさに甘える」…いえ違う!私は恋人として見てもらいたいのに…!でも…でも…幸せ…!』

「よし、それも買おう。君の研究の役に立つなら」

「は、はい…!ありがとうございます、先生…!」

 私は、顔を真っ赤にしながら、人形を抱きしめた。


「あの…他にも、種類がございますの…?」

 私は、店員に尋ねた。

「はい、こちらにリカちゃんシリーズの様々なバージョンがございます」

 店員が案内してくれたのは、さらに多くの人形が並ぶコーナーだった。

「こちらは『ヘアアレンジリカちゃん』で、髪の毛をカットしたりアレンジできるタイプです」

「髪の毛をカット…!?つまり、この髪は切断しても問題ない強度と、再生可能な構造を…!?」

「こちらは『着せ替えセット』で、様々な衣装がついています」

「衣装…!」

 私は、小さな衣装を手に取った。

 ワンピース、ジーンズ、コート――どれも精巧に作られている。

「この縫製技術…!このサイズでボタンやファスナーまで…!」

 私は、もはや言葉にならない感動を覚えていた。

「先生!これらも…研究のために…!」

「…ああ、分かった。必要なだけ買おう」

 先生は、苦笑しながらも、私の要望を聞き入れてくれた。


 結果、私は以下を購入した:


