第20話 アリアの秘密兵器(?)と、先生最大の危機
作戦の概要が決まり、それぞれが最終準備に取り掛かろうとした、その時だった。
「先生、レティシアさん、実はもう一つ、試作が完了したものがございまして…」
私は、どこか自信ありげな笑みを浮かべて、工房の奥から大きな布に包まれた何かを二つ、運んできた。
『これは…私の最高傑作ですわ…!』
『先生、きっと驚いてくださいますわ…!』
「なんだ、アリア君。まだ何か隠していたのか?」
先生が、訝しげに尋ねる。
私は、得意げに布を払った。
現れたのは――二体の、人間と見紛うほど精巧に作られた「人形」だった。
一体は、私自身に瓜二つの、美しい黒髪とアイスブルーの瞳を持つクールビューティーな人形。
もう一体は、レティシアさんそっくりの、銀髪とアイスブルーの瞳を持つ、どこか神秘的な雰囲気を漂わせる人形。
どちらも、私がリューンで購入した「防御結界付き最新素材下着」――黒いレースの下着を身に着けている。
『完璧ですわ…!』
「こ、これは…まさか、リカちゃんゴーレム計画を諦めていなかったのか!?」
先生が、絶句した。
「いいえ、先生。これは『潜入補助及び情報収集用・高機能自律型ヒューマノイド・ユニット』ですわ。愛称は…アリアMk-IIとレティシアMk-II、といったところでしょうか」
私は、胸を張った。
『蒼の書には「技術力を見せることで、男性に尊敬される」と書いてある…!』
『これで、先生は私の技術を認めてくださるはず…!』
「小型動物型ゴーレムも有効ですが、人間社会に潜入し、より複雑な情報を収集・操作するには、やはり人型が最適かと。それに、万が一の時は、これらが囮になることも可能ですのよ?」
レティシアさんは、自分そっくりの人形を興味深そうにスキャンしている。
「…アリア様の製作技術、素晴らしいです。このヒューマノイド・ユニットの関節構造、及び人工皮膚の質感は、私のボディデータと比較しても遜色ありません。ただし、動力源とAIの連携については、まだ最適化の余地がありそうですが」
『レティシアさんにも認められましたわ…!』
私は、嬉しくなった。
「そこで、先生にお願いがあるのです」
私は、真剣な表情で先生に向き直った。
「この二体のユニットの最終調整と、機能評価をお願いしたいのです。特に、この…ええと、ボディの細部の可動域や、センサーの感度、そして何よりも…この『防御結界付き最新素材下着』との親和性を、実際に確認していただきたくて」
私は、アリアMk-IIの前に先生を促し、その下着の肩紐に手をかけさせた。
『紅の書には「大胆な提案は、男性を動揺させる」と書いてある…!』
『これは…まさにそのシチュエーション…!』
「さあ、先生。まずはこの部分の強度と、肌への密着度から…」
「いやいやいや! 待て待て待て! アリア君、何を言っているんだ!? なぜ俺がそんなことを!?」
先生が、全力で抵抗する。
「あら、先生はゴーレム技術の専門家でいらっしゃいますし、それに…わたくしたちの身体の構造にも、お詳しいのではなくて?」
私は、意味ありげな視線を先生に送った。
『桃の書には「意味深な視線は、男性の想像力を刺激する」と書いてある…!』
「それに、この部分…特に股間の周辺のセンサー配置と装甲の薄さについては、わたくしも設計に大変苦労いたしましたのよ? 実際に触れていただかないと、その絶妙なバランスが…」
私は、アリアMk-IIの股間あたりを指差しながら、真顔で力説した。
本当に、この部分は苦労したのだ。
センサーの配置と、下着との親和性。
技術者として、完璧を目指した。
「アリア君…君は一体、何を目指しているんだ…? こんな、こんなリアルな人形を作って…」
先生が、絞り出すように言った。
私は、悪戯っぽく微笑んだ。
「モデルが良いのですわ。細部の隅々まで、わたくし自身ですから」
『紅の書には「自信満々な態度は、男性を圧倒する」と書いてある…!』
「えっ!?」
先生は、今度こそ本当に言葉を失った。
レティシアさんが、そんな先生の生体反応を冷静に分析していた。
【マスターの心拍数、過去最高値を記録。血圧も急上昇。脳波に混乱と、わずかな…期待?のパターンを検出。アリア様の新型ユニットは、マスターに対して極めて高い心理的影響力を持つと判断されます】
『心拍数、過去最高値…!?』
『これは…効果抜群ですわ…!』
私は、内心でガッツポーズをした。
「さあ、先生? ぐずぐずしていると、夜が明けてしまいますわよ?」
私は、有無を言わさぬ笑顔で、先生の手にアリアMk-IIの下着の紐を握らせようとした。
『紅の書には「押しの強さは、恋愛を進展させる」と書いてある…!』
『計算通り…いえ、計算以上の反応ですわ…!』
先生は、顔を真っ赤にして固まっている。
『先生…可愛いですわ…!』
私は、このまま押し切ろうとした。
その時――
工房の隅で、エルリック様が肩を震わせて笑っているのが見えた。
何やら、魔晶石を持っている。
『あれは…記録用の魔晶石…!?』
でも、今はそれどころではない。
私の「先生攻略作戦」は、新たな段階へと進もうとしていた――。




