≪後編≫
黒い『もや』の幽霊が別の教室に出た。
俺はその教室にダッシュする。野次馬を掻き分け教室に迫ると、何故かドア付近の人が一斉に廊下に流れてきた。
「「おおおおおーーっ」」「あれ、どこだ?」「消えた?」「ええ?」
出て来た連中が周囲を見回して騒いでいる。どうしたのか聞くと、教室内に現れたあの『もや』を遠巻きに見ていたら、教室を出ようとしたのかドアに迫ってきたので一斉に外に出たそうだ。そして改めて見回すと、一緒に廊下に出た筈の奴の姿がどこにもないという。
教室を覗き込む。俺達のクラス以上にだらけていたのか、いくつかの机がくっつけられていた。自習だったのか菓子を広げている机さえあった。しかし、特におかしいところはない。あの『もや』も見当たらない。
奴は何のためにこの教室に来た。誰に用事だったんだ?
分からない。そもそも俺は茅瀬の友人関係をそこまで知らない。このクラスの誰と親しいかなんて知らないのだ。
一応奴が何をしていたのか聞いてみる。騒いでいたグループの脇に突然現れたんだけど、なにもせず、ただ突っ立っていただけらしい。騒いだ生徒達も、奴が動かないので途中から遠巻きに眺めていたそうだ。何だそれ。何か用事だったんじゃないのか。
廊下に戻って周囲を見回す。『もや』は見たらない。どこに行った?
そこに先生達がやって来て、各クラスに早く帰るように急かしてきた。仕方なく自分の教室に帰ると、既に皆は帰り支度をしている。
「小藪どした?」「帰らんの?」
席まで戻ると大藪達が声を掛けてきた。返答に困って口ごもる。神崎から午後遊ばないかと声を掛けられたが断る。そんな状況じゃない。
(どうする。このままじゃ帰れないぞ)
先生達は手を叩いて、どんどん生徒達を各教室から追い出していく。自分一人だけ教室に残って様子を見たいと言っても絶対許可されないだろう。鞄を持つとそのままクラスの皆と一緒に廊下に出されて、早く進むよう急き立てられた。このままじゃ校舎を追い出される。マズい。
誰かに相談したいが、もう話せる状態じゃない。どうすれば。どうすればいい。
近くで歩いていた国枝達の中から、顔を覗かせた茅瀬と一瞬目が合った。
「……!っ」「…………」
頭の中で色々な考えが駆け巡った。茅瀬に。茅瀬本人なら―――――――――駄目だ。
今まで逃げ回ってたのに、なんて説明する。――お前は意識不明の時、幽霊になって学校に来てたんだ。俺と一緒に解決したんだけど、そのことをお前は忘れてる。あの『もや』が関係あるみたいだから一緒に解決しよう――って、妄想ストーカーみたいな気持ち悪い台詞じゃないか。今まで話したことがないクライメイトに、こんなこといきなり言われてみろ。気味悪がって犯罪者扱いされるぞ。駄目だ、駄目駄目。
茅瀬は一瞬何か言いそうな表情をしたが、俺は反射的に顔をそむけた。泣きそうな気分で、神崎に声を掛ける。
「俺……ちょっと、寄って帰るから」
そのままダッシュで階段を通り抜け、先生の姿を確認しながら渡り廊下を走り特殊授業用の別棟へ向かう。特に当てはない。先生達は生徒を帰した後で各教室を見回るに決まってる。別棟に逃げるしか思いつかなかったのだ。
◇
とりあえずドアが開いていた家庭科室に逃げ込んだ。調理机等もあって、教室を覗いた時に隠れやすそうだったからだ。俺は机の陰でうずくまって考え込む。これからどうする。
答えは決まっている。なんとかあの『もや』を捜して茅瀬が入院していた病院へ連れて行くのだ。あの日茅瀬の生霊は教室で皆に話しかけて俺を見付け、病院に行って自分の肉体に戻っていった。同じように現れたのだから、同じようなことをすれば成仏? するはずだと思う。これしか思いつかない。
……絶対かと言われると確信がない。
今、病院に行っても茅瀬の肉体はそこには無い。ならば病室に行っても、どこにも収まることができず消えてくれないかもしれない。
もしかして茅瀬本人に接触させるべきだったか。自分の霊なんだから、触れば本人に吸収されるというのはありそうな話だ。
早まっただろうか。やっぱり茅瀬を引き止めて相談すべきだったか。話しかける度胸がなくて、説得できる自信もなくって、楽な方に逃げた俺が悪いのか。
後悔してももう遅い。茅瀬はもう帰ってしまった。今はもう最初の考え通り病院に連れて行くのを試すしかない。唸りながら俺は頭を掻きむしる。