 リカちゃん人形(基本モデル)×3体

 各種着せ替え衣装セット×5

 ヘアアレンジセット×1


「アリア君…これ、全部持ち帰れるのか…?」

「問題ありませんわ!これらは、レティシアさんの設計に不可欠な研究資料ですもの!」

 私は、目を輝かせながら答えた。

『この関節構造を応用すれば、レティシアさんの指の可動域を大幅に向上できますわ…!そして、この髪の毛の植毛技術は、より自然な外見を…!さらに、この肌の質感は…!』

 私の頭の中では、既にレティシアの設計図が回転し始めていた。


「先生、日本の技術は本当に素晴らしいですわ!これらの『玩具』一つ一つが、王国では最先端の魔導工学に匹敵する技術の結晶ですもの!」

「…そう言ってもらえると、日本人として嬉しいな」

 先生は、どこか誇らしげに微笑んだ。

 その笑顔を見て、私の心は――

『先生の笑顔…素敵…!もっと、先生を喜ばせたい…!』

 私は、新たな決意を胸に、リカちゃん人形を大切に抱きしめた。

 この人形たちが、後にレティシアを誕生させる重要な鍵となることを、この時の私はまだ知らなかった――。


 次に訪れたのは、『薬局』だった。

「ここでは、薬や日用品が手に入る」

 先生の説明を聞きながら、私は店内を見回した。

 そして――

「先生、この『冷えピタ』というのは…?」

 私が手に取ったのは、青い箱に入った、何やら薄いシートだった。

「ああ、それは熱が出た時に額に貼るんだ。冷却効果がある」

「額に…?」

 私は、箱の説明を読もうとしたが、日本語が読めない。

「まあ!これは冷却魔法を封じ込めた魔道具ですのね!」

 私は目を輝かせた。

『魔法を使わずに冷却効果を…!これは素晴らしい…!』

「それと、この『絆創膏』も便利だぞ」

「ばんそうこう…?」

「怪我をした時に貼るんだ。傷口を保護して、治りを早くする」

「傷口の保護…治癒促進…!」

 私は、絆創膏のパッケージを手に取った。

「これは回復魔法の代替品ですわね!王国に持ち帰れば、戦場での治療に革命が…!」

『先生はこんな便利なものを22年間も使っていらしたのですね…!』

 私は、次々と商品を手に取り、カゴに入れていった。


 そして、薬局の一角で、私は見つけた。

「先生、この棚は…?」

 そこには、様々な瓶や箱が並んでいた。

「ああ、それはサプリメントと言って、美容や健康のために飲むものだ」

「美容…!」

 私は、その棚に近づいた。

 そして、一つの箱を手に取った。

「『コラーゲン』…『お肌ぷるぷる』…まあ!」

 私は、パッケージの絵を見た。美しい女性が微笑んでいる。

『これは…若返りの秘薬…!?』

「『ビタミンC』…『美白効果』…これも…!」

 私は、次々と手に取った。

『これを飲めば、私ももっと綺麗になれる…!そうすれば、先生は…!』

「先生、これらも王国に持ち帰れば、貴族の令嬢たちが殺到しますわ!」

「そこまで効くかどうかは分からないが…まあ、君が欲しいなら買おう」

『先生が認めてくださった…!』

 私は、幸せな気持ちに包まれながら、サプリメントをカゴに入れた。

 そして――

 私は、ある商品を見つけた。

「これは…?」

 それは、『女性ホルモン』と書かれたサプリだった。

「! それは君には必要ないだろう!」

 先生は慌てて、私の手から取り上げた。

『? なぜ先生は慌てているのかしら…?』

 私は首を傾げたが、先生の慌てる姿が可愛くて、思わず微笑んでしまった。

『先生の慌てる姿も素敵…!』


 最後に訪れたのは、『書店』だった。

「ここでは、本や雑誌が売られている」

 先生の説明を聞きながら、私は店内を見回した。

 そして――

 私は、それを見つけた。

「先生!これを…!」

 私が手に取ったのは、色とりどりの表紙を持つ、女性向けのファッション雑誌だった。

 表紙には、美しい女性の写真が載っている。そして、「恋愛特集」「彼を落とす10のテクニック」などの文字が――

「これが…日本の恋愛指南書…!」

 私は、興奮しながら雑誌を抱きしめた。

「アリア君…それは恋愛指南書というより、ファッション雑誌だが…」

「いえ、これは私にとって重要な研究資料ですわ!」

 私は、真剣な表情で言った。

『指南書を失ってしまいましたけれど、これがあれば…!日本の女性の恋愛術を学べば…!』

「…まあ、君がそう言うなら」

 先生は、諦めたように頷いた。


 その後、衣料品店でようやく私の服を購入した。

 シンプルなTシャツとジーンズ、そして下着。

「先生、こちらとこちら、どちらが似合いますか?」

 私は、二着の服を手に取り、先生に尋ねた。

「え…ああ…どちらも似合うと思うが…」

 先生は、明らかに困惑していた。

『先生、可愛い…!』

 私は、内心でニヤニヤしながらも、外面は冷静を装った。

「では、こちらにいたしますわ。それと、靴も必要ですわね」

 私は、シンプルなスニーカーも選んだ。

 先生のサンダルを借りていたが、やはり自分の靴がないと不便だ。それに、元の世界に戻った時のことも考えなければならない。

「これで、一通り揃いましたわ」

 服、靴、下着、日用品――必要なものは全て揃えた。

 私は、常に先を見据えて行動する。技術者として、そして5冊のバイブルで恋愛術を完璧にマスターした女性として、当然のことだ。


 買い物を終え、アパートに戻った私たちは、コロの状態を確認した。

 コロは、相変わらず動かず、その核の光も、さらに弱々しくなっていた。

「コロさん…!」

 私は、コロに駆け寄った。

「先生、私が必ず治して見せます!日本の技術と、私の魔法工学を組み合わせれば…!」

 私は、決意を新たにした。

 でも――

 コロの状態は、私が思っていた以上に深刻だった。

 日本では、修理に必要な魔法的な素材や、特殊な部品が手に入らない。

「アリア君…コロは…」

 先生の表情が、暗く沈んだ。

 私は、先生の手を握った。

「先生、諦めないでください。必ず、方法はあります」

 私は、先生を励ましながらも、内心では焦っていた。

『コロさんを救うには…元の世界に戻らなければ…!』


 その夜、私は先生の隣で、布団に横になった。

 今日一日、日本の街を探索し、様々なものを見て、そして――先生との時間を過ごした。

 幸せだった。

 でも、同時に、コロの状態が気がかりだった。

『コロさん…必ず、助けますから…!』

 私は、そう心の中で誓いながら、パジャマに着替えた。

 日本で買った、薄手のピンク色のパジャマ。

 枕元には、今日購入した日本のファッション雑誌と、リカちゃん人形の箱が、しっかりと置かれていた。


 そして――私の日本での冒険と、先生への「全力アプローチ作戦」は、まだ続いていた。

 ――そう、思っていた。


 深夜。

 私は、突然の電子音に目を覚ました。

 ピピピピピピッ――

 それは、警告音だった。

「…?」

 薄暗い部屋の中、先生のAIスマホが、赤く激しく明滅している。

 私は、嫌な予感に襲われながら、そっと画面を覗き込んだ。

 そこには――

【緊急警告:次元ゲート起動システム、臨界点到達】

【コア・エネルギー残存率:3.2%】

【帰還可能時間:残り28分】

 私の心臓が、凍りついた。

 そして、部屋の隅で横たわるコロの姿を見た。

 その胸部の核は、もはやほとんど光を失い、か細く、不規則に明滅を繰り返している。

『コロさん…!』

 私は、息を呑んだ。

 そして――

「先生!先生!起きてください!」

 私は、慌てて先生を揺り起こした。

 私たちの日本での平和な時間は、突然、終わりを告げようとしていた――。


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