表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才魔導師(美女30)が、情けない恩師(42)を全力で守って落とします ~ポンコツ乙女の暴走ラブコメ~  作者: よっしぃ@書籍化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/18

第14話:決戦前夜と、黒いレースの決意

作戦決行まで、あと一日。

 エルリック様の工房は、嵐の前の静けさと、焦げ付いた魔力回路の臭いに包まれていた。

 

 私は作業台に向かい、潜入用ガジェットの最終チェックを行っている。

 音を消すための『静寂の魔導具サイレント・デバイス』。

 緊急離脱用の『転移石テレポート・ストーン』。

 そして、闇を照らす『魔法ランタン』。

 

「出力安定、回路接続よし。これで一通りの準備は整いましたわ」

 ドライバーを置き、私は満足げに頷く。

 

『蒼の書には「準備を怠らない女性は、男性に信頼される」と書いてある…!』

『技術者としての能力を見せることも、先生攻略の一環ですわ…!』

 

 隣のメンテナンス台では、レティシアさんが再起動シークエンスに入っていた。

「アリア様、エネルギーブレードの出力制御、正常値を確認。推定戦闘継続時間、120分」

「2時間……十分ですわ。それ以上かかるようなら、そもそも作戦失敗で全滅コースですもの」

「了解。全滅回避を最優先事項に設定」

 

 物騒な会話をさらりと交わしつつ、私は耳をそばだてる。

 工房の奥では、先生とエルリック様が作戦の詰めを行っていた。

 

「陽動は、この『瞬間閃光混乱薬』を入り口で使用する。その隙に、俺とアリア君が内部へ」

「ふぉっふぉっふぉ、儂の秘薬で、ネズミどもをパニックに陥れてやるわい」

 

 その会話を聞くたびに、胸の奥でドラムロールが鳴り響く。

『明日は……先生と二人きりで、暗くて狭い地下迷宮へ……!』

『これは、『桃の書』第3章にある「吊り橋効果の極致」……運命の試練ですわ!』

 

 桃の書にはこうある。

「極限状態を共にすることで、脳内麻薬が分泌され、相手を運命の人と錯覚する(ただし、そのまま本命になる確率高し)」。

 

『錯覚でも何でもいい! 既成事実さえ作れれば勝ちですわ!』

『計算通り…いえ、計算以上の展開ですわ…!』

 

          ◇

 

 夕方。

 工房の隅、積み上げられた古書とガラクタの影で、私は明日の装備を点検していた。

 動きやすさ重視の黒い戦闘服。

 足音を消す加工を施した革ブーツ。

 そして――

 

 私は周囲を警戒しつつ、鞄の奥底から「それ」を取り出した。

 月明かりを吸い込むような、漆黒のレースの下着。

 

『紅の書の教え……「見えないところにこそ、大胆な罠を仕掛けよ」』

 

 これを着る意味。それは単なる自己満足ではない。

 これは、私にとっての『精神防護障壁メンタル・バリア』なのだ。

 

 もし明日、戦闘で服が破れたら?(キャー!)

 もし、体勢を崩して先生に抱きとめられたら?(キャーッ!!)

 そんな時、ヨレヨレの木綿の下着では、私のプライドは即死する。

 しかし、この「最強の鎧」を身につけていれば――

 

『どんなハプニングも、「あざとい誘惑」へと昇華できますわ……!』

 私は下着を握りしめ、武者震いした。

 これは決意の証。女としての矜持。

 

「アリア君、何をしている?」

 

「ひゃいっ!?」

 心臓が口から飛び出るかと思った。

 私は光の速さで下着を鞄に押し込み、背後の先生へ振り返った。

 

「い、いえ! 何でもありませんわ! 明日の装備の耐久性試験を……!」

「そうか。俺も、少し話しておこうと思ってな」

 

 先生が私の隣に、古い木箱を椅子代わりにして座る。

 近い。体温が伝わる距離。

 私の心拍数は、すでに戦闘モード(レッドゾーン)に突入していた。

 

