第19話 人形か野獣か、そしてアルミの輝き
敗走から一夜明け、傷の手当ても終えた私たちは、早速次なる作戦会議を開いていた。
「…というわけで、小型ゴーレムのコンセプトだが、やはり偵察や隠密行動を考えると、小動物型が一番現実的だろう。『コロ』の前例もあるしな」
エルリック様の隠れ家、薄暗い工房のテーブルを囲みながら、先生は熱心に語っていた。
私は真剣な表情で頷き、レティシアさんはその内容を高速で記録・分析している。
「ええ、先生のおっしゃる通りですわ。犬型や猫型なら、街中でも比較的怪しまれにくいですし、森の中なら鳥型やリス型なども有効でしょう。問題は、それぞれの形状に合わせた動力源と、AI子機との連携ですが…」
私が技術的な課題を挙げようとした、その時。
私は、ふと閃いた。
「でしたら、ヨルグ様!」
私は、目を輝かせながら声を上げた。
『これは…天才的なアイデアですわ…!』
「小型で、人目を引かず、かつ愛らしい姿…これですわ! 日本で見たという『リカちゃん人形』! あれをゴーレムにするのです! 想像してみてくださいまし、可愛らしいお人形たちが、小さな足でトコトコと敵陣に忍び込み、つぶらな瞳で情報を収集してくる姿を!」
私は、古びたスケッチブックにサラサラと、フリフリのドレスを着た人形型ゴーレムの想像図を描き始めた。
瞳は高性能センサー。
指先からは小型の魔力弾が発射できる。
『完璧ですわ…!可愛くて強い…これこそ理想のゴーレム…!』
「…………断固拒否する!!」
先生の絶叫が工房に響き渡った。
「アリア君、君は一体何を言っているんだ!? あれは子供の玩具だぞ! そんなものが戦場で役に立つと本気で思っているのか!? それに、倫理的にもどうなんだそれは!」
「あら、先生ったら。可愛いものは正義ですのよ? それに、この『リカちゃんゴーレム』には、最新の光学迷彩と心理的撹乱フィールドを搭載し、さらに内部には小型の爆薬も…」
「だから、そういう問題じゃない!!」
レティシアさんが、私たちのやり取りを無表情で見つめながら、冷静に分析結果を口にした。
「マスター、アリア様の提案は、一見非合理的ではありますが、特定の状況下においては有効な心理的欺瞞効果を発揮する可能性があります。ただし、その愛らしい外見が、逆に敵の嗜虐心を煽るリスクも考慮すべきかと。また、耐久性及び汎用性においては、動物型ゴーレムに劣ると判断されます」
「レティシアまで、何を真面目に分析しているんだ!」
先生は、頭を抱えた。
『なぜ、先生は理解してくださらないのかしら…?』
私は、少し残念に思った。
結局、「リカちゃんゴーレム計画」は先生の断固たる反対により却下された。
小型ゴーレムは『コロ』さんのような動物型をベースに、偵察用、戦闘支援用、運搬用など、いくつかのバリエーションを開発する方向で話はまとまった。
私は少し残念だったが、すぐに気を取り直した。
「それなら、『コロ』さんのデザインを元に、もっとこう…スタイリッシュで、少しメカニカルな要素を加えた犬型や狼型のゴーレムはどうでしょう? 翼を付けて飛行能力を付与するのも…」
『蒼の書には「柔軟な発想は、男性に尊敬される」と書いてある…!』
私は、次々と新たなアイデアを提案し始めた。
◇
その時、エルリック様が、工房の隅で何やら金属片をいじりながら口を開いた。
「…お前さんたちが持ち込んだ、あの『AIスマホ』の筐体…あれは確かに面白い金属じゃな。儂の知るどんな金属とも違う。軽いのに驚くほど頑丈で、おまけに魔力を弾く性質まであるとは」
エルリック様は、先生が日本から持ち帰ったAIスマホの、予備の筐体と思われるアルミ片を、特殊な薬品に浸したり、小さな魔法を当てたりして調べていた。
「それが、アルミニウムです。日本では非常に一般的な金属ですが、こちらではどうなのでしょう?」
先生が尋ねた。
エルリック様は、唸った。
「少なくとも、儂はこんな金属は見たことがない。もしこれが、お前さんの言うように『一般的』なもので、かつ安定して供給できるのなら…これは、武具やゴーレムの素材として、革命を起こすかもしれんぞ。特に、その『魔法を弾く』という性質…もしこれを鎧や盾に応用できれば、魔導騎士団の戦い方すら変わるやもしれん」
エルリック様の目が、錬金術師としての強い好奇心に輝く。
私も、その可能性に気づき、目を輝かせた。
「小型ゴーレムのボディ素材にも使えるかもしれませんわね! 軽量で頑丈、しかも魔法抵抗があるなんて、まさに理想的です!」
『これは…素晴らしい発見ですわ…!』
『先生の知識と、私の技術を合わせれば…!』
「うむ。だが、問題はその『一般的』な金属を、どうやってこの世界で手に入れるかじゃな。まさか、日本から毎回運んでくるわけにもいくまい?」
エルリック様の言葉に、先生は頷いた。
先生の脳裏に、リューンの闇市場で取引されているという「日本の試作型高効率『エネルギーコア』」の存在が再び浮かび上がってきたのだろう。
「エルリック様、アリア君。小型ゴーレムの開発と並行して、もう一つ、我々が取り組むべきことがある」
先生は、決意を込めた目で私たちを見据えた。
「リューンの闇市場に再び潜入し、今度こそ日本の『エネルギーコア』を回収する。それが、我々の次なる一手だ」
私は、頷いた。
『次は…絶対に成功させてみせますわ…!』
『そして、先生との距離を…さらに縮めてみせますわ…!』
こうして、私たちの、危険な挑戦への準備が、再び本格的に始まろうとしていた。
リューンの闇市場に再び潜入し、今度こそ――ギデオンとの因縁に決着をつけるために。
そして、私の「先生攻略作戦」も――
新たな段階へと進もうとしていた。
『桃の書には「困難な状況を繰り返し乗り越えることで、二人の絆は強固になる」と書いてある…!』
『計算通り…いえ、計算以上の展開ですわ…!』
私は、内心でガッツポーズをした。




