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天才魔導師(美女30)が、情けない恩師(42)を全力で守って落とします ~ポンコツ乙女の暴走ラブコメ~  作者: よっしぃ@書籍化


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第28話 ぬくもりの代償と、天使の無邪気な『おかわり』

 深夜。エルリック様の隠れ家の一室。

 

 私は、とても素敵な夢を見ていた。

 

 温かい。とても温かい。

 先生の肩は、大きくて、温かくて、とても安心できる。

 

『桃の書には「男性の温もりは、女性の心を慰める」と書いてある…!』

 

 私は、とても幸せに、先生の肩に頭をもたせかけて眠っていた。

 

 しかし、夢の中の私は、気づかなかった。

 

 自分の華奢な体が、いつの間にか先生の体全体にすり寄せ、あろうことか先生の腕を抱き込むようにして、無意識のうちに「抱き枕」になっていたことに。

 

 柔らかな髪が先生の首筋をくすぐり、温かな吐息が耳元にかかる。

 

 そして、ガウンの合わせ目がわずかにはだけ、スリップの感触が先生の腕に伝わっていた。

 

 私は知らなかった。

 

 先生がこの時、身じろぎ一つできず、石像のように動けない状態になっていたことを。

 

          ◇

 

 時折、私は寝言を呟いた。

 

「ん…せんせぇ…この数式は…」

 

 私は気づかなかった。

 その言葉のたびに、先生の心臓があらぬ方向に跳ね上がっていたことを。

 

          ◇

 

 翌朝。

 

 私は、とてもすっきりと目覚めた。

 

「ん……ふぁ~……。よく、眠れましたわ……」

 

 ゆっくりと目を開けると、至近距離にある先生の顔があった。

 

 私は、自分が先生に抱きつくような形で眠っていたことに気づいた。

 

 一瞬だけ「あっ」と小さく目を見開いたが――

 

 次の瞬間には、花が綻ぶような満面の笑みを浮かべた。

 

「おはようございます、先生! 昨夜は本当にありがとうございました! 先生がそばにいてくださったおかげで、それはもう、とっっっても安心してぐっすり眠れましたわ!」

 

 私は、キラキラと瞳を輝かせた。

 

「まるで、昔お父様が作ってくれた、大きなクマのゴーレム(試作品)の隣で寝た時みたいに、温かくて、大きくて、すごく安心できたんですの。夢も見ませんでしたわ!」

 

 先生の顔色は、とても悪かった。

 

 土色を通り越して青黒い。

 

『紫の書には「男性の体調を気遣うことで、好感度が上がる」と書いてある…!』

 

 私は、こてんと首を傾げ、キラキラした瞳で続けた。

 

「つきましては先生、大変申し上げにくいのですが…もし、先生のご迷惑でなければ…その…今晩も一緒に寝ましょう?」

 

 私は、とても真剣な顔で付け加えた。

 

「わたくし、こんなに質の高い睡眠は本当に久しぶりで、今日の研究も、ものすごく捗りそうですの! 先生にとっても、わたくしの安眠は有益だと思いませんこと?」

 

『蒼の書には「合理的な提案は、男性に信頼される」と書いてある…!』

 

 先生は、完全に言葉を失った。

 

          ◇

 

 その後の工房。

 

 先生は、しどろもどろに私の提案を辞退しようとした。

 

「あ、アリア君、その、人間にはな、パーソナルスペースというものがあってだな…その、一緒に寝るというのは、その、色々と誤解を招くというか、だな…」

 

 私は、きょとんとした顔で先生を見た。

 

「パーソナルスペース? 合理的ではありませんわ。むしろ、睡眠時の体温維持や心理的安定効果を考慮すれば、ある程度の密着は推奨されるべきかと。レティシアさん、そのあたりのデータは?」

 

 レティシアさんは、淡々と答えた。

 