『蒼の書には「二人きりの会話は、距離を縮める絶好の機会」と…!』

『落ち着きなさい、アリア=セレスティア…!これはチャンスですわ…!』

 

「アリア君」

「は、はい!」

「明日の作戦だが……危険な場所だ。もし君が少しでも不安なら、ここで待機していてもいいんだぞ」

 

 先生の瞳は真剣だった。私の身を案じてくれている。

 その優しさが嬉しくて、私は迷わず答えた。

 

「嫌です!」

「え?」

「あ、いえ、嫌なんかじゃありません!」

 私は前のめりに、先生の目を見つめた。

「私は、先生と一緒に戦いたいんです。先生の背中を守りたいんです。それに……」

 

 視線を少し伏せ、呟く。

「先生と共に困難を乗り越えることで、私はもっと成長できる気がしますの。……一人の技術者としても、女性としても」

 

 最後の部分は、聞こえないくらいの小声で。

 先生は一瞬目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んだ。

 

「ありがとう、アリア君。……君がいてくれて、本当に心強いよ」

 

 そう言って、先生の大きな手が伸びてきた。

 私の頭に、ぽん、と乗せられる。

 そして、優しく撫でられた。

 

 ――思考停止フリーズ

 

『せ、先生が……私の頭を……ナデナデ……!?』

 

 脳内で警報が鳴り響く。

『紫の書』第5章! 「頭を撫でる行為は、守護欲求と親愛の表れ。脈あり度80%オーバー」!

『先生は……私を「守りたい対象」として認識してくださっている……!?』

 

 ボンッ、と頭から湯気が出た気がした。

 私は言葉にならず、ただコクコクと頷くことしかできなかった。

 

「明日は、頼むぞ」

 先生が立ち去った後も、私はしばらく石像のように固まっていた。

 

 手のひらの感触が、まだ残っている。

 私は震える手で自分の頭を押さえ、鞄の中の「勝負下着」を見つめた。

 

『……明日は、絶対に成功させます。そして、この距離を……ゼロ距離にして差し上げますわ!』

 

          ◇

 

 その夜。

 寝袋の中で、私は枕元に並べた5冊のバイブルに祈りを捧げていた。

 

 蒼、紅、桃、紫、黒。

 

 かつては「敵の妻の本」だと知って動揺したけれど、今は違う。

 彼女たちは、私の「恋の師匠」だ。

 

『蒼の書……知的な会話で、先生の理性を刺激します』

『紅の書……大胆な罠(下着)で、先生の本能を揺さぶります』

『桃の書……ピンチをチャンスに変えます』

『紫の書……癒しで包み込みます』

『黒の書……そして最後は、直接的な愛を』

 

 私はそれぞれの表紙を撫で、目を閉じる。

 不安がないと言えば嘘になる。

 足手まといになる恐怖。先生を失うかもしれない恐怖。

 

 でも。

「私には、技術がある。バイブルの知識がある。そして何より……」

 

 先生への、暴走しそうなほどの想いがある。

 私は鞄を抱きしめた。

 

『奥方様がた……どうか、迷える子羊(私)に、最強のご加護を!』

『明日は、必ず成功させてみせます…!』

『そして、先生との距離を…ゼロ距離に…!』

 

 私は、黒いレースの下着をもう一度取り出し、胸に抱きしめた。

 

『これは、私の「戦闘服」。私の「お守り」。私の「決意の証」』

『どんなハプニングも、チャンスに変えてみせますわ…!』

 

 ――明日は、決戦の日。

 

 私の「先生攻略作戦」は、地下迷宮という閉鎖空間で、ついに実戦フェーズへと移行する。

 

 月明かりが、私の決意を静かに照らしていた。

 

 ――作戦決行は、明日の夜。

 

 月のない、闇が最も深くなる時刻。

 

 自由都市リューンの地下深くに眠る日本のオーバーテクノロジーと、それを巡る『陰謀』。

 

 そして、私の恋の行方。

 

 全てが、明日の夜に決まる――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