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ただの回復兵で英雄は俺じゃない  作者: ねもねも。
1/3

①目の前の命だけでも

初めまして。


本作は「戦場の最前線に駆り出された無名の回復兵」を主人公にした三話完結の掌編です。


初めての投稿になりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

焼け焦げた硝煙と魔獣の死臭が入り混じる空気の中、俺は泥だらけのマントを引きずりながら、またひとつ命を繋ぎ止めようと必死だった。


回復キュア──!」


魔法陣が展開し、光が兵士の潰れた胸を包む。けれど、鼓動が戻る前に、頭上から降ってきた岩のような火球が彼ごと大地を抉った。自分も吹っ飛ばされる。


「っ……!」


「リュウ、まだ生きてるか!?」


盾を構えながら叫ぶカイルの声が聞こえる。土煙の向こう、彼の銀の盾には、オーガの大剣の痕が深々と刻まれていた。

金色の短髪は血と泥にまみれていても、どこか陽気な雰囲気をまとっているのが彼らしい。


「まだ、生きてるよ! シズは……?」


「援護してる! 魔導砲の陣、あと十秒で展開するってさ!」


シズは、魔法学院から徴兵された新人魔導士。

小柄な体に不釣り合いな巨大な魔導器を背負い、肩までの黒髪が爆風に揺れている。無表情に見えるけど、魔法の詠唱は正確で速い。頼りになる仲間だ。


俺たちは寄せ集めの小隊、番号すら与えられていない“無名兵”。

最前線で、魔族と人類とがぶつかり合うこの“第四戦区”に放り込まれた、新兵のくずかごだ。


ちなみに俺はリュウ。茶色の髪に、見た目も地味なただの兵士。回復魔法しか使えないし、剣もまともに振れない。

でも──


それでも、俺は回復を止めない。


「目の前の命くらい、助けさせてくれよ……」


かつて、大切なあの子も救えなかったが、俺がいま唯一できることは回復魔法なんだ。


魔導砲の発射音が腹の底に響いた。

地を這う魔力の波動が、敵陣をなぎ払う。無数の魔物と魔族が黒煙の中に消えていった。


「今だ、前へ!」

カイルの叫びに合わせ、シズが火炎の槍を放ち、俺は倒れた兵士にすかさず回復魔法をかける。


足が止まれば、死ぬ。

感情に囚われれば、死ぬ。


それでも──


「お願い、目を開けてくれ……」


俺は、またひとつ命を繋ごうとしていた。

胸を穿たれた女兵士。回復魔法では足りない。魔法触媒のストックをかき集め、無理やり魔力を注ぎ込む。


少し、目が動いた。

でも---次の瞬間

近くに爆音が降り注ぎ、女兵士と共に吹き飛ばされ回復は中断され名前も知らない女兵士は動かなくなる。


「リュウっ!!」


吹き飛ばされた衝撃で動けなくなっていると、カイルが俺の前に飛び込む。魔族の大斧が彼の肩を裂く。シズの術式が炸裂し、敵は燃え尽きた。


「おい、大丈夫か!?」

「へっ、かすり傷……っつっても痛ぇな……」


カイルが、笑っていた。血だらけで、左腕が動かないのに。すぐさま回収魔法を使う。


「……また、救えなかった」

俺の指先が震える。


どれだけ魔法を使っても、死は止まらない。

俺が回復できるのは、傷だけだ。失われた命は、戻らない。


「目の前の命だけでも、なんて、言ってたくせにな……」


後方では味方陣形が崩れ、指揮官の死が報告された。

魔導士部隊は壊滅、残った兵も散り散りになっている。

第四戦区、総崩れだ。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

物語はまだ始まったばかりですが、最前線で命と向き合う兵士たちの姿を描いていきます。

よろしければ次話もお付き合いください。


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