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天才魔導師(美女30)が、情けない恩師(42)を全力で守って落とします ~ポンコツ乙女の暴走ラブコメ~  作者: よっしぃ@書籍化


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第2話 狩人の小屋と、乙女の暴走

 謁見の間で先生が追放されてから、私は必死で動いた。

 幸い、私には信頼できる部下の騎士が何人かいる。彼らに頼み、先生が王都の城門を出た後、西の森外れにある古い狩人の小屋へ案内するよう手配した。

 そして、私自身も工房から必要な工具や魔石、そして――念のため、先生のために用意しておいた『特別な物資』を持って、夜陰に紛れて小屋へと向かった。


『先生…無事でいてくださいね…!』

 森の中を急ぎながら、私の胸は高鳴っていた。

 22年ぶりの再会が、あんな形になるなんて。

 でも――

『あのパンツ一丁の先生…情けなかったけど…でも…なんだか…愛おしくて…』

 私は、自分の頬が熱くなるのを感じた。

『いえいえ!今はそんなことを考えている場合ではありません!まずは先生の無事を確認して、それから…』

 それから――

 私が密かに研究してきた『5冊の恋愛指南書』の出番だ。

 特に、桃の書(著:フローラ)には、こう記されている。

『――疲れた殿方を癒やすのは、母のような包容力とお風呂と手料理です。温かいお湯で心身を癒やし、背中を流して差し上げれば、彼の心は必ずあなたに開かれます』

『お風呂…背中を流す…!』

 私は、自分が持ってきた荷物の中に、上質な石鹸とタオルが入っていることを確認した。

『完璧ですわ!これで先生を癒やして、そして…!』

 紅の書(著:ソレイユ)にはこうもある。

『――好機は一瞬。殿方が弱っている時こそ、積極的に攻めるべし! 遠慮は無用!』

『そ、そうですわね…!先生が弱っている今こそ、私が支えて、そして…!』

 私は、決意を新たに、狩人の小屋へと急いだ。


 小屋に到着した時、先生は既に部下の騎士の案内で到着していた。

 薄暗い小屋の中、先生は床に座り込み、動かなくなったコロを抱きしめていた。その背中は、あまりにも小さく、そして寂しそうに見えた。

「先生…いえ、ヨルグさん。ご無事で何よりです」

 私が声をかけると、先生は驚いたように顔を上げた。

「アリア君…!君まで来てくれたのか…」

 その声は、疲労と感謝が入り混じっていた。

『先生の声…かすれてる…可哀想…でも、これは私が癒やしてあげなくては…!』

「当然ですわ。私は先生の元教え子です。そして――」

 私は、少しだけ頬を染めながら続けた。

「技術者として、コロさんのあの状態を見過ごすわけにはいきません」


 私は、持ってきた工具や魔石を作業台に広げた。

「まずは、コロさんの状態を診断させてください。それと――」

 私は、小屋の奥にある湯殿を指差した。

「先生、長旅でお疲れでしょう。私が奥に湯を沸かしておきました。まずは、お体を休めてください」

「アリア君…すまない。助かる」

 先生は、感謝の表情を浮かべ、コロの『核』とAIスマホを私に託すと、湯殿へと向かった。


『さて…ここからが本番ですわ!』

 私は、桃の書を思い出しながら、そっと湯殿の扉に近づいた。

 中からは、先生が湯船に浸かる音が聞こえる。

『文献によれば、「疲れた殿方を癒やすには、お風呂で背中を流すのが最も効果的」とのこと。これは、絶好のチャンスですわ!』

 私は、深呼吸をすると、扉をノックした。

「ヨルグさん? お湯加減はいかがですか?」

 私は、できるだけ優しく、そして母性的な(と私が思っている)声で尋ねた。

「ああ、ちょうどいいよ。ありがとう、アリア君」

 先生の声が、扉越しに聞こえてくる。

『よし…ここで、次の一手…!』

「それでしたら…あの…」

 私は、声を少し甘くした。

(これは紫の書の『視線と吐息だけで』のテクニックの応用ですわ!)

「わ、わたくしも、ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「ぶっ!?」

 先生が、明らかに湯を吹き出す音がした。

『成功…?いえ、驚かせてしまっただけかしら…?』

「な、何を言っているんだアリア君! 男女が一緒に入るなんて…!」

『あら? おかしいですわね…桃の書には「お風呂で背中を流せば心が通じ合う」と…』

「あら、何を恥ずかしがっていらっしゃるのです?」

 私は、できるだけ冷静に、そして合理的に(と私が思っている)説明した。

「疲れた殿方を癒やすには、肌と肌を触れ合わせ、背中を流して差し上げるのが『究極の癒やし』ですわ。それに、入浴中の無防備な状態こそ、腹を割って話せる『裸の付き合い』という合理的な交渉の場でもありますのよ?」

