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天才魔導師(美女30)が、情けない恩師(42)を全力で守って落とします ~ポンコツ乙女の暴走ラブコメ~  作者: よっしぃ@書籍化


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第15話 決戦の夜と、静寂の中の鼓動

決戦の朝。

 目が覚めた瞬間から、心臓が早鐘を打っていた。

 緊張か、武者震いか。

 いいえ、これから始まる「先生との夜の密行」への期待だ。

 

 私は寝袋から這い出し、誰も見ていないことを確認してから、鞄の底の「秘密兵器」を取り出した。

 漆黒のレースがあしらわれた、勝負下着。

 

『これは下着ではありません。私の精神を武装する「対・先生用決戦兵装バトルドレス」ですわ!』

 

 震える手でそれを身につける。

 肌に吸い付くようなレースの感触。

 鏡はないけれど、今の私は昨日の私よりも「イイ女」になっている。……はずだ。

 

『紅の書の教え通り、「見えない場所の自信」が、立ち振る舞いに余裕を生むのですわ…!』

『計算通りですわ…!』

 

「よし……展開完了!」

 私は頬をパンと叩き、その上から黒い戦闘服を纏った。

 

          ◇

 

 夜。

 新月の闇がリューンを覆う頃、私たちは行動を開始した。

 エルリック様の工房から廃坑区画までは、目と鼻の先だ。

 

「レティシア、陽動の準備は?」

「完了。エルリック様の『瞬間閃光混乱薬』、セット済み」

「よし。作戦開始だ」

 

 ドォンッ!!

 

 遠くで爆発音と閃光が走る。

「なんだ!?」「敵襲か!?」

 鉄鼠組の見張りが慌てふためく隙を突き、先生が鋭く指示を出した。

 

「今だ、アリア君!」

 先生の手が、私の手をぐっと掴む。

 

『ひゃっ……!』

 

 手袋越しなのに、熱い。

 先生に引かれ、私たちは裏口から廃坑の闇へと飛び込んだ。

 

『桃の書の教え…「手を繋ぐことで、二人の距離は一気に縮まる」…!』

『計算通り…いえ、計算以上ですわ…!』

 

 地下通路は湿っぽく、カビと鉄錆の匂いが充満している。

 足音が響きそうな石畳の通路で、私は懐から小さな魔道具を取り出した。

 

「『静寂の結界サイレント・フィールド』、展開!」

 

 フン、と空気が揺らぎ、私たちの周囲から一切の「音」が消えた。

 足音も、衣擦れの音も、外の世界の音も遮断される、完全な隠密空間。

 これなら誰にも気づかれない。完璧な魔道具だ。

 

 ――そう、思っていたのに。

 

 ドクン、ドクン、ドクン……。

 

 静寂の中で、とてつもなく大きな音が響き始めた。

 私の心臓の音だ。

 

『うそ……っ!? この結界、外部への音は遮断するけど、内部の音は反響しちゃう仕様でしたの!?』

 

 先生と手を繋いでいる。暗闇の中、二人きり。

 私の鼓動は、爆音のようなビートを刻んでいる。

 

 チラリと横を見ると、先生が不思議そうな顔でこちらを見ていた。

 

(……アリア君、なんかすごく音が聞こえるんだけど……)

 そう言いたげな目だ!

 

 私は顔から火が出るのをこらえ、必死に「これは敵の足音です!」というジェスチャー(嘘)をして誤魔化した。

 

『ああ、もう…! こんなことなら、蒼の書の「冷静さを保つ」の章を復習しておくべきでしたわ…!』

 

          ◇

 

 やがて辿り着いた最奥部、『黒曜石の間』。

 そこは巨大な吹き抜けになっており、中央の取引台には、禍々しいほどに美しい青白い光が鎮座していた。

 

「間違いない……あれが『エネルギーコア』だ」

 先生が音のない世界で口を動かす。読唇術で読み取る。

 

 周囲には武装した男たち。

 しかし、私たちの『静寂の結界』とレティシアさんの『認識阻害ハッキング』のおかげで、まだ気づかれていない。

 

 私たちは影のように滑り込み、取引台へ肉薄した。

 コアは、厳重な魔法錠のかかったケースに入っている。

 

「アリア君、頼めるか?」

「お任せください!」

 

 私は工具を取り出し、魔法回路へのハッキングを開始する。

 構造は複雑だが、先生のスマホ解析アプリと私の錬金術知識を合わせれば……!

