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第6輪 前へ

 次の日、いつものように登校して、いつものように自分の席でダラダラしているといつもより少し早い時間に隣の席のイスを引く音がした。


「寺川君おはよう。体調は大丈夫なの?」

「おはよう白守さん」


 体調の方は何ともいえない。今のコンディションはいたって普通なのだが、また昨日のようなことが起こる予感がする。


「体調はまぁ、普通かな?」

「次、酷くなりそうだったら言ってね」

「そこまで世話はかけないよ」


 心配そうな顔をする白守さんにひらひらと手を振って答える。

 なに、自分が思っていたよりも高校生活に疲れてただけだろう。疲れる分、授業で寝てしまえばいい。


「もう、また気持ち悪くなっても知らないよ?」

「大丈夫だって、白守さんは心配性なんだから────のわぁっ!!」

「……また美雪を困らせてるの?」


 いきなり会話に入ってきた釖木さんに俺は情けなく驚いてしまう。今回も心臓に悪いな……。

 釖木さんは少し俺の顔を見ると一旦自分の席に座った。こころなしかその表情は安心しているように見える。心配して……くれてたのかな?

 もう少ししたら釖木さんの朝のルーティーンが始まるので、軽く教科書に目を通し始める。


「おはよう。恭平氏。体調は大丈夫そうだね」

「一応な」

「そう。今のままなら、また昨日みたいになりそうなもんだけどね」


 何を知った風に。流石にもう大丈夫だろう。

 でも、油断するとまた体調を崩すかもしれないから気は引き締めないとな。

 俺の様子をニヤニヤ見ていた林田がスマホを取り出し、画面を見始める。

 しかし、その瞬間、教室のドアが開かれた。そう、豊川先生だ。


『~ゲーム』


 先生の入室により一瞬、静まり返った教室に可愛らしい女の子の声が響く。その発信源は林田のスマホだ。

 林田は少し顔を赤くすると急いでスマホをしまい、誤魔化そうと引きつった笑顔になる。


「お、おかまいなく~」


 林田の一言にクラスはドッと沸き立つ。

 その中、俺は冷ややかな視線を林田に向ける。そしてつい、笑いをこぼす。


 ***


「じゃあ、最後に寝てる寺川、これに答えろ」

「ピラニア酸」


 昼休みを知らせるチャイムが鳴っているのに構わず俺を指す化学の掃部はけべ先生。即答すると悔しそうに授業終わりの挨拶をするように日直に指示した。

 ちなみに俺に出された問題は『H2So4+H2O2の混合物』。今、ちょうど先生が悔しそうな顔をして消している。

 さて、と。


「一緒にお昼ご飯食べようか?」


 いつもより少し明るい声で白守さんが声をかけてくる。

 正直、逃げたいのだがもう逃げられないのは証明されているので諦めた。


「じゃあ、林田は」

「お、行こ……」

「……今日は眠いみたい」


 俺が声をかけると林田は料理げきぶつで光の速さで眠らされた。釖木さんによって。今まで一番怖えよ……。

 起きてくれるというかすかな希望にかけて軽く叩いてみるが反応がない。

 釖木さんが昨日言ってたことを思い出す。『上手く止める』って殺す気かよ……。


「……私は寝てる林田を看てるからパス」


 パス。じゃねぇよ。と言いかけるが飲み込む。

 そしてある種の緊張感が鼓動を早めた。


 ***


 ほとんど無言でいつものところに行くと思い思いの場所へ座る。

 それぞれのタイミングで手を合わせて食事の挨拶をした。俺は総菜パンを、白守さんはお弁当を食べ進める。


「やっぱり、寺川君達とお昼食べた方が美味しいな」

「そんな変わるもんなのかね?」


 その言葉に首を傾げて答える。しかし、白守さんの屈託のない笑顔は本心であることを教えてくれる。

 嬉しい、けど、俺はそれがたまらなく怖い。


「だって酷いんだよ。みんな寺川君のことや郷華ちゃんのこと悪く言うの」

「へぇ~」


 傷つきはしなかった。予想できることだ。クラスのヒロインに唯一触れることのできる異性。それだけで因縁付けるのに充分だ。

 しかし、釖木さんもとなると複雑ではある。


「なんで釖木さんも巻き込まれてるの?」

「郷華ちゃんに対して言ってたのは昨日。寺川君は一昨日」


 頬を膨らませてプリプリ怒る白守さん。その姿が少し幼い時の面影を映した。

 ん? 幼い時?


