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 次の日、ギルロードはイズレイルと共に王宮を出立することになった。



 黒竜騎士団の元団長であるイズレイルを見送るため、騎士団の精鋭たちも中庭に整列している。


 カトリーナは二階の窓際から、そっと外を盗み見た。


 長身のジョフリーは、どこにいようと目立つ。カトリーナは頬を染めながら、ため息をついた。




(今日もジョフリー様が素敵……存在が神……。たくましい筋肉に税金が掛けられなくて本当によかった……筋肉税とかあったら、おしまいだったわ。私が)




 口に出して言っていたら、メイド仲間から間違いなく変人扱いされただろう。なのでカトリーナは無言のまま、外を見つめていた。


 他のメイドたちもカーテンの影から窓の外を凝視している。もちろんギルロードの姿を見るためだ。


 ギルロードはおそらく、王都に二度と戻らないだろう。

 これが顔を見る最後のチャンスなのだ。



 リュックを背負ったギルロードが王宮から出てきた。


 身分の高い者が荷物を持って旅するのは珍しい。おそらくアイテムコンテナが小さくて、入りきらなかったのだろう。


 使用人を帯同させていれば、荷物を持たせることができただろう。しかし今回はイズレイルとの二人旅と決められているので、自分で持つしかないのだろう。



 高貴な者の二人旅――。



 ギルロードの姿を、哀れだと思う人も多いかもしれない。

 しかしカトリーナの目は輝いていた。


(ギルロード殿下、農夫っぽくていい! 袋の中に肥料とか入れてほしい!)


 厨房からの噂によると、ギルロードは旅に根菜ばかり持って行くつもりらしい。その点も、カトリーナの嬉しいところである。


 ギルロードはイズレイルの側に立った。ジョフリーも近くに控えている。

 カトリーナは息を呑む。


(ギルロード殿下がジョフリー様の横にいたら、ジョフリー様がますますたくましく見えるじゃない。この並び、絶対にいい! ずっと並んでいてほしいけど……もう行っちゃうのか……)


 うっとりと見つめていると、今度はイズレイルの愛馬である黒馬まで駆けてきた。


 黒馬と戯れているギルロードを見ているうちに、カトリーナの心の中に、言葉にしづらい、もやのようなものが湧き出てきた。


 ギルロードは国王に反旗を翻すタイプには、とても見えなかった。


 そもそもギルロードは、王宮から出たことがない。国王を陥れる陰謀を巡らせるのは難しいはずなのだ。



 しかし高貴な人間にとって重要なのは、罪の有無ではない。



 ギルロードが邪魔かどうか。そう考える人間が、どこにどれだけいるか――そんな政治的な意図により運命が決まるのだ。


(ギルロード殿下……。王族じゃなくて、普通の人として生まれたほうが、幸せになれたのかもね……)

 分かっていても、どうすることもできない。それが使用人というものである。




 ギルロードとイズレイルは旅立った。


 ジョフリーは二人の姿を、いつまでも見送り続けている。


 三人の姿を見ているうちに、カトリーナは、ひらめいた。



(そうだ、ぬいさんを作りましょう!)



 まずは、いま作りかけのジョフリーのぬいぐるみを完成させたあと、ギルロードのぬいぐるみを作って、横に並べる。


 大切なのは、ギルロードには農夫の服を着せて、リュックを背負わせることだ。


 ついでに綿で農場も作りたい。


(追放されたあと、どうなるか分からないから、ギルロード殿下には、ぬいの世界でだけでも幸せになってほしいな)


 他のメイドが聞いたら「王族の幸せが、どうして農場になるのよ」と呆れそうである。

 しかしカトリーナの考える幸せの基準が、そこにあるのだから仕方がない。


(平民っぽい、あのギルロード殿下なら、絶対に王宮より農場が似合うわ。ぬいのジョフリー様も、ギルロード殿下をきっと歓迎することでしょう)



 もしかすると今後王宮では、ギルロードのことがタブー視されるかもしれない。


 ぬいぐるみを作ったカトリーナの立場が悪くなる可能性もあるだろう。


 だが少なくともいまは、ギルロードは「追放」扱いではなく「新しい領地へ赴いている」という建前なのだ。


 建前が存在しているかぎり、一介のハウスメイドに過ぎないカテリーナが、何をしようとも自由なはずである。


(それにもしかしたら、ギルロード殿下が害のない人だと国王陛下にも分かってもらえて、いつか王都に戻れるかもしれないよね)


 旅立ったばかりのギルロードの姿を思い浮かべながら、カトリーナは願う。



(ギルロード殿下が、もう一度王都に戻ってきますように。たぶんみんなも、そう思ってる。だってみんな、もう一回ぐらいはギルロード殿下の顔を見たいよね)





 ――こうして。


 ギルロードの帰還を望む者が、また一人増えた。


 もちろんギルロード本人は、いまは知るよしもない。




      【終わり】



このお話は、ここで終わりです。

もしかしたら、またどこかでカトリーナを出すかもしれません(たぶんジョフリーは、名前付きで本編に出てくると思います)

そうなったら、よろしくお願いします。


今後とも、本編をよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n7653jh/ ←本編ここ

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[一言] ぬいの幸せ!盲点でした!
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