で、あの『もや』は今どこにいるんだ。あの時の茅瀬と違う行動をしているのは何故だ。二時間目に音楽室に出たということは、少なくともその時までは同じ行動をしていた筈だ。何かが原因で違う行動を取り始めたんだろう。……分からない。
じゃあ先を考えよう。途中から違う行動を取ったとして、奴にもし意思があるとしたら次にどうしようとする。
……そうか。最初の行動パターンに戻ろうとするよな。
だとしたら、いつかは俺達の教室に戻ってくる筈だ。
あの日の茅瀬は昼休みに教室に戻って来て五時間目に俺を見つけた。そして六時間目終了後に一緒に駅から病院に向かったのだ。つまり教室で待っていれば、今どこかを徘徊していてもいつかは現れることになる。そこを捕まえて病院に引っ張っていけば良い。
昼飯無しなので、腹が減って来た。しかし下手に動いて先生達に見つかる訳にはいかない。
俺は鳴りだした腹を抑えながら時間が経つのを待った。
◇
二時になった。外は雨が降ってきてる。あれから二度程見回りが来たが、なんとか見つからずに済んだ。俺は教室に向かうことにした。本当は六時間目終了まで待つべきなのだろうが、腹が減るわ隠れているのに飽きたわで、もう我慢できなくなった。根性無しと言われるかもしれないが、三時間以上廊下を警戒しながら黙って隠れているのは思った以上にきつかった。正直もう限界だ。
少しずつドアを開けて耳をすまして廊下にでる。校内はしんと静まり返っていた。俺はそろりと進み出て廊下を四つん這いで進む。窓際から顔を出して校舎を一望した。人影はない。流石に三時間も経てば落ち着いているか。
クラス棟へ戻る長い渡り廊下が一番緊張した。先生がやって来たら隠れる場所が無いからだ。無事辿り着いた時は大きく息を吐いた。靴を脱いで音を消して階段を降りる。無事自分の教室に辿り着き素早く中を確認。いない。未だ奴は来ていない。やっぱり早かったか。
教室に普通にいたら見回りの先生に見つかって追い出されるだろう。隠れて待つしかない。どこに隠れよう。見渡しても良い場所がない。
教卓の下。そんなとこに隠れたら教室を見渡せない。カーテンで隠れる。足が出る。机でバリケードを築いてそこに……直そうと先生が入ってくるか。
掃除用具のロッカーを開けてみた。漫画なんかでは結構スペースに余裕があって、男女二人が入ってエッチーみたいな展開になる筈なんだが、実際に入ってみるとそんなスペースはまったくなかった。一人でも厳しい。というか臭い。狭い。汚い。……きっつい。
でもここからならスリットから教室を一望できる。外からも見えない。耐えろ、頑張れ、なんとか待つんだ。俺はドアを閉めて掃除用具入れに閉じこもった。
……三十分後、見回りに来た先生にあっさり見つかった。音が漏れていたらしい。
「馬鹿もん! 写真撮ってSNSで有名にでもなりたかったのか!」
その発想は無かった。そういう生徒が何人か見つかっているらしく同類と思われたようだ。俺は逆に騒ぎが大きくならないように動いてるのに。
こうなったら、今更だけど事情を話して協力してもらえないだろうか。無理だよな。こんな話信じてくれる筈がない。証明することもできないし。
どうしようか考えているうちに職員室に連行され、阿部先生立会いで再度説教を食らった。職員室で晒し者である。成績の内申に響きそうだ。
「まさかお前まで、こんな馬鹿なことをするとは思わなかったぞ!」
ボロクソに言われて正面玄関から追い出された。背後で無情にも玄関ドアの鍵を掛ける音がする。雨が降る中、折り畳み傘を片手に俺は茫然と立ちすくんだ。
「……」
完璧に失敗した。
なんとか出来ないかと気張ってみたけど、何にもできず説教を食らって追い出された。馬鹿過ぎる。途方に暮れたまま自分の教室を見上げる。
なんと窓際にあの『もや』が立っていた。
「!?っ」
いるじゃねえか。いたじゃねえか。俺の苦労どうしてくれんだ。
どうする。もう校舎に入れない。無理矢理にでも入って会いに行くか。いや、時間をかけている間に移動されたら終わる。先生達と追っかけっこもしたくない。ならこっちに呼ぶしかない。呼ぶ? どうやって。どうすれば呼べる。あいつの、いや茅瀬を呼ぶ方法が何かあるか。あ……るじゃないか!
