第4話 遭遇
──る
──いる
……?
──
────
──コ・コ・ニ・イ・ル。
「はっ......はぁ、はぁ、はぁ......!」
「......夢?」
─────
早朝。
あまりよく眠れなかった気がする。
眠い目を擦りながら、朝支度を済ませ、俺は再度ベットに横になった。
「昨晩は魘されておったようじゃが、大丈夫か?」
部屋の隅から声をかけられ思わず飛び上がる。
そう言えば昨日からタマがいるんだった。
「あ、ああ......よく覚えてないけど、嫌な夢だった気がする。」
「無理もないわ。あれだけ多くのことを経験したからのう。」
「少し休んでからにするか?」
タマが心配そうに見つめる。
だが俺は首を振った。
「もう大丈夫だ。......早く怪異を探しに行こう。」
───
ネットのオカルト掲示板を漁り、俺は怪異の痕跡を探していた。
タマ曰く、『狐の瞳』はせいぜい数十メートルが限界とのこと。
なので、広い街から探すのは俺の役目だ。
「......なかなか無いな。タマも一緒に探してくれよ。」
先ほどまで心配してくれていたタマも、今ではすっかり寛ぎ、耳をぴくぴく動かすばかり。
俺の要望は軽くあしらわれてしまった。
そんな中、ようやくそれっぽい記事を見つける。
──『黄泉の交差点』。
そには奇妙な内容が書かれていた。
”過去に失った人と会える場所”
俺はこの記事に興味を惹かれ、タマと共にその交差点へ向かってみることにした。
────
「ここが黄泉の交差点?
確かにこの辺ってちょっと不気味であんま来たことなかったな」
一見、ただの交差点にしか見えないが、所々違和感を感じる。
見たことのない標識。信号の乱立。そして気味の悪いほどの静寂。
まるで誰かが人間の世界を模倣し、無理やり作り上げたかのような。
昼間だというのに誰ひとりここを通らない。
交差点に俺とタマを取り残し、蝉の声だけがこだましていた。
───
───
───蝉?
今は3月。蝉の声が聞こえるはずがない。
突然の出来事に頭が混乱し、血の気が引くのを感じる。
ここは何か、やばい。
「お前さん。こりゃまずいことになったかもしれんぞ。」
タマの声にハッと、我に帰る。
気づけば、辺りは先ほどの交差点とは全く別の姿となっていた。
ここはどこだ?
真夏。
心地よい風鈴の音と、肌を撫でるそよ風が炎天下でも涼しげな雰囲気を醸し出していた。
この場所...なぜかとても懐かしい感じがする。
「透。」
「っ!」
振り向くとそこには両親が立っていた。
優しく微笑み、手を差し伸べてくる。
「とう...さん...?...かあさんも...」
なんだ。生きてたんじゃないか。
呪いなんてただの幻だったんだ。
俺は今までの苦悩が嘘だったことに安堵し、両親の元へ駆け寄る。
「お前さん!!それ以上行くな!!」
後ろからタマの声がしたが、もうそんなことはどうでも良かった。
今はただ、両親に会いたい。それだけだった。
「くっ、やむを得ん...!」
狐の御霊よ。 彼の者に真実の理を写したまへ。
パキッ...ギイィィィィン────
突如として狐の瞳が光り出し、目の前の両親だったものをかき消す。
いや、厳密には本来の姿に戻した。
アああアぁぁァァ
ワたシ、は、、コ、こここコこニ、いル……
いルいルイるいルルルルルルルルルルルる……!
な、なんだ......こいつは...
「ぼさっとするな!早うわしについてこんか!!」
タマの声で咄嗟にその場から離れる。
気づけば、辺りは元の交差点に戻っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、、ありがとう、、助かった。」
ひとまず物陰に隠れて体制を立て直す。
自分を助けてくれたタマに感謝していると、焦った表情で俺の方を見る。
「礼なら助かったときにせい!ヤツがこっちに向かっておるぞ!」
目を向けると先ほどの怪異はゆらゆらとこちらに近づいてきていた。
だんだんとはっきりするその形相に息を呑む。
窪んだ眼窩、異様に長い腕。
そして目を見張るほどの巨体。
でかい。3メートルはあるだろうか。
深淵を思わせる漆黒の瞳で俺たちを探している。
呆気に取られていると、突然俺の掌が光始めた。
「お前さん!なんじゃそれは⁉︎」
「わかんないよ!でもなにか、凄い力を感じる......!」
自分でも訳がわからなかったが、掌の印に手を突っ込むと中から日本刀のような物が出てきた。
「......それは.....!!」
自身の何倍もあるであろう刀身は禍々しく妖しい光を放っている。
先ほどの光に気づいたのか、怪異はこちらを発見しジリジリとその距離を縮めて来ていた。
「まずいっ、気づいたか...!」
「お前さん、彼奴から逃れることはできん!この先は行き止まりじゃ!」
「でも...どうしたら!」
「斬れ!今のお前さんならできる...!」
無茶だ。
人を斬ったことなんて今まで一度もない。
ましてや怪異なんて...!
しかし、もう悩んでいる暇はなかった。
「くそっ!どうにでもなれ!」
振り下ろした刃が怪異の身体を裂く。
──サシュッ
────
「......やったか?」
一瞬の沈黙。だが怪異は姿を変え、再び両親の幻を見せる。
「お前さん!早くトドメを!」
再度狙いを定め、刀を振り上げる。
「と、透……」
「ぐっ……!」
頭では分かっているのに、刃が振り下ろせない。
怪異の手が俺の首に伸びる。
「うぐっ!!い、息が....!」
グググググ...
さらに力が強まる。
早く...トドメを...ささないと...
でも、なぜだろう...
このまま、死んでもいい気がする...
体の力が抜けていく...
「透!生きろ!」
目を向けるとタマが叫んでいた。
透...俺の名前を...呼んでいた。
生きろ
そうだ
ここで終わるわけにはいかない。
じいちゃんのためにも、自分のためにも。
「俺は......もう.....振り返らないッ!」
渾身の力で刀を振り下ろす。
───ザシュッッ。
斬られた怪異は少しの沈黙のあと、こちらを見て微笑みながら掌の印に吸い込まれていった。
A:知ってるか?あの交差点のうわさ。
B:なにそれ?交差点っていつもの?
A:そうそう。なんでも、過去に失った人に会えるんだとよ。
B:んなバカな話があるか。どっかのアホが人違いしただけじゃねーの?
A:ははっ、だよなwwそんなの迷信に決まってるよなwww
B:ああ、てかお前今日彼女と帰るんじゃねーの?
A:やべっ!そうだった!ありがとな。じゃあまた明日な!
B:おう。
B:...
B:迷信...か...
B:もし...また逢えるなら...