第7話 協力
────国家現象管理機関_怪異収容局です。ご同行願います。
......は?
どういうことだ。
思わず隣にいたタマへ視線を向ける。
「お前さんよ。詳しいことはあとじゃ。まずはここから出るぞ。」
疑念は残る。
しかし、俺一人で何ができるわけでもなく、渋々その言葉に従うしかなかった。
「後方に収容対象の現象体を確認。鎮圧課は対象を制圧の後、速やかに移送せよ。
保安課は禍境に取り込まれた民間人の保護・護送を担当。必要時は鎮圧課の指示を最優先せよ。」
胸に朱色の印をつけた組織のリーダーと思わしき人物が、無機質に指示を飛ばす。
職員たちは見慣れぬ器具や札を取り出し、怪異に向かって淡々と準備を進めていた。呆気にとられていると、一人がこちらに歩み寄ってくる。
「保安課の楓と言います♪
ここからの護送は私が行いますので、どうぞこちらへ。」
組織の冷たい雰囲気には似つかわしくない、妙に明るい人物だった。
楓と名乗る人物の後ろについていくと、やがて札が幾重にも貼り巡らされた場所に着く。
「ここです!二本の支柱が見えますよね?あの間を、全力で走り抜けてください♪
中途半端な速度だと、この世とあの世の狭間で永久に彷徨うことになりますからね!」
平気な顔してなんてことを言うんだこの人は。
組織の人間はみんなこうなのか?
だがこの世界に留まるほうがよほど嫌だ。俺は震える足に力を込め、支柱の間へと飛び込んだ。
ぐにゃり────
空間がねじれ、視界が暗転する──
気づけば元の神社。五感も戻り、体が正常に働いていることに思わず安堵する。
振り返ると空間が再び歪み、楓とタマも続いて現れた。
「はぁ......何度やってもなれませんねぇ......うっ.....」
青ざめる楓と、平然としたタマ。
その様子を見ているうちに、組織との関係について俺の疑問が抑えきれなくなった。
「タマ。これはどういうことだ?」
タマは気まずそうに目を伏せ、口を開く。
「悪かったのう。実は......お前さんが異空間に飛ばされる前、わしは力を使って一時的に消えておったんじゃ。二人そろって捕まれば脱出は不可能。どうにか助ける手を探すうちに、この者らに出会った。」
すると、横で聞いていた楓が補足する。
「タマさんは本当にあなたのことを心配してたんですよ。」
さらに続ける。
「私たちもこの現象体の収容のために来ていたので、タマさんにある提案をしたんです。」
「提案…?」
「ええ。私たちがあなたを異空間から救う代わりに、あなたには我々に協力してもらう。それが条件です。」
協力──?
そもそもこんな得体のしれない組織に協力なんてして大丈夫なのだろうか。
とはいえ、タマも苦肉の策だったことは想像に難くない。
「協力...ね。具体的にどんな...?」
楓は丁寧に説明する。
「はい。主に現象体....つまりあなた方が怪異と呼称しているものの収容、及び鎮圧の手助けをしてほしいと考えています。
詳細は各担当から話があるとは思いますが、前線での活動が中心になるかと思います。」
「なぜ俺たちに...?」
「それは.....」
楓は少し間を置き、真剣な声色でゆっくりと口をひらく。
「...あなたには特別な力があるからです。
それも並大抵のものではない。
まだ理解できないかもしれませんが、その力はご自身が思っているよりずっと強力な物なのですよ......
......あ、これ以上は私の首が飛ぶので、この辺で♪」
なんだろう...
ふざけているようで、この人の言っていることは不思議と噓のように感じない。
まだ知らない...俺自身の...力...
楓はにこやかに畳みかける。
「まぁどちらにせよ拒否権はございません。もう助けちゃいましたし♪
とりあえず明日からは実際に作業に入ってもらうので、そのつもりでよろしくお願いします!」
俺が唖然としていると、さらに続けた。
「大丈夫です!いきなりそんな難しい仕事はさせませんから!
まずは組織の基本説明と実戦の見学からですかね~。
集合場所と時間は──」
いくつかの説明の後、異空間の扉を開きながら、最後にとこちらを振り向く。
「来なかったら......どうなるかわかってますね?」
不敵な笑みを浮かべた後、彼女は漆黒の闇に飲まれて消えた。
────
──
─
「あのシナリオはどうなった。順調か?」
「ええ。件の報告書が功を奏し、すべて予定通りに進んでおります。
例の民間人も計画通り、明日からは組織の"協力者"として現場に投入する予定です。
...あの小型現象体の処遇は....いかがいたしますか?」
「構わん。同じ"協力者"として遇してやれ。
もっとも......力を失った今となっては、何もできまいがな。」
「かしこまりました。では、そのように。」
────
──フフッ。これから楽しくなりそうね......