見回して玄関の脇にある自動販売機コーナーに走ってド〇ターペッパーを買う。玄関前に戻って二階の教室窓際にいる『もや』に向かって缶ジュースを振り回して見せつける。
「ド〇ターペッパーがあるぞーっ!」
馬鹿っぽいという自覚はある。だがコレしかない。幽体離脱から肉体に戻れなかった茅瀬は、俺がドクペを飲んだの見て「あたしも飲みたい」と言って肉体に戻った。これは茅瀬の大好物なのだ。あの『もや』が茅瀬とつながりがあるのなら、嗜好だって同じ可能性がある。
「……」
『もや』は窓際から動かない。効かないのか。駄目なのか。『もや』は顔がないので判断ができない。プルトップを開ける。
「いいか、飲むぞ! 飲んじゃうぞ……ウメーッ!!」
大声で叫ぶ。正直味なんか分からない。雨に中で飲んで味なんかするか。
「……おい小藪! 何してんだ。早く帰りなさ……っ! って、オイ!」
職員室の窓が開き、阿部先生が怒鳴っている途中で声が変わった。同時にぞわりと背筋に寒気が走る。缶を持ったまま身体が固まった。
――――『もや』が俺の真横に立っている。
「……………………」
俺の横で『もや』が、ゆらゆら揺れている。おそらく俺の手元を覗き込んでる……。
(おおう……)
……本当に来た。来ちゃった。嬉しいんだが、嬉しくない。しかも怖い。正体が茅瀬だと分かっているのに怖い。背中がぞわぞわする。ゆっくり屈んで、転がっている鞄と傘を回収。右手はドクペをかざしたまま。
数歩だけ歩く。『もや』はそのまま一緒に付いてくる。また歩く。『もや』は止まっていたが、ドクペを少し持ち上げたら即座に横に来た。いける。
「すんまへん。帰りあしゅ!」
裏返った声を張り上げ先生方へ叫んだ。ドクペをかざしながらそのまま駆け足。思った通り『もや』は付いてくる。馬鹿な光景だ。
「ちょ、おい。待て! っと、待て小藪!」
「いる。そこにいるぞ! お前憑かれ……」
職員室窓から叫ぶ先生達の声に聞こえないふりをして、俺はひたすら駆け足で校門へ走った。
校門を出て傘をさし直し、歩く速度を緩める。
横を見ると『もや』を見失うが、ドクペをかざすと真横に現れた。
あの日、茅瀬の生霊と駅に向かった時は、走る茅瀬を確認できず声だけが聞こえる状況だった。だけど茅瀬の自我があり向かう先が分かっていたのでそれでも問題はなかった。今回は声もなく行き先も共有できてないので、何度も振り返ってちゃんと付いてきているか確認しないといけない。進むのにかなり時間が掛かりそうだ。
駅への途中でもっと大変なことに気づいた。……こいつ、このまま駅に連れて行くと大騒ぎになる。電車に一緒に乗ったらもっと大騒ぎにならんか。
『もや』を見る。どう見ても気味の悪い黒い『もや』が立っている。中身を知っているしずっといるのでもう俺はそんなに怖くはないが、こんなのを連れて駅に入ったら大騒ぎになる。しかし、なんとかしてこいつを病院に連れて行かないといけない。
じゃあ、どうする。と言っても方法は一つしかない。
「……歩くの? 駅三つ分」
俺は雨の中電車を使わず、徒歩でこいつを茅瀬の入院していた病院に連れて行く羽目になった。
◇
二時間掛かってやっと病院に辿り着いた。散々雨に降られて身体もズボンをもぐっしょりだ。靴なんか歩くたびにガッパガッパ鳴っている。
道中大きな騒ぎにならなかったのは幸いだった。雨で暗い所為だろう。何度かこっちを指して声を上げた人や、車が止まったりもしたが、足早に逃げると声を掛けてくることはなかった。一か所で動めいていたら騒ぎになるが、歩いている俺の横に出たり消えたりしているなら見間違いかと思うのだろう。