 私は、桃の書と、蒼の書(著:ルナリア)の教えを混ぜ合わせた、完璧な理論だと確信していた。

「アリア君、話なら後で…!」

 しかし、先生の制止も虚しく、私は扉を開けた。


 中には、湯船に肩まで浸かった先生の姿があった。

 22年ぶりに見る先生の体は、思ったよりも鍛えられていて、そして――

『きゃああああ!先生の裸!いえ違う!これは医療行為!癒やし行為!決してやましい気持ちは…!』

 私は、自分の顔が真っ赤になるのを感じながらも、できるだけ平静を装った。

「ちょ、アリア君! だから、それは…!」

「ご心配なく。私も…あ」

 私は、自分が工房用の簡素な肌着姿になっていることに気づいた。

 小屋に来る前に、念のため着替えやすい格好にしておいたのだが――

『まずい…これは紅の書の「大胆な肌見せ」になってしまっていますわ…!でも、引くわけにはいきません!』

「ご、ご心配なく…わたくしは、ただ先生の背中を…」

 しかし、先生は私の言葉を最後まで聞かずに、半ば強引に湯船から上がった。

「わ、私が出る! 君はゆっくり入ってくれ! 話はその後にしよう!」

 慌ててバスタオルを体に巻き付け、先生はそそくさと湯殿を後にした。


 一人残された私は、その場に呆然と立ち尽くした。

『…失敗…?』

 私は、肩を落とした。

『桃の書には「お風呂で背中を流せば心が通じ合う」と書いてあったのに…紅の書には「大胆に攻めよ」と…一体、どこが間違っていたの…?』

 私は、自分が持ってきた5冊の恋愛指南書を思い浮かべた。

 蒼の書は「一歩引いた淑女」を推奨している。

 でも、紅の書は「積極的に攻める」ことを勧めている。

 桃の書は「母性」を、紫の書は「妖艶さ」を、黒の書は「計算ずくの無邪気さ」を説いている。

『全部の教えを実践しようとしたのが、間違いだったのかしら…?』


 私は、ため息をつきながら、湯船に体を沈めた。

 温かいお湯が、私の疲れた体を癒やしてくれる。

 そして――

 湯船に、微かに残る先生の香りを感じた。

『あ…これは…』

 それは、謁見の間で感じた、あのラベンダーの香りだった。

 でも、こうして静かな場所で嗅ぐと、あの香りは決して「悪臭」などではなかった。

 むしろ、とても優しく、心が落ち着く、不思議な香りだった。

「これが、先生の匂い…。素敵ですわ…」

 私は、うっとりとその香りに包まれた。

『先生がまとっていたのは、この優しい香りだったの…? だとしたら、殿下や皆さんはなぜあんなに…』

 私は、疑問を感じながらも、その心地よい香りに身を委ねた。


 その時だった。

 小屋の外から、複数の男たちの怒声と、扉を激しく叩く音が響き渡った!

「見つけたぞ、反逆者ヨルグ・シュタイン! そして、それを匿った罪深き女、アリア=セレスティアめ! 大人しく出てこい!」

『追手…!? こんなにも早く…!?』

 私は、湯船から飛び出し、咄嗟にバスタオルを体に巻き付けた。

 しかし、濡れた床に足を取られ、バランスを崩した。

「きゃっ…!」


 次の瞬間、湯殿の扉が開き、先生が飛び込んできた。

「アリア君!」

 先生は、危機的状況にも関わらず、バスタオル姿で床にへたり込む私の姿に一瞬言葉を失った。

『きゃああああ!先生が見てる!私のバスタオル姿を!これは黒の書の「見えないところにこそ大胆な罠」状態…じゃなくて!今は逃げないと!』

 でも、先生はすぐに私を抱きかかえた。

「『コロ』! 起動しろ! 日本へ飛ぶぞ!」

 先生は、私を抱きかかえたまま、腕の中の『コロ』(まだ修理・調整の途中だった)の起動スイッチを強制的に入れる。

『先生の腕の中…温かい…強い…これは桃の書の「殿方の腕の中で守られる」シチュエーション…!』

 AIスマホの画面には、『コロ』のシステムが悲鳴を上げるかのような警告メッセージが赤く点滅した。

【警告:システム未調整。次元ゲート起動は高負荷。本体損傷の危険性大】

「構うな! やるんだ、『コロ』!」

 『コロ』のセンサーが、赤い警告灯のように激しく明滅する。

 青白い閃光が小屋を満たし、私と先生の姿を包み込む。


 追手の兵士たちがなだれ込もうとした瞬間、二人の姿は閃光と共に消え失せていた。

 小屋には、私がハンガーに掛けたスーツと、そして机の上には数冊の薄い本――背表紙にそれぞれ色の名が記された、私がこっそり持ち込んだ『恋愛指南書』――が、寂しく残されていた。


 強烈なGと、空間が引き裂かれるような感覚の後、私は固い床の上で荒い息をついていた。

 先生の腕の中で、私はまだバスタオル一枚を体に巻き付けているだけだった。

「アリア君、大丈夫か?」

 先生の心配そうな声が聞こえる。

『先生の声…優しい…そして、私は先生の腕の中…これは…これは…!』

 私は、自分の状況を理解した。

 バスタオル姿で、先生に抱きかかえられている。

 これは――

『紫の書の「視線と吐息だけで彼を依存させる」状態…!いえ違う!まずは状況確認を…!』

 周囲を見渡せば、そこは見たことのない、奇妙な部屋だった。

 薄暗い蛍光灯の光、プラスチック製の家具、ビニールのカーテン……見たこともない物質ばかりだ。

「ここは……どこ……?」

 私は、混乱しながら尋ねた。

「ここは…日本だ。俺が22年間過ごした、異界日本のアジトだ」

 先生の言葉に、私は息を呑んだ。

『異界日本…!先生がいらっしゃった場所…!そして、私は今、バスタオル一枚で…!』

 私は、自分の格好に気づき、顔を真っ赤にした。

「あ……わ、私としたことが……こんな……は、恥ずかしい……!」

 バスタオルを固く握りしめ、身を縮める私。

『でも…これは…ある意味、チャンス…?先生と二人きり、異界で、私はバスタオル姿…これは黒の書の「計算ずくの無邪気さ」を発揮すべき…?いえ、まずは落ち着いて…!』

 私の乙女心と、恋愛指南書の知識が、激しく交錯していた。

 そして、私の異界での冒険と、先生への「全力アプローチ作戦」は、今、始まったばかりだった――。

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