「しかも、あのトンチンカン、郷華ちゃんを財布にしようとしたんだよ」

「白守さんって意外と言う時は言うんだね……」

「もちろんだよ。私だって人間としてまだまだなんだし。ムカーッてなることもあるよ」


 そう言って唇を尖らせる。本当に白守さんはいい人だ。友人のためだけではなく、隣の席なだけの俺のためにも怒ってくれる。

 だから、だからこそ俺は聞かないといけない。


「白守さん、もしもだよ。もしも、ずっと永遠に続いて欲しいと願うほど素晴らしい出会いがあったとする」

「うん」


 真剣に話すと白守さんも真剣な表情で聞いてくれた。

 震えそうになる声を抑えて続ける。


「それが何かしらのトラブルで最悪なものになるとしたらどうする?」


 その場に沈黙が走る。白守さんは考える素振りをした。

 思ったより短い時間で考えをまとめたようで小さく頷く。


「それでも、それまでの時間を全力で楽しみたいかな」

「全て否定されてもか?」

「それは流石に傷つくけど……振り返った時に『色々あったけど楽しかった』って思えるようにする、かな」


 真っ直ぐ真っ直ぐ、俺を見て白守さんは『応えて』くれる。俺にはその視線がまぶしく、刺さる。。


「白守さんは強いね」

「ううん。私は強くないよ」


 その美しい瞳を俺自身が曇らせてしまうのではないかと思うと怖い。


「怖くないの?」

「怖いよ。でもそれで立ち止まってたら動けないよ」


 その綺麗な顔を俺自身が歪めてしまうのではないかと思うと怖い。


「俺は白守さんみたいになれないや」

「当たり前だよ。寺川君は私にはなれない。逆に私は寺川君になれないの」


 その優しい心を俺自身が傷つけてしまうかもしれないと思うと、耐えられない。


「それでもね。私はいや、────多分、郷華ちゃんも林田君も寺川君キミとこの学校生活を過ごしたいんだよ」


 心に響く。その表現がぴったりだ。今、握りしめている手をほどいて伸ばせば白守さんは手を取ってくれるだろう。

 でも、それは自分の決意を曲げてしまう事になる。


 でも、もう分かっている。俺自身、本当は白守さん達と深い仲になりたい、と思い始めていることを。


「ごめん。ちょっと先に行くね」

「え? うん」


 そう言って逃げるようにその場を後にした。 手が極寒の地にいるかのように震えている。


 ────ああ、逃げてしまった。


 後悔の念が強く心にのしかかる。無理矢理『これでいいんだ』と繰り返し自分に言い聞かせた。


 ***


 先生が黒板に書き込む音がする。先生が何か言っているがその内容を聞き取ることができない。

 目に映る情報はぼやけている。いつものように眠ることもできない。かといって授業に集中する気も起きない。

 ウトウトすることもなくただ、頬杖をついて前を見ているだけ。

