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第6話 神隠し

──メダマヲヨコセ......


闇の奥から不気味な声が語りかけてくる。


「タマ!どうする...!?」


焦ってタマのほうを見る。


──が、そこにタマの姿はなかった。


「タマ!?どこだ!?...どこにいる!?」


返事はない。


まずい...

前回はタマがいたから何とかなったが、今は違う。

流石に俺一人でどうにかできるとは思えない...

狐の瞳もさっき使ったばかり…鈍色のそれはまだ使用できないことを示している。


「どうする....」


──メダマヲヨコセ......メダマヲヨコセ......


目玉....狐の瞳のことか....?

だめだ。これを渡せば怪異を強化することになってしまう。

それに、タマから託された大切なものを手放すわけにはいかない。


「これは渡せない....!!」


──ナラバ、キエヨ


次の瞬間、黒い霧が辺りを覆い、意識が暗転した。


────


──



「ん...ここは....?」


目が覚めると、そこには見知らぬ光景が広がっていた。

果てしない田園、閑散とした民家、遠く連なる山々。

周囲を見渡すが、タマはおろか先ほどまでの怪異も見当たらない。


「まずは人を......」


民家を訪ねるが、返事はなく、屋内ももぬけの殻。

そこで、ある異変に気付く。


「静かすぎる...」


そう”静かすぎる”のだ。

通常、何もない場所でも環境音など微かな物音はするはず。

しかし、ここでは、文字通り何も聞こえなかった。

嫌な予感がした俺は、その場で手を叩く──


....無音。


全身から油汗がにじみ出る。

物音がしないのではなく聴覚を失っていたのだ。

この異常事態に、俺は冷静ではいられなくなっていた。

民家を飛び出し、あるかもわからない出口を求めて走り出す。


「はぁ、はぁ、はぁ、、」


どれくらい走っただろうか。

数分のようにも感じるし、あるいは数時間さまよい続けている気もする。

しかし、あたりの景色は一向に変わらない。

果てしなく続く田んぼ道が、一層の不安を煽ってくる。


「出られ....ない....」


絶望が胸を締めつける。

やがて視界は揺らぎ、体の感覚すら薄れていった。


あぁ、ここで終わるのか……


あきらめるつもりはなかった。

だが、このどうしようもない現実を前に、希望を持つことなんてできなかった。


五感が一つ、また一つと失われていく。

聴覚を失い、視覚も触覚も消えかけている。

いや、もしかしたらもう何も感じなくなっているのかもしれない。

俺は改めて怪異というものの恐ろしさを身に染みて感じていた。

人間など到底敵わない上位の存在であると。

希望を完全に失った俺は、その場で崩れ落ちた。


──狐の御霊よ。真実の理を写したまへ。


え?

俺...今なんて....?


気づけばあの祝詞を口にしていた。

なぜかはわからない。

だが、本能がそうしたのだろう。

すると辺りが急に明るくなり、聞き覚えのある声が響く。


「真実の理を写す者よ。我、ここに参上いたす。」


タマだ...

五感が消えた世界で、その声だけは鮮明に届いた。


「心細かったじゃろう....もう大丈夫じゃ。」


その言葉に、張りつめていた心が一気にほどけ、涙が溢れる。

目も見えない、何も聞こえない、そんな状態でもタマがいることだけはしっかりと感じ取れた。

これも瞳の力なのだろうか。

俺が落ち着くまでタマはそばにいてくれた。


────


落ち着いた俺に、タマは今の状況を教えてくれた。

やはりこれは怪異の仕業によるもので、

どうやら俺が祝詞を唱えたことでこの世界への入り口が開けたらしい。


「さて、お前さんよ。まずは立てるかの?」


そう言われ、足に力を入れるも立てそうにない。


「心の中で暗示するのじゃ。瞳の力はお前さんに宿っておる。」


まずは立つことだけに集中する。

自分を俯瞰しイメージを具現化する。


ぐぐぐ....


重い体を起こし、苦戦しつつも何とか立ち上がることができた。


「そうじゃ。その感覚を忘れるでないぞ。

この世界では瞳の力が命綱じゃ。

動くことも、歩くことも、わしの声を聞くことも──すべては瞳を通して行うのじゃ。」


感覚を研ぎ澄ませ、集中すると、ぼんやりと世界の輪郭が浮かび始めた。

完全ではないが、歩ける。


「ただしの......お前さんを連れて内側から出ることはできんようなのじゃ。」


え...?


「まぁ安心せい。すぐに助けが来る。」


助けが来る?

いったいどういうことだ......


「それよりお前さんよ。やつがこっちに来ておるぞ。」


そう言われ、前方に集中すると、赤黒い(もや)のようなものを感じた。

おそらく今回の元凶だろう。

ゆらゆらと蠢くそれは、ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。


「こっちじゃ。」


タマに言われるがまま、怪異から距離をとる。


「次はこっちじゃ。」


怪異からは遠ざかっているものの、タマがやけにこの世界に詳しいことに疑問を抱く。

まるでどこかへと誘うような....


俺の不安をよそ目に、さらに奥へと進んでいく。

タマ....そう呼びかけようとしたとき、ついに足が止まった。


「ついたぞ。」


前方に、人の気配。複数。

そして、驚愕の言葉を耳にする。



──『国家現象管理機関_怪異収容局です。ご同行願います。』


──古い民間伝承より、童謡『オサライ様』


オサライ様 オサライ様

ひとり攫い 連れてって

黄泉より出し 祝ぎ与え

代わりに一つ 頂きます


オサライ様 オサライ様

呼べば来たりて 笑い声

そうだそうだ 一つくらい

持って行っても よかろうね


縺翫&繧峨>様 縺翫&繧峨>様

どうかどうか お鎮まり

持ってかれたは 返します

だからどうか 攫わんで

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