【アリア様の睡眠効率及び心理的安定性に関する昨夜のデータは極めて良好でした。マスターのストレス指数は危険域でしたが、これは慣れの問題と、睡眠環境の最適化で改善可能です】

 

『レティシアさん…さすが…!私の最高傑作…!』

 

 結局、先生はその日一日、使い物にならなかった。

 

          ◇

 

 そして夜。

 

 私は、先生の袖を引いた。

 

「先生、今夜の寝床の準備はできましたわ! 今日はわたくしが、先生を温めて差し上げますね!」

 

 私は、満面の笑みで先生を見上げた。

 

 先生の顔は、とても複雑な表情になっていた。

 

 私は、少し心配になった。

 

「…先生? まさか、わたくしと一緒に寝るのが、そんなにお嫌なのですか…? わたくし、何か先生にご迷惑をおかけしましたでしょうか…?」

 

 私は、少し潤んだアイスブルーの瞳で、じっと先生を見上げた。

 

『桃の書には「潤んだ瞳は、男性の罪悪感を刺激する」と書いてある…!』

 

 工房の隅では、エルリック様が肩を震わせながら笑っている。

 レティシアさんは「マスターの心拍数、急上昇。アリア様の行動パターンに対する有効な回避策を構築できていない模様です」と冷静な実況を続けている。

 

「さあ、先生! 最高の安眠をお約束しますから、早くこちらへいらしてくださいまし!」

 

 私は、先生の片手を両手でしっかりと掴むと、有無を言わさず寝台へと引いた。

 

 先生は、なすすべもなかった。

 

          ◇

 

 その夜も、私は先生の隣で、とても幸せに眠った。

 

 すぐに安心しきった寝息を立て始め、無意識のうちに先生の方へと身を寄せ、彼の腕にすっぽりと収まった。

 

 そして、夢現つなのか、先生の頬に、そっと自分の柔らかな頬をすり寄せた。

 

「せんせぇ…あったかいです……すぅ……」

 

 私は、とても安心していた。

 

 先生の温もりは、とても素敵だった。

 

          ◇

 

 翌朝。

 

 私は、これ以上ないほどすっきりとした笑顔で目覚めた。

 

「おはようございます、先生! 昨夜も、先生のおかげでとーってもよく眠れましたわ! やっぱり、先生の隣は世界で一番安心できる寝床ですのね!」

 

 私の太陽のような笑顔に、先生も思わず頬が緩んだ。

 

「…ああ。おはよう、アリア君」

 

 先生の声は、とても穏やかで、優しさに満ちていた。

 

 私は、先生の声の温かさに、胸がポカポカと温まった。

 

『紫の書には「柔らかな声は、恋の始まりを示す」と書いてある…!'''

 

 レティシアさんは、「マスターとアリア様の睡眠時における相互作用データ、良好な結果を継続。アリア様の『温め効果』は、マスターの精神安定に顕著な影響を与えるようです」と、とても嬉しそうに報告した。

 

 私は、内心でガッツポーズをした。

 

『計算通り…いえ、計算以上の効果ですわ…!'''

 

 先生の声の色が変わった。

 

 それは――私の「先生攻略作戦」が、着実に、成果を実らせていた証拠だった。

 

          ◇

 

 エルリック様は、作業台の上に広げた古文書を見ながら、満足げに頷いた。

 

「さて…『古代の自動工房』への道のりは、なかなかに険しいぞ。鉄鼠組の残党も完全には壊滅しておらんし、何より、その奥には『番人』がおるという伝説もある。お前さんたち、本当に行く覚悟はできておるか?」

 

 私は、先生の方を見た。

 

 先生は、古文書を見つめながら、静かに頷いた。

 

 私も、しっかりと頷いた。

 

『桃の書には「共に困難へと踏み出す決意は、二人の絆を強固にする」と書いてある…!』

 

『計算通り…いえ、計算以上の展開ですわ…!』

 

 私の「先生攻略作戦」は――新たな局面へと、進んでいった。


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