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天才魔導師(美女30)が、情けない恩師(42)を全力で守って落とします ~ポンコツ乙女の暴走ラブコメ~  作者: よっしぃ@書籍化


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第16話 陽動の爆炎と、闇に潜む影

自由都市リューンの夜空を、季節外れの紅蓮の炎が焦がした。

 

 ドォォォォン……!!

 

 腹の底に響くような重低音と共に、南地区の倉庫街から火柱が上がる。

 それは、老錬金術師エルリック様が仕掛けた、特製の陽動だった。

 

「始まりましたわね…!」

 

 廃坑区画の入り口、岩陰に潜んでいた私は、赤く染まる空を見上げて小さく呟いた。

 

 隣には、先生。

 そして、光学迷彩機能を起動し、闇に溶け込んだレティシアさん。

 

 私は、旅装の下に「それ」を着込んでいる。

 黒いレースの下着――いえ、私にとっての「戦闘服」。

 

『紅の書の教え…「見えないところにこそ、大胆な罠を仕掛けよ」…!』

『これで、どんな困難も乗り越えられますわ…!』

 

「時間通りですわね。さすがエルリック様、派手にやってくださいましたわ」

 私は、緊張で少し硬くなった声で囁いた。

 

「ああ。鉄鼠組の連中も、火消しと野次馬の整理でてんてこ舞いだろう。……行くぞ」

 先生の合図と共に、私たちは廃坑の闇へと滑り込んだ。

 

          ◇

 

 中は湿気が多く、カビと錆びた鉄の匂いが鼻を突く。

 足元はぬかるみ、天井からは絶えず水滴が落ちてくる劣悪な環境だ。

 

『こんな場所で…でも、先生と一緒なら…!』

 

【マスター、アリア様。聴覚センサー及びソナーを最大感度に設定。この先、複雑な分岐が続きますが、最短ルートをナビゲートします】

 

 レティシアさんの冷静な声が、通信魔道具を通じて鼓膜に直接響く。

 彼女が事前にハッキングして入手した地下地図と、リアルタイムの索敵情報が頼りだ。

 

『レティシアさん…本当に頼りになりますわ…!私の最高傑作…!』

 私は、内心で誇らしく思った。

 

 慎重に進むこと数分。

 

【前方50メートル、角を曲がった先に生体反応二つ。心拍数安定。会話パターンから、鉄鼠組の見張り番と推測されます。武装はショートソードと軽装鎧】

 

 レティシアさんの警告を受け、先生は足を止めた。

 私にハンドサインを送る。

 

 ――右は俺がやる。左はお前だ。音を立てるな。

 

 私は小さく頷いた。

 そして、懐から、エルリック様の工房で作った即席の魔道具「音響遮断玉」を取り出した。

 

『蒼の書には「二人で協力することで、絆は深まる」と書いてある…!』

『これは、まさにそのシチュエーション…!』

 

 角を曲がると、ランタンの薄明かりの下、二人の男が退屈そうにカード遊びに興じているのが見えた。

 

「あーあ、南の方は祭り騒ぎだってのによ。なんで俺たちだけこんなジメジメした穴蔵で番兵なんだか」

「違げぇねえ。ギデオンの旦那も慎重すぎるぜ。こんなゴミ溜め、誰も来やしねえよ」

 

 男たちが欠伸をした、その瞬間。

 

 先生が疾風のように飛び出した。

 

 22年間の潜入任務で培った、足音を殺す歩法。

 男の一人が気配に気づき、「あ?」と顔を上げた時には、既に先生の手刀が彼の首筋に食い込んでいた。

 

 声もなく崩れ落ちる男。

 

『先生…かっこいいですわ…!』

 

 もう一人が驚愕に目を見開き、剣に手をかけようとする。

 だが、それより速く、私は「音響遮断玉」を放った。

 

 キィィィン……。

 

 特殊な周波数が男の三半規管を狂わせ、平衡感覚を奪う。

 男がよろめいた隙に、私は流麗な動きで懐に飛び込み、強化魔法を乗せた掌底を鳩尾に叩き込んだ。

 

「うぐっ……」

 男は呻き声を上げることすらできず、白目を剥いて気絶した。

 

「……ふぅ。なんとかなりましたわね」

 私は、乱れた前髪を払いながら、小声で言った。

 

『紫の書には「戦う女性は、男性に頼もしく映る」と書いてある…!』

『先生、私の成長した姿、見てくださいましたわね…!』

 

「見事だ、アリア君。……だが、奥へ進むほど警備は厳しくなる。気を抜くなよ」

 先生が、私を見て頷いた。

 

 その眼差しには、頼もしさが宿っている。

 

『先生に褒められた…!』

 私の心臓が、高鳴った。

 

          ◇

 

 その後も、レティシアさんの探知能力と、私の魔道具、先生の暗殺術を駆使し、私たちはいくつかの罠と見張りを突破していった。

 

 やがて、通路の空気が変わった。

 

 湿気を含んだ風ではなく、ピリピリとした濃密な魔力の波動が肌を刺す。

 

 通路の突き当たり。

 そこには、周囲の岩肌とは明らかに異質な、黒光りする巨大な鉄扉がそびえ立っていた。

 

 最深部、『黒曜石の間』への入り口だ。

 

「……ここですわね」

 私は、扉を見上げた。

 

 扉の隙間から、禍々しいプレッシャーが漏れ出している。

 

「中にいるな。ギデオン……魔力強化の改造人間か」

 先生が、剣の柄を強く握りしめた。

 

【肯定します、マスター。内部に高エネルギー反応を持つ生体反応を確認。その他、武装した反応が多数。完全警戒態勢です。正面突破の成功率は極めて低いと判断されます】

 

 レティシアさんの無慈悲な分析。

 でも、ここで引くわけにはいかない。

 

「分かっている。だが、時間がない。エルリック様の陽動効果が切れて、南に向かった連中が戻ってきたら挟み撃ちだ」

 先生が、厳しい表情で言った。

 

 そして、私を見た。

 

 私の顔は緊張で強張り、白くなっている。

 自分でもわかる。

 でも――

 

『桃の書には「困難な状況こそが、二人を結びつける」と書いてある…!』

『ここで、先生との距離を一気に縮めるチャンス…!』

 

「行けるか?アリア君」

「はい、先生。ここまで来て、手ぶらでは帰れませんわ」

 

 私は、強がって見せた。

 そして、旅装の下の黒いレースの下着の襟元をギュッと握った。

 

『これは、私の「お守り」…!これがあれば、大丈夫…!』

 

「……それに、わたくしの『特殊スーツ』の性能テストも、まだ終わっていませんもの」

 

 先生が、口元を緩めた。

「そうだな。頼りにしている」

 

 その言葉に、私の胸が熱くなった。

 

『先生が…私を頼りにしてくださっている…!』

 

「開けるぞ」

 先生が、重々しい鉄の扉に手をかける。

 

 錆びついた蝶番が悲鳴を上げ、ゆっくりと扉が開いていく。

 

 その先に待つのが、希望の光か、それとも絶望の闇か。

 

 私は、覚悟を決めた。

 

『先生を守る。そして、先生との距離を縮める』

『私の「先生攻略作戦」、ここからが本番ですわ…!』

 

 私たちは、虎の尾を踏み込むように一歩を踏み出した。

 

 ――黒曜石の間へ。

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