第26話 叡智の融合と、未来の設計図
自由都市リューンの地下、エルリック様の隠れ家兼工房は、この数日、かつてないほどの熱気に包まれていた。
鉄鼠組との一戦を終え、貴重な『試作型高効率エネルギーコア』を手に入れた私たちは、束の間の休息もそこそこに、その解析と応用、そして新たな戦力となる小型ゴーレムの開発準備に没頭していた。
「…このエネルギーコア、やはり日本のオーバーテクノロジーの結晶ですわ。アストリアの魔石とは比較にならないほど、高密度かつ安定したエネルギーを内包しています。ただ、その構造はあまりにも複雑で…」
私は、工房の作業台に慎重に設置されたエネルギーコアを、特殊な魔力レンズと日本の技術データを交互に見比べながら、感嘆と困惑の入り混じったため息をついた。
『先生の世界の技術…本当に素晴らしいですわ…!』
私の服装は、相変わらずあの黒地に青いラインの特殊水着だが、その上からエルリック様が貸してくれた革のエプロンをしっかりと着込んでいる。
『これが、私の「工房での正装」ですわ…!』
「レティシア、AIスマホとの連携で、このコアのエネルギー変換効率と、コロの核との適合性について、詳細なシミュレーション結果を出せるか?」
先生は、私の隣で、同じくホログラムディスプレイを操作しながら指示を出す。
『先生…かっこいいですわ…!』
『蒼の書には「仕事に真剣な男性は、魅力的に見える」と書いてある…!』
「はい、マスター。現在、コロの核と日本式エネルギーコアの最適融合パターンをシミュレーション中です。J-ECを主動力源とし、レティシア・プライマリコアを補助及び魔力変換インターフェースとして使用した場合、私の活動時間は現状の約18倍、最大出力は3.7倍に向上すると予測されます。ただし、融合にはアリア様の高度な魔法工学技術と、エルリック様の錬金術による特殊な触媒が必要となります」
レティシアさんは、淡々と驚くべき数値を報告する。
「18倍ですって!? それは素晴らしいわ! エルリック様、その『特殊な触媒』について、何か心当たりは…?」
私は、工房の奥で薬草を調合していたエルリック様に期待の眼差しを向けた。
エルリック様は、怪しげな色の液体が煮立つ鍋をかき混ぜながら、ニヤリと笑う。
「ふぉっふぉっふぉ…儂にかかれば、不可能を可能にするのが錬金術じゃわい。もっとも、その『J-EC』とやらを完全に理解し、お前さんたちのアンドロイドに適合させるには、それなりの時間と…まあ、いくつかの『お使い』が必要になるやもしれんがのう」
『エルリック様…頼りになりますわ…!』
「エネルギー問題に目処が立てば、いよいよ小型ゴーレムの開発も本格化できるな」
先生は、テーブルの上に広げられた数枚のスケッチに目をやった。
それは、私と先生が、レティシアさんのAIによる提案も参考にしながら描いた、様々な形状の小型ゴーレムの設計図だった。
犬型、鳥型、蜘蛛型…それぞれが偵察、戦闘支援、物資運搬といった異なる役割を担う想定だ。
『私と先生の共同作業…!』
『蒼の書には「共同作業は二人の絆を深める」と書いてある…!』
「ボディの素材には、やはり日本から持ち帰った『アルミニウム合金』のデータを元に、アリア君が開発中の新素材を使いたい。軽量かつ高強度、そして魔法抵抗もあるとなれば、これ以上のものはないだろう」
「はい、先生! エルリック様からも古代の金属精錬技術について助言をいただき、試作は順調に進んでいます。ただ、量産化となると、やはり安定した素材供給と、高度な加工技術が必要になりますが…」
『先生が…私の技術を認めてくださっている…!』
その時、レティシアさんが新たな情報を提示した。
「マスター、アリア様。アリア様の師君から託された古文書の解読に進展がありました。その中に、このリューンの地下深くに、かつて存在したという『古代の自動工房』に関する記述を発見。そこには、失われた金属精錬技術や、ゴーレムの自動生産ラインが存在した可能性が示唆されています」
「何!? 古代の自動工房だと…?」
私と先生は顔を見合わせた。
『これは…!』
それは、私たちが抱える問題を一気に解決できるかもしれない、とんでもない情報だった。
「ただし」とレティシアさんは続けた。「その場所は、現在の廃坑区画よりもさらに深く、危険な魔物や古代の罠が数多く存在するとも記されています。そして…その工房の入り口は、エルリック様が仰っていた鉄鼠組の拠点『黒曜石の間』の、さらに奥にある可能性が高いです」
「…つまり、またあの忌々しい場所へ行く必要がある、ということか」
先生は、苦々しく呟いた。
『またあの場所へ…!』
『桃の書には「困難な状況を繰り返し乗り越えることで、二人の絆は強固になる」と書いてある…!』
『これは…チャンスですわ…!』
エルリック様が、調合の手を休めて言った。
「ふむ…『古代の自動工房』か。確かに、そんな伝説は聞いたことがある。もしそれが真実なら、お前さんたちの『小型ゴーレム軍団』構想も、あながち夢物語ではなくなるやもしれんのう。だが、そこへたどり着くのは容易ではあるまい。鉄鼠組の残党もそうじゃが、それ以上に厄介な『番人』がおるという噂じゃ」
新たな目標と、新たな危険。
しかし、私の目には、臆する色よりも、むしろ挑戦への意欲が強く輝いていた。
『先生と一緒なら…どんな困難も乗り越えられますわ…!』
私たちの手で、失われた技術が蘇り、そして未来が大きく変わろうとしているのかもしれない。
その第一歩として、まずはレティシアさんのエネルギーコア換装と、小型ゴーレムの最初の試作機を完成させることが、当面の目標となった。
リューンの地下深く、老錬金術師の隠れ家で、私は静かに、しかし確実に未来を形作り始めていた。
『そして…私の「先生攻略作戦」も…!』
私は、先生の横顔をそっと見つめた。
真剣な表情で、エネルギーコアのデータを解析している先生。
『紫の書には「共に目標を追う時間は、恋を育む」と書いてある…!』
私は、内心で微笑んだ。
『計算通り…いえ、計算以上の展開ですわ…!』
私の「先生攻略作戦」は、技術の発展と共に――着実に前進していた。