連れてくるのは大変だった。通り道、みやげ屋やたこ焼き屋等の店頭で『もや』が動かなくなるのだ。店員さんは何度も見返して見間違いじゃないと分かると悲鳴をあげて騒ぎ出すし、ドクペを振っても動いてくれなくてめちゃくちゃ焦った。
困った俺はスマホで茅瀬の好きなアイドルを検索。大音量で動画を流してやっと引き寄せることに成功した。茅瀬は母娘揃ってジャ〇オタの追っかけなのだ。
思い返してみると二つ隣の教室に出たのは、あの教室でお菓子が広げられていたからだろう。いつか国枝達と教室で美味しいと言っていた菓子があそこにあった。もしかして、音楽室からの行動が狂ったのも、どこかで好みの菓子かなにかを見て引っ掛かったんじゃないだろうか。外見は黒い『もや』で怖いのに、中身は茅瀬の嗜好をまんま引き継いでいる。この食いしん坊バンザイ。明日、絶対茅瀬本人に文句言ってやろう。
病院に入ると同時に駆け足で病棟に向かう。外と違って『もや』が見えやすいので、騒ぎになるのが目に見えているからだ。スマホでアイドルの動画を大音量で流しながら誘導して突き進む。
「院内はお静かにお願いしま……え?」「え?」「あれ何?」「なんだ」
周囲の患者や病院の人にどんどん見つかっていく。制止されると困る。広がっていく騒ぎを聞こえないふりして俺は駆け足で進む。
はぐれると怖いので、エレベーターは使えないことに気付いた。階段で5階まで上がる。階段は人が少ないので助かるが、もう足がパンパンだ。それでもようやく茅瀬が入院していた病棟に辿り着いた。
「ちょっ、何アレ!」「え、どうしたの?」「何?」「見える? 見えるよね?」
ナースステーションを横切ると看護師さん達に次々見つかり騒ぎが広がった。捕まる訳にはいかない。あれ、どっちだ。一回しか着てないから病室に自信がない。後ろから看護師達が追いかけてくる。凄え、先生達なんか最初遠巻きにしか近づけなかったのに、迷わず追い掛けてくる。看護師さん度胸凄え。
「……!?」
すると『もや』が俺を追い越して病棟を進みだした。まるで意思があるように進んでいく。俺はそれを見て思い切り安堵した。
(やった……っ! 正解だ!)
『もや』が再び茅瀬の動きをなぞり始めたのだ。元の行動に戻った。自分の考えが合っているなら、病室に行ってそこで消える筈だ。
半笑いで壁に寄りかかってへたり込む。ずっと握ってたドクペが床を転がったが拾うのも面倒で、うるさかったスマホの電源だけを切った。
「君、大丈夫?」「どうしたの?」
看護師さん達が声を掛けてくるが答える気力がない。
茅瀬がいたらしい病室に『もや』が向かい、扉に吸い込まれるように消えて行った。誰か入院していたら悲鳴が上がるかも、と心配したが聞こえてこない。空室だったようだ。助かった。
二人の看護師さんが追いかけて躊躇せず病室に入っていく。
「あれ、なんなの?」「君、知っているんだよね」
看護師さんが確信めいた口調で聞いてきた。そりゃドクペとスマホを振って先導してりゃ気付くか。どうしよう。説明するのか。こんなおかしな話。
「あれ?」「いないわね」
病室に入った看護師さんが廊下に戻ってきて周囲を見渡す。『もや』を見失ったということは、無事消えたのだろう。
(……終わったあ)
『もや』を成仏させることに成功した。やった。上手くいった。
「君、この前来た子だよね?」
看護師さんの指摘にぎょっとする。茅瀬の生霊と来た時だ。一度きりで三十分もいなかった筈。なんで覚えてんだ?