 

 カチャリ。

 小さな振動と共に、ロックが外れた。

 

「やりました!」

 私がケースを開けようとした、その瞬間。

 

「――そこにいるのは、ネズミか?」

 

 ズゥン……!

 空気が重くなるような圧力が、背後から襲いかかった。

 振り返ると、そこに「それ」はいた。

 

 身長2メートルを超える巨躯。

 右半身が真鍮色の機械とパイプで覆われ、胸には赤黒く脈打つ魔石。

 鉄鼠組リーダー、ギデオン。

 

「俺の魔眼センサーは誤魔化せんぞ」

 ギデオンの機械の右腕が唸りを上げ、私たちの『静寂の結界』ごと空間を薙ぎ払った!

 

 ガキィィィン!!

 

「ぐっ……!」

 先生がとっさに鉄パイプ(現地調達)で受け止めるが、重すぎる一撃に吹き飛ばされる。

 結界が砕け、音が戻ってきた。

 

「先生!!」

「アリア君、コアを持って逃げろ! こいつは化け物だ!」

 先生が叫ぶ。けれど、置いていけるわけがない!

 

 ギデオンが私に狙いを定める。

「そのコアは俺の力の源だ。返してもらうぞ、小娘!」

 

 迫りくる機械の腕。死の予感。

 怖い。足がすくむ。

 でも――

 

『桃の書は言っている。「愛する男の危機にこそ、女は戦乙女になれ」…!』

 

「誰が小娘ですか……!」

 私は腰のポーチから、エルリック様直伝の失敗作……いえ、試作品を取り出した。

 

「これは『濃縮粘着スライム弾』ですわーーッ!!」

 

 全力投球。

 瓶がギデオンの顔面で砕け散り、ネバネバした緑色の液体が彼の視界と呼吸器を塞ぐ。

 

「ぐあぁ!? なんだこれは、取れん!?」

 

「今です、先生!」

 私はコアを抱え、先生の手を引いて走り出した。

「す、すごいなアリア君! あれは何だ!?」

「エルリック様の鍋の洗い残しを濃縮したものです!」

「最悪だけど最高だ!」

 

          ◇

 

 迷路のような通路を、私たちは転がるように逃げた。

 背後からはギデオンの怒号が響いているが、粘着液のおかげで距離は開いている。

 

「はぁ、はぁ……ここまで来れば……!」

 出口の光が見えた時、私の足が瓦礫に取られた。

「きゃっ!?」

 

 派手に転びそうになった私を、先生が抱きとめる。

 その拍子に、戦闘服の襟元が大きくはだけ、袖が岩に引っかかって裂けた。

 

 ビリッ。

 

 一瞬の静寂。

 先生の視線が、私の破れた服の隙間に吸い寄せられる。

 白く滑らかな肌と、そこに対比するように走る、漆黒のレースのストラップ。

 

「あ……」

 先生が目を見開いた。

 私も固まる。

 

『み、見られましたわ……!』

 

 けれど、先生はすぐに顔を赤くして視線を逸らし、咳払いをした。

「い、急ごう! レティシアが待ってる!」

「は、はいっ!」

 

 先生の手が、さっきよりも強く、そして少し優しく、私の手を握り直してくれた気がした。

 

『紅の書の教え…「見えないところにこそ、大胆な罠を仕掛けよ」…!』

『効果…ありましたわ…!』

 

          ◇

 

 無事に工房へ戻った私たちは、泥と汗にまみれながらも、顔を見合わせて笑い合った。

 手にはしっかりと、エネルギーコアが握られている。

 

「ありがとう、アリア君。あのスライム弾と、君の勇気がなければ危なかった」

 先生が真っ直ぐに私を見て言う。

 その瞳に、今までとは違う「熱」を感じて、私は胸がいっぱいになった。

 

 部屋に戻り、鏡の前でボロボロの服を脱ぐ。

 露わになった黒いレースの下着は、まだ妖艶な光を放っていた。

 

『ふふっ……効果、ありましたわよね?』

 

 あの一瞬の先生の反応。

 あれは間違いなく、男の人の顔だった。

 

 私の「先生攻略作戦」は、地下迷宮での死闘を経て、大きな一歩を踏み出したのだ。

 

 私はコアを抱きしめるように、胸の前で手を組んだ。

 

『桃の書の教え通り…「困難を共に乗り越えることで、二人の絆は深まる」…!』

『計算通り…いえ、計算以上の結果ですわ…!』

 

 心臓のドキドキは、まだ止まりそうになかった。

 

 ――私の「先生攻略作戦」は、新たな段階へと進もうとしていた。

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