ココアどこ?
寒い朝、急いで電車に乗ったが、京橋駅の前で遅延で各駅停車は待たされていた。都会を走る京阪電車ではいつものことで、僕は模試の返却後何周目かの単語帳を繰りながら待った。
ポケットでスマホが震えた。
『今日こそメリクリ!』
「メリクリ!がんばる!」
返信すると、何だか今日は一日がんばれるような気がした。昨日の夜までは考えたくなかったことも、今日は考えられる。何か足らないところがあるから点数が届かないんだ。自分ではちゃんとこなしているのにどうしてなのか。
一人でやろうとしてるから詰まるんだと言われたことがある。これまで勉強など人に頼るのは恥ずかしいことだと考えてきた。
午後まで冬の特別講義に出た。
厚着しすぎなのか背が汗ばんでいた。
こんなときに風邪か。
自習室に入ると、すでにたくさんの人がいて座るところもなかった。こんなことでも緊張に覆われて不安になる。するとスマホが震えて画面を見ると、こっち空いてるよとあった。僕がキョロキョロすると左奥、道瀬が壁際でサイレントで手を振っていたので近づいた。
「さっきまで友だちいたけど帰ってん。彼氏と一緒にやるんやて。迷惑でなければどうぞ」
僕は椅子に腰を掛けた。話はここまでで僕たちはそれぞれに勉強した。日本史、古文、英文、理科基礎、倫政で使い尽くした。解いて覚えるの繰り返しだが、もはやこれは修行だ。
八時まで自習した後、僕は荷物をまとめて廊下に出た。道瀬さんに挨拶をすると、シャーペンを持った手を小さく振ってくれた。
「さっき誘ったときゆっくり来るから席取られんか思ってドキドキしたわ」
「慌てたらみんなの迷惑なるから」
帰る際、廊下の自販機でカップのココアを飲むことを習慣にしている。ココアどこだ?というネーミングに惹かれたのだ。まさしく僕たちはどこにいるのだ?ここで買ったので小銭ができて、ガチャポンを回したのだ。今日は再びガチャポンに挑戦する気でいた。玄関フロアに降りると、後ろから道瀬に声をかけられた。
「まだいたんや」
「八時までやってココア飲んで降りる」
「わたし九時まで。でも今日は帰るねん。昨日模試の結果でへこんでて、八時半で帰ったら家でも勉強できたんよ。だからしばらくずらしてみようかなと。一時間は怖いから三十分」
僕たちはどちらともなく駅まで歩いた。
途中でガチャポンが待ち構えていた。
僕は立ち止まると、
「え?」と道瀬。
「もう一回やろうかなと」
「こだわるやん」
道瀬は笑いをかみ殺した。
百円を入れて回した。
また空っぽのカプセルが出た。
「わたしもやってみようかな」
道瀬はコートを足に巻くように腰を降ろして覗き込んだ。すでに百円を手にしていた。
「お金のムダやで」
「やってみようと思ってたの」
カプセルは空っぽだった。
僕たち二人で笑った。
「何か出ると思ったんやない?」
「わたしだけはって思ってた」
「んなアホな」