表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/20

第11話 休息

ACBとの現場から帰宅後。

俺は少しの仮眠の後、ようやく手に入れた休日を街の小さな喫茶店で過ごしていた。

掌に残る感覚──妖刀を握った時の熱。それに続いて現れた「彼女」の姿。あれは幻じゃない。


「......結局、なんだったんだ」


独り言が漏れた瞬間、背筋にぞわりと気配を感じた。


「ふむ。お前さん、また考え込んでおるのか」


振り返ると、そこにタマがいた。


"やることがある"と言い残し消えたタマが、何事もなかったかのように席の隣に腰を下ろしている。


「お、おい......急に戻ってくんなよ!今まで何してたんだ!」


「ちと、わしの領分で片付けねばならんことがあっただけじゃ」


「領分って......何だよそれ」


「お前さんが知る必要はない。」


含みを持たせ、タマは湯気の向こうで目を細める。

問い詰めたい気持ちはあるが、この妖狐が本気で隠すことを、俺が知れるはずもない。


「......ほんと、お前は何考えてるかなかんねぇな」


「その割には、よう呼び戻したのう」


「別に呼んでねえよw」


そう言うと、タマはくつくつ笑った。

だが、タマが戻ってきてくれたのは素直に嬉しい。

俺は深くため息を吐き、コーヒーを飲み干した。


──その時、ポケットの端末が震える。


画面に表示されたのは「陣」の文字。


「......嫌な予感しかしない」

通話に出ると、すぐさま耳に鋭い声が突き刺さった。


『悪いな。休日に呼び出して。だが人手が要る。すぐ局舎まで来てほしい』


「はぁ!?俺、まだ新人みたいなもんだぞ!」


『新人だからこそ経験を積ませる。......フッ、安心しろ、俺が横にいる』


プツリと通話が切れる。強引さは相変わらずだ。


「フッ、じゃねぇよ....ったく......」


「お前さんも大変じゃのう....w」


明らかに労いではないことが伝わる表情のタマ。

肩をすくめた俺は、未練がましくカップを見やりながら席を立つ。

──こうして俺の「休日」は、あっけなく終わりを告げた。


────────


局舎に着くと、既に陣と数名の白印職員が装備を整えていた。

前回と異なるのは朱印職員も複数名集まっていることだろうか。

壁際には黒い銃器が並び、その中に、この前の収容作戦でも使用されていた銃があった。


「404......」


俺が口にすると、陣が振り返り、口の端をわずかに上げる。


「ああ。保安課の基本装備だ。

現象体が持つ霊体としての在り方を“なかったこと”にする。

鎮圧課ほどではないにせよ、これでも十分無力化可能なものだ。今回はお前にも使用してもらう」


「なかったこと......って、物騒すぎるだろ」


「奴らに情けは不要だ」

 

短く言い放ち、陣はマガジンを叩き込む。その仕草には、容赦の欠片もなかった。


俺は背筋を正す。どうやら、また命がけの現場に放り込まれるらしい。


「透さーん!タマさーん!」


聞き覚えのある明るい声。

振り返ると、楓が小走りでこちらに向かってくるのが見えた。


「遅いぞ、楓。」


陣が呆れたような顔で言う。

楓は「すいませーん!」と頭を下げながら、俺たちを連れて準備作業に取り掛かった。

陣の指示のもと、楓に教わりながら装備を整えていく。


黙々と手を動かしているうちに、ふと気になったことを口にしてみた。


「なあ、職員たちがつけてる、白とか朱色の印って......あれ何?」


楓は手を止めずに答える。


「あー、そういえばまだ説明してませんでしたね。あれは、各職員の"ランク"みたいなものです」


そのまま、さらりと続ける。


「全部で四つのランクがあって、下から順に“白印”、“朱印”、“黒印”、“金印”になります。

それぞれ、対応できる現象体の等級も違っていて......白印は基本的に朱印職員の同行が必要ですが、弐等級までなら収容許可が下ります」


「なるほどね。

......黒印とか金印の人って、全然見かけないけど、何か特別な任務でもしてるの?」


「ええ。......おそらくは、ですけど」


「おそらく?」


「実は私も、詳しいことは知らないんです。

黒印の方はたまに見かけますけど......金印の職員となると、私自身一度も見たことがありません」


楓の声が、少しだけ硬くなる。


「彼らが主に担当するのは、“零等級”以上の現象体。......そうそう現れるようなものじゃないんです」


零等級。

この前戦ったのが参等級だったことを考えると、それがどれほど危険な存在なのか想像もつかない。


そんなことを考えているうちに、装備の準備は一通り終わった。

ちょうどそのタイミングで、陣が皆を集める。


「──次のターゲットについて説明する。作戦会議室に来い」


俺たちは小さくうなずき、足早に会議室へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