表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただの回復兵で英雄は俺じゃない  作者: ねもねも。
3/3

英雄じゃない

白い鎧が、光を反射していた。


ありえないほど清潔で、傷ひとつない。

血と泥にまみれたこの戦場には、似つかわしくなかった。


「うわ、マジでこのボスいた! グラーヴァって確か、火に弱いんだよなぁ~」


転生者の男は、ひとりごとのように喋りながら、宙に魔法陣を展開した。


火の柱が天を裂き、グラーヴァの胴体が燃え上がる。

あれだけの絶望を与えた魔族の上位種が、まるでモブのように焼け落ちていく。


「ほらほら、次どこ? あ、東側はまだ敵残ってんの? よっしゃ片付けとくわ」


転生者は笑いながら、空を駆け、放つ魔法は地形すら書き換える。

魔物も魔族も、ひとたまりもなかった。


俺たちは──ただ、立ち尽くしていた。


シズの魔導器は壊れていたけれど、修理の必要はなかった。

カイルの盾は割れていたけれど、もう構える必要もなかった。


戦争は、この男が終わらせる。

俺たちの誰も、もう“戦い”には必要なかった。


戦いは、ほんの十五分で終わった。


転生者は、白い鎧のまま、どこも汚さず、笑顔のまま敵を焼き尽くしていった。


魔族の軍勢は消え去り、第四戦区は「無血開放」と報じられた。

転生者は“光の英雄”と称され、彼を召喚した王国は大いに賞賛された。


軍本部からの通達にはこうあった。


「作戦成功、被害軽微。英雄の活躍により、戦局は一変した」


ふざけるな。


どれだけの仲間が死んだ。

どれだけ、俺たちは血を吐いて、命をすり減らして、やっとここまで来たんだ。


「……笑えるよな」


カイルが地面に寝転がり、天を仰ぐ。


「全部、あいつがいれば良かったんだってさ。最初から。俺たちは……なんだったんだろうな」


誰も、答えられなかった。


シズは静かに魔導器の欠片を拾い集めている。魔法ももう使えないそれを、手のひらで抱きしめるように。


俺も、治癒の魔法を使うことはもうなかった。

助けを求める声は、もう聞こえなかった。


「目の前の命を救いたいって、ずっと思ってたけどさ──」


俺の手は、震えていた。


「……救えたのは、俺じゃなかった」


静かに、風が吹いた。

俺たちの誰も、英雄にはなれなかった。


けれど、まだ生きていた。


……それが、余計につらかった。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

初投稿作品ということもあり、至らぬ点も多いかと思いますが、少しでも印象に残る物語になっていれば幸いです。

感想や評価などもお待ちしています!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