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間輪 パない妹

 入学式の後、逃げるように教室から出た俺は家に到着していた。

 慣れた動作で自転車を止めてポケットから家の鍵を────あれ?

 しまった。家の鍵を忘れた。

 今日は入学式で帰りが早いので父さんからスペアキーを借りたのはいい。しかし、俺はそれを自分の机の上に置いたまま出て行ってしまった。

 んで今日は母さんが用事で出かけてしまっている。終わっ──────


「終わったって思ってる? ほら、鍵忘れていったでしょう。気を付けて」

「ああ、助かった……って」


 驚きのあまり、その場から飛びのいてしまった。

 俺がとっさに顔を向けた先には、俺と全く似ていない(いい意味で)妹のまいがいた。


「驚かさないでくれよ……」

「そんなつもりはなかったのにな」


 そう言っていたずらっぽく笑うが、その顔が驚かそうとした証拠だぞ。

 同じく入学式かなんかで大体同じくらいの時間での帰宅になったんだろう。


「そうだよ」

「なんで考えてることが分かるんだよ」

「女の勘」

「それで説明出来たら超能力は何なんだよ……」


 本人は『女の勘』と言っているが舞のそれは常軌を逸してると思う。同じ女であるはずの母さんにはそんな能力ないぞ。


「ほら言うじゃん。『事実は小説より奇なり』って」

「『奇』っていうよりかそのじを3個くっつけたような文字だろ。んな字無いけど」


 いちいちこれに構ってるとただでさえ疲れてるのにもっと疲れてしまう。

 舞から受け取った鍵を使って家の鍵を開ける。


 中に入ってとりあえず、リビングに入って冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注ぐ。

 帰宅ラッシュ時のサラリーマンのような足取りでソファに座り麦茶に口を付ける。


「ふぅ」


 やっと一息付けそうだ。


「んで、どうしたの? 入学早々、目立たないように気を付けてたのに隣の可愛い子に声をかけられて困ったので適当なクラスメイトになすりつけようとしたら思わぬ事態になってしまってそこから逃げるように帰ったような顔して」

「ぐぅ……」


 思わずお茶を吹き出しそうになったがなんとかなった。的確過ぎて怖いんだが我が妹。

 小学生の中学年あたりからこんな感じだ。もう慣れたが、こういう不意打ちで当てられるとまだ驚いてしまう。


「正解?」

「ほぼな」


 悔しいのでそう言ってしまったが舞はニヤニヤしながらこっちを見ているので嘘はバレてそうだ。

 あれに関しては俺は……悪くない、よな? 新しい環境に慣れてないストレスか何かに違いない。そこにあのクラスメイトが故意ではないにしろ驚かせてしまったせいでパニック状態になってしまったんだろう。


「ん~。それは不正解じゃない?」

「お前に何が分かるんだよ」

「大体全部?」


 可愛く言っても怖いんだが。悟り妖怪みたいな女の勘を除けば普通の女の子である舞が全てを知りうるわけがない。いつもの舞なりのジョークだ。


「それよりもそのお姉ちゃんと仲良くしないの?」

「妙な呼び方するな。失礼だぞ」


 するわけない。仮にするとしたら待っているのは……。

 これ以上は考えないように大きく息を吐く。


「怖いん、だよね?」

「ぶっちゃけるとな」

「仕方ないよ」

「いつも何かとありがとな」

「ううん。そういう役割好きなところあるから」


 俺が人と関わることが怖くなってしまった、あの事件があった時も舞はいち早く気付いてくれて話を聞いてくれた。

 話すだけでも少しはスッキリする。

 恐らく俺が気付いてないだけで舞に何度か家族うちが助けられてる部分があるだろう。


「結局お兄ちゃんはそのお姉ちゃんとどうなりたいの?」

「別に。どうともなりたくない。だって」

「傷つけたくないから?」

「分かってるなら聞くな」


 と言ったが舞は俺から言質を取りたかっただけだろう。傷つけたくないから関わりたくないという答えを持っていることの。

 さすがにまだ舞は中学2年生で通う学校も違う。俺の人間関係に干渉することは出来ないだろうし、する気もないだろう。


「楽しみにしてなよ。面白いことになるって」

「やめろ。お前のそれは朝の天気予報より当たるんだから」

「お褒めにあずかり光栄です」

「褒めては……いるか」


 でもやめれ。と付け足して空になったコップを流しに入れて自分の部屋に戻る。

 ベッドに寝転がって適当に取った漫画を読むが内容が頭に入ってこない。

 マットレスに叩きつけるように漫画を閉じて枕に顔を埋める。考えるのはやめると自然と意識は眠りの世界へ引きずり込まれた。

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