 意識外でまだ決意を曲げまいとする俺と前に進みたがる俺が戦っている。取っ組み合い、蹴り合い、殴り合い、そう形容するのが一番しっくりくる。


 一瞬、目だけで白守さんを追う。ぼやけて見えなかったがいつものように授業を受けてるのだろう。

 俺と俺の戦いに決着がつかなかったのか。胸の中にモヤモヤだけが残る。気付くと音もなく力尽きていた。


 ***


 もう気付くと6時間目が終わっていた。

 意識がはっきりすると豊川先生の話がしっかりと耳に入る。


「んで次は来月にある校外学習についてだ。来週の金曜日にグループ決めるから仲良く決めるんだぞ」


 まばらな返事が先生へ返ってくる。もちろん、俺は何も言わずにいた。

 そうだ。校外学習の思い出だってきっと最悪むだになる。だから────


「ってことで寺川と白守はこの後、校外学習のしおり作っておいて」

「え? は、はい」

「はい」


 いきなり名前を呼ばれたので驚いた。白守さんは真っ直ぐ返事をする。

先生がそう言ってるってことはこの後、来て欲しいということね。もう分かった。


「てことで解散」


 『来い』とは一言も言わずに日直に号令させる先生。帰りの挨拶の代わりにため息を出してしまった。


「さて、仕事だ」


 自分に深く深く言い聞かせるように呟く。短く息を吐いて教卓へと急ぐ。

 俺と白守さんが揃ったのを確認すると先生は教卓の下からL字状にまとめられた紙の束を置く。ずっしりとした音が教卓を揺らす。


「これをクラス人数分、本にしておいてくれ」

『はい』


 珍しく白守さんと返事が被った。よく考えればうちのクラスは36人。

 数百、数千も製本するわけではない。俺と白守さんで18人分ずつ。ページ数は少し多そうではあるが大丈夫だろう。

 ただ、心配なのは……。


「寺川君、どうしたの?」

「なんでもない。早いところやっつけちゃおう」


 そう、白守さんだ。昼休み逃げてしまったので気まずい。

 ぐるぐる思考が回らないようにすると製本作業こんかいのしごとが目に入る。これだ。

 校外学習のしおり(になる前の紙束)を全部持とうとするが少しよろける。


「半分持つよ」

「ありがとう」


 白守さんは俺の持っている紙束を上手くすくうように半分持って行ってくれる。

 そして俺と白守さんは紙束の山から1種類ずつ取り出して分けた。

 林田と釖木さんの机も借りて紙はザっと10種類。大変そうだ。


「じゃあ、まずは重ねてそれっぽくしよう。んで全部やったら1部ずつ止めていくか」

「そうだね。本格的に高校生活が始まった感じがするね!」

「そうかな? いつもと変わらないと思うが」


 そう言って紙を1枚ずつ重ねて本が全開になっているような状態にする。白守さんが続いて同じものを作って端だけ合わせて縦に置く。紙の束を先生から貰った時と似た形にした。

