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9話 四階に坐す者

山奥に築かれた本部から、専用車両に揺られて数時間。

透はACBの部隊とともに、都市の外れにそびえる立体駐車場に到着した。


深夜の立体駐車場は、まるで息をひそめた獣のように沈黙している。

外灯はところどころ切れており、薄闇に沈むコンクリートの空間は、不自然なほど冷たく乾いている。


「......ここ、ですか?」

思わず声を潜めると、隣で楓が頷いた。


「ええ。指示書の内容によればこの建物のはずです。」


楓が続ける。


「今日は収容作戦の見学──ですけど、油断するとすぐ取り込まれますから、気をつけてくださいね」


緊張をほぐすように笑みを浮かべる楓。しかし、その表情もどこか硬い。

俺の心臓は嫌な鼓動を刻んでいた。


「......妙じゃな。湿り気もないのに、肌がひやりとするのう」

タマが低く呟き、耳をぴくりと動かした。


そこへ、重い足音と共に陣が現れた。

胸には朱色の印。隊員たちを従えるその姿は威圧感に満ちているが、目だけは冷静に周囲を測っていた。


「総員、配置につけ。

観測課は範囲計測、保安課は突入と収用に向けて今一度装備を確認しておくように。

今回、鎮圧課は別任務のため不在だ。

よって、本作戦では保安課の速やかな収容が遂行の要となる。くれぐれも気を抜くなよ。」


陣の低い声が響き、空気が一気に張り詰める。


白印の職員たちが端末を操作し、青白い光が床を走った。

数秒後、無機質な声が報告する。


「建物内部半径5.2メートル、禍境反応確認」


陣は頷き、振り返って俺たちを一瞥(いちべつ)する。


「透、タマ、楓。ここから先は奴らの空間だ。

楓はわかっていると思うが、勝手な行動はするな。気を引き締めていけ。」


その言葉に、より一層緊張が高まる。


「ふむ...わしは気にせんが、お前さんは足がすくんでおるのではないか?」


タマがにやりと笑いながら、俺の足元にぴたりと寄り添う。

異様な気配が漂う中、保安課メンバーと共に俺たちは建物内部へと足を進めた。


──数分後


「観測課より通達。前方に禍境反応あり。」


無線からの通達に合わせ、隊員たちが特殊な装置を展開する。

四方に設置された鋼の杭から、薄い膜のようなものが広がり、空間が封じられていく。


隊員が仕掛けの一つとして鞄を床に置いた。

鞄は、まるで最初から存在しなかったかのように一瞬で消失する。

同時に、禍境の内部で“それ”が姿を現した。


建物の隅に、白装束の影。

頭部は鏡のように反射し、視線を合わせようとした瞬間、目の奥に何か冷たいものが差し込んでくる。


「現れたか......」

陣が小さく呟いた。


「防穢マスクをつけろ。これより禍境内部へ突入する。」


朱印の指示に合わせ、隊員たちが慎重に内部へと足を踏み入れる。


「止まれ。──全員、照準を合わせろ」


一斉に武器を構える。銃のようでありながら、先端には符術的な刻印が光っていた。


「撃て」


轟音と閃光。

禍境が揺らぎ、監視者の身体が一瞬ぶれる。


だが、反撃のように空間の中から「物が消えていく」現象が起きた。

隊員たちの武器が、唐突に煙のように掻き消えたのだ。


「なっ......」思わず息を呑む俺。


「おお......これはまずいのう!武器を消すとは、やりおるわ!」

タマが耳を伏せて叫ぶ。


楓は真剣な顔で呟いた。

「まずい...これじゃあ太刀打ちできない...」


しかし隊員たちは怯まない。

陣も即座に次の指示を飛ばす。


「異相封印器を展開。後退しながら封入しろ。焦るな。呼吸を合わせろ」


鋼鉄の箱のような収容具が転がされ、膜の内側で監視者を飲み込むように展開していく。

鏡面の頭部がこちらを向き、ぞわりと背筋に冷気が走る。

だが、隊員たちの連携は一切乱れない。


「展開完了!いつでもいけます!」


「よし───打て!」


陣の声と同時に最後に封印符が打ち込まれると、監視者の影は完全に箱の中へ吸い込まれた。

残ったのは黒ずんだ空気と、微かに響く金属音だけ。

よく見ると、箱には俺の掌の印と同じものが刻まれていた。


「収容、完了だ」

陣の低い声と共に、緊張が解ける。


俺は安堵の息をついたが、同時に背筋に寒気を覚えていた。

あれほど不可解で不気味な存在を、ACBはこんなにも冷徹に押さえ込んでしまう。

異常を異常のままではなく、ただの“案件”として処理してしまうのだ。


陣は俺の表情に気づいたのか、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「......怖かったか?」


「......正直に言えば、はい」


「なら、それでいい。怖さを忘れた時が一番危ない」

そう言って踵を返す陣の背中は、恐ろしくも頼もしかった。


「ふぅ......毛が逆立ったままじゃ。わしの尻尾も落ち着かんわい......」

タマの小さな声に、俺は苦笑を返すしかなかった。

スレタイ:立体駐車場で階がループするんだが…


347 :本当にあった怖い名無し:

深夜に██の駐車場で車探してたら、何回降りてもまた4階に戻ってるんだけどどうしたらいい?


348 :本当にあった怖い名無し:

どゆこと?


349 :本当にあった怖い名無し:

>>347

kwsk


350 :本当にあった怖い名無し:

他に誰かいないの?


351 :本当にあった怖い名無し:

こぇぇ

てか██ってめっちゃ近所やん


352 :本当にあった怖い名無し:

警察に電話してみたら?


353 :本当にあった怖い名無し:

ご愁傷様ww

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