神会議
身体に痛みはない。
エステルが、ふっと目を開けると、白い空間に横になっていて、両脇から金髪で金の瞳をした女性が二人、のぞき込んでいた。双子みたいによく似た美人だ。
ゆっくりと半身を起こせば、右側の女性が抱きついてきた。
「ごめんなさい、エステル。私の力が及ばなくて!」
「いいえ、アニエス。私も自分の聖女にあんなものを選んでしまったから、いけないんだわ」
左側の女性が言う。
「シエル。では、私たちはどうすれば、良かったの? あの子が自分の国の聖女の役割を放棄して逃げ出すなんて。そして、私の愛し子から能力を奪うなんて、想像もできなかったわ」
「私も、あの子があんなに人びとへの奉仕を嫌がるなんて、思いもよらなかった」
アニエスは、エステルが生まれた国・モンドールの守護女神の名、シエルは隣国・テルミナールの守護女神の名だ。
この世界は、主神が造り、それぞれの国を男女の神々が守護していると信じられていた。聖女は、『守護神の愛し子』とも呼ばれ、神の使いとして、人びとに恩恵を与える役目を担っていた。
白い空間には、姿が見えないけれど、大勢の人がいるようだ。がやがやと話し声がする。
「テルミナールのシエル。罪のない聖女の死を招いたこと。どう始末をつけるつもりだ? これは我々の存在を揺るがす大きな問題だ」
男性の声がした。
女神シエルが声のしたほうを向き、ひざまずく。
「我が力、我が存在のすべてを使い、エステルを蘇らせます。そして、モンドールのアニエスとの国替えの許可を願います」
「テルミナールの守護をアニエス、モンドールの守護をシエル、というわけだな。そうして、どうするのだ?」
「我が存在のすべてをかけて、真の聖女を殺した者たちに罰を与えます」
きっと、女神シエルが声のする方を見上げた。
「だめよ、シエル。あなた、消えてしまうつもりなの?」
女神アニエスの言葉を、がやがやと話す声がかき消す。
しばらくして、静かになった。
「許可する。みなは自らの守護する国の神殿へ国替えのことを報せるように」
決定が告げられ、大勢の気配が消えた。
「これを飲んでね」
目の前の女神シエルが右手を差し出した。その手のひらの上には、光の珠がのっている。
珠は輝きながら浮き上がり、すいっとエステルの口へ吸い込まれていった。
そこでエステルの意識は遠のいた。