甘かった。彼女達は病棟の看護師だ。病院内を出入りする人の顔を覚えておくのが仕事なのだ。
「どういうこと?」「説明できる?」「立てるかな」「大丈夫?」
口調は優しいが四方を囲んで退路を断ってる。俺がずぶ濡れなのに意に介さず腕を掴んきた。やばい。別の意味でひや汗がでてくる。
「すいませーん」「ちょっとー……」
そこに看護師さん達を呼ぶか細い声が、他の病室から聞こえてきた。看護師さん達の気がそれた。俺は慌てて腕を振り払って声とは逆方向にダッシュした。
「失礼しましたあっ!」
「あ、コラ!」「待ちなさい!」「ちょっと!」
そのまま走って階段に飛び込み二段越えで駆け降りる。一人だけ元気な看護師さんが追いかけてきて捕まりそうになったがなんとか逃げ切った。
病院内各所で怒られながらも走って外へ脱出。もう二度とこの病院には来れないと思った。
◇
ずぶ濡れで帰宅した俺は、母親にめちゃくちゃ怒られた。学校からも電話が来ていたようで、こんな遅くまでずぶ濡れになって、どこほっつき歩いていたと激オコだ。
昼飯無しだった俺はとにかく夕飯頂戴とお願いしたのだが、ろくに理由を言わずご飯を要求したのが悪かったようで、更に怒らせてしまった。風呂から上がると玄関先でドライヤーを二つ持ち、洗った靴と制服をずっと乾す罰を受けた。
俺は今日、駅や学校で問題になってた幽霊騒ぎを解決したんだ。失敗もあったたけど、なんとかやったんだ。幽霊なんて信じないだろうし、茅瀬のことは話せないから仕方ないけど、でもこの仕打ちは無いだろう。
そう思うと、だんだん腹が立って来た。誰の所為だ。もちろん茅瀬だ。俺が散々苦労してこんな目にあってたのに、あいつは何も知らず昼前に帰って楽しい一日を過ごしたのだろう。
そう考えたら更に怒りは膨れ上がった。畜生め、お前のために俺は今日散々だ。校内で隠れて教師に怒られ、ずぶ濡れになり、病院にはもう行けない。親にも怒られた。終いには人間乾燥機だ。もう怒り心頭だ。
この怒りを茅瀬に分からせなければならない。感謝と報酬を貰わないと割に合わない。どうしてくれよう。パンチラ一回くらいじゃもう足りない。吉田が言っていた伝説の青い水玉パンツくらい見せてもらってもバチは当たらない。良いよな。そうだよな。こんなの正当な要求だよな! ちょっと、えええエッチだって許されるよな!!
寝床で悶々と考えているうちにヒートアップしてしまい、全然眠れなくなって早起きした。未だ母親は怒っていたので会話も少なく早めに登校した。なんか寝不足で少しハイになっている。
教室に入ると幸いにも茅瀬は一人きり。今教室に来たばかりだった。なんという幸運。丁度いい。言ってやる。絶対、文句言ってやる。そして感謝と報酬を手に入れるのだ。
「あ、おはよう!」
「……っ! ……う、ん」
明るく挨拶されて、気勢を制された。
駄目だ。負けるな。
話しかけるために買ったドクペを差し出す。
「やる……」
「くれるの? ありがとう!」
嬉しそうに笑う。胸がきゅっとなった。だが、負けない。今日の俺は違うんだ!
「ちょうど良かった。聞きたいこと、あるんだけど」
茅瀬が真正面から俺を見た。
「勘弁してください」
俺は即座に謝った。
おわり
せっかくの続編なんですが、関係はミリも進まなかったというオチ。