 この時は俺も白守さんも無言で同じ作業を続ける。次第に教室に残るクラスメイトも少なくなり、話し声よりも紙が擦れたり、めくれたりする音の方が大きくなった。

 思ったよりは早くまとめる作業は終わった。


「じゃあ、次は大きいホッチキスでまとめようか」

「ああ」


 そう言って白守さんは先生のいないデスクの上を探す。少しすると自分たちが普段使うようなホッチキスより長いものを持ってくる。持ってきてくれたのはいいのだが……。


「やっぱ、1つしかなかった?」

「うん。1つしかなかったよ」


 当たり前か、こういう時にくらいしか使わないものを何個も用意するはずがない。


「とりあえず、俺がホッチキスで止めるから白守さんは折って冊子にして」

「うん。そうしようか」


 ありがたいことにページの中間になるところに目印を用意してくれているようで俺はそこに向けて芯を刺すだけだった。

 豪快な音が教室に響く。あまり使われてなかったせいか少し動きが悪い。


「校外学習先見たか?」

「うん。ファザーファームだっけ」


 動きの悪いホッチキスに悪戦苦闘しつつも白守さんに話題を振る。

 ファザーファームは県の南の方にあるレジャー施設で牧場や農園、アトラクションなどが楽しめるスポットだ。


「小学生の頃行った覚えはあるんだけどジャム作ったことくらいしか覚えてない」

「私は行ったことないかも」


 話題を振っておいてアレだが、話が続かない! これじゃ気まずいままだ。

 えっと、え~っと……。


「寺川君? 手が止まってるよ?」

「あ、ああ。ごめんごめん」


 白守さんに指摘されて我に返った俺は慌てて手を動かす。

 どういうわけなのか、自分の手をホッチキスで止めてしまう。


「いっっっっった!!」


 ホッチキスの芯が半分くらいの深さまで刺さってしまった。痛みで大きな声が出てしまう。

 急いで芯を抜く。しみ出すように血が流れる。


「寺川君、ほらティッシュ」

「いや、水でいいっ」


 逃げるように、いや、逃げるために水道へ向かおうとすると白守さんの綺麗な手に掴まれる。

 少しひんやりするその手はカチカチに凍った氷のように動かない。

 半ば無理矢理引き戻されると白守さんは黙って俺の手から出た血を優しく拭く。


「あのね」

「は、はい!」


 つい敬語になってしまう。口調も声もいつもの白守さんだ。なのに、どうしてか委縮してしまう。


「どうしたの? 白守さん」

「ねぇ、寺川君。1つ聞いて言い?」

「答えられる範囲でなら」


 俺の手の状態を確認しながらいつもと違った静かな声で質問をする。俺はそれに予防線を張って答えた。


「寺川君、副委員長あかのたにんを演じてるでしょ?」

「んな馬鹿な。俺は役者じゃないんだぞ。ただの──」

「そういうところ!」


 質問の意図に沿わないようふざけて答えようとすると両肩をがっちりと掴み大きな声を出す白守さん。俺を見るその表情は怒りに染まってる。


「そうやって私は、私達は寺川君と向き合いたいのに寺川君は私達と向き合ってくれない! なんでよ?」

「いや、それは関係ない話だろ」

「関係ある! 私は本当の寺川君あなたと友達になりたいの」


 冷たく返すがそれ以上の熱量で白守さんは返してくる。

 これはテコでも動かないやつかもしれない。


「俺達はビジネスパートナーのようなものだ。それ以上はダメだと言ったはずだ」

「言ったけど、私は了承してないよ」

「それはそうだけど……」


 目は真剣だ。逃げようと思えば逃げられそうなものなのだが、泳ぎ方を忘れた魚のようにピクリとも動けない。

 白守さんの澄んだ目に吸い込まれてしまうような感覚がする。


「じゃあ、なんで毎日ちゃんと学校に来てるの? しかも私より早く」

「そ、それは……学歴に影響する、から」

「ならある程度の回数、学校来なくければいいじゃん。寺川君、頭いいんだからそれくらい計算できたでしょ?」


 確かにそれはそうだ。やろうと思えばそれくらいは出来たかもしれない。

 でも、その発想は初めから無かった。いや、初めから除外していた?


「それって寺川君は誰かと一緒にいたい、繋がっていたいって思ってるからじゃないの?」


 否定できない。白守さん達と仲良くなりたいと思う俺がいることに気付いてしまった俺に否定する資格はない。

 しかし、それでは白守さん達を傷つけてしまうかもしれない。


「思ってない。思って、ない。それは最終的に白守さん達を傷つけてしまうから。そう思う資格は俺にはない」


 のどから絞り出すように言うがそこには本心ちからがない。

 これは誰も傷つけないため。自分が傷つかないためだ。だから……。


「じゃあ、なんでそんな悲しそうな顔してるの?」

「え?」


 そう言うと俺の顔を軽く両手で挟み、こちらに向けてくる。白守さんの顔には先程、浮かべてた怒りの表情とは打って変わって慈悲にあふれた表情があった。

 晴天の光に煌めく海のような澄んだ青い瞳に心奪われた。嘘や屁理屈、のどまで出かかってた拒絶の言葉も全て、全て洗い流される。そんな感覚だ。


 ──────って青?

 ハッとなって白守さんの目を改めてみるとそこにはいつもの黒い瞳があった。

 不意に白守さんは親指で俺の目頭を軽くぬぐう。すると濡れた感触が肌に伝わる。泣いてたのか、俺は。


「少しずつでもいいから本当の寺川君を見せて欲しいな」

「嫌だ」

「なんで?」

「怖いから」


 白守さんの目から視線だけ逃がし、本心をこぼす。すると白守さんはアスファルトに咲く花を見つけたような笑顔になる。


「前のLHRで言い争っていた時の方本当の姿なんじゃないの?」


 多分、レクの話し合いの時の油元とのことを言ってるのだろう。


「頭に血が上ってたからあまり覚えてない」


 少し拗ねたように返すと白守さんはクスッと笑った。


「ちょっと皮肉屋だけど相手と正面からぶつかり合うことを恐れない勇気がある。でも相手を傷つけたくない優しさもある。やっぱり、私は寺川君と一緒にいると安心するな」


 そう言うと白守さんは俺の胸に顔をうずめて抱き付いた。白守さんの出す息が胸にかかり熱くなる。予想外の行動に警官に銃を向けられたように手を挙げた。

 何を思ったのか白守さんは顔はそのままで俺の片腕を取って白守さんの後ろに回すように動かしてくる。

 戸惑いながらも従うように白守さんの首の後ろに手を回すように抱きしめるような形になった。すると白守さんが満足したように息を漏らす。

 心の中にある不安がとけていくような感覚がした。


 しばらくすると白守さんは俺から離れていたずらっぽく笑って見せた。


「えっと、白守さん?」


 質問しようと口を開くが混乱していて肝心な言葉が出てこない。


「もうそれ禁止」

「なにが?」

「『白守さん』のこと。出来れば郷華ちゃんみたいに呼んで欲しいな」


 女子相手にそれは……。断れる状態ではないので挑戦してみる。


「しら……み、み、みゆ、しら」

「ん~?」


 どもってしまう俺を白守さんは意地悪な笑顔で見上げる。


「ダメだ。ごめん。今日は勘弁して」

「しょうがないなぁ、今日は見逃かんべんしてあげる」


 顔が熱い。まだ春なのに夏のように汗をかいている。


「さて、仕事に戻ろうか」

「あ、そうだった。早く終わらせないと」


 思い出したかのように先生からの雑用に戻る。

 終わるまで無言だった。しかし、今ここには心地のいい時間が流れていた。


 ***


 次の日。いつものように机に突っ伏している。

 表面上、いつもの感じを装っているがくすぐったいような恥ずかしさで息が詰まりそうだ。

 緊張の瞬間。隣からイスを引く音がした。恐る恐る、顔を上げると白守さ────みゆ──が笑顔で見つめていた。


「おはよう、『恭平君』」


 本当に自然に、それが一番しっくりくるように呼ばれて少しドキッとする。俺も、応えないと


「お、おはよう白守さ……ジャナクテミ、ミユキ」

「なにそれ、ロボットみたい」


 俺の必死の名前呼びがクスリと笑われる。こんなはずでは……。


「そんなに笑うならもう呼ばない」

「ごめんって」

「なんだいなんだい? 面白そうじゃないか」


 俺が拗ねてると割り込むように隣の馬鹿が会話に入る。

 本当にこういう時は面白がりやがって……。


「聞いてくれよ。『美雪』が俺の頑張りをバカにするんだ」

「ごめんって言ってるじゃん」

「ほ~~~~~~ん」


 無いあごひげを撫でるようにニヤニヤしてきやがって気持ち悪いぞ。ったく。


「なんだよ。『翔太』その変な顔やめろ」

「ほうほうほうほうほう」


 さらに翔太がムカつく顔になる。一発分なんぐってやりたい。


「……おはよう、美雪」

「郷華ちゃん、おはよう! ねぇ、聞いて恭平君がね」

「……へぇ」

「なんだよ『釖木』」


 どこか驚いたような、面白そうなものを見つけたような表情をする釖木。その表情が少し怖い。

 釖木はいつもより早いタイミングで朝のルーティーンを始める。


「昨日何があったか詳しく」

「ただの勢いだ。何もなかった」


 翔太による追撃は先生が来るまで続いた。

 まだ傷つけてしまう、傷つけられてしまう恐怖は完全に消えたわけではない。

 でも、こいつらとならそれ以上の関係つながりになれる。そんな確信に近い予感がするんだ。

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