44 プレゼンテーション・コンテスト再挑戦
誰からも、何のアクセスもない。ひみこは、孤独感に埋没する暇もなく、二回目のプレゼンテーション・コンテストを迎えた。
地方大会にも関わらず、あの鈴木ひみこがエントリーするとのことでマスコミが集まり、彼女のファンも駆け付けた。ライブ配信にアクセスが集中した。
今回、ひみこは、日本の巫女の衣装を自らの意志で選んだ。左手首に、タマの眠る腕時計を身に着ける。
舞台に立つ。ウシャスのゴーグルを掛けた。
頭に彼女へのメッセージが押し寄せ、奔流されそうになる。以前と違って、野蛮な原始人へのそれではなく、あの有名人が何をするのだろうか? という好奇心に変わった。
しかし、ひみこは、聴衆の心を探るために掛けたのではない。
昨年のプレゼンテーションで助けてくれた彼、あの彼だけは違ったメッセージを発していた。あのときは、漠然とはしているが温かな何かが伝わってきた。
このゴーグルの力で、彼を探せるのではないか? と期待する。
しかし、観客席からは、意地悪な好奇心しか伝わってこない。あのときの温かさは、今は感じられない。
ひみこは、ゴーグルを外した。
プレゼンの中身は昨年と同じ、自分の名前の由来である、邪馬台国の女王卑弥呼について。
前回のプレゼンテーションとは違い、今回は全て共通語で話す。
「私の名前、日本の女王と同じ名前なんですよ。だから、どんな女王か気になり、私は調べました。はい、こちらが女王の顔の復元図です。はい、私とそっくりでクールでしょ?」
プレゼンにユーモアは欠かせない。数人と笑いがこぼれるだけだったが、ひみこは続ける。
「だから、私は女王の子孫なんだって思っていました。私に名前をつけてくれた親も、自分たちは卑弥呼様の子孫だって、言ってました。親の故郷が卑弥呼の墓の近くだから……」
両親のことを話すと、少し息苦しくなってくる。が、前回の自分とは違う。ここで泣いたらダメだ。だって話すのは親のことではない。女王のことだ。
「でも、それは違うんです。彼女は生涯独身でした。だから子供はいません。私も私の親もわかっていませんでした」
……ばかだよね~、父ちゃん、母ちゃん。自分たちが卑弥呼様の子孫だ、なんて浮かれててさ……
また、ひみこは口ごもる。違う、親は関係ない。
「そして、ほとんど人に顔を見せることはなく、部屋に籠っていたんです。そんな毎日、私は嫌だなあ。私は毎日、外を走ってます。このホールの近くや豊平川の河原を走っているんです。時計台がかわいくて好きです」
うっかり時計台のことを『がっかりちゃん』と言いそうになるが、我慢する。
「でも部屋に籠っていたらどうやって女王の仕事しているのでしょう? だって、私たちのトゥラン大統領は、毎日、忙しそうに出かけてます。この前は月のステーションを視察していました。昔の女王と今の女王は、仕事が大分違うみたいです」
ひみこは、札幌に来て大統領の顔と名前を知った。彼女は、フィッシャー先生に見せてもらったラニカ・ダヤルの顔と雰囲気が似ている。偉い人というのは、何となく似てくるんだろう、とひみこは思いつつ、アレックスから一度も彼女の映像を見せてもらってないことに気がついた。
「卑弥呼は、部屋に籠って占いをしていました。昔の人にとって占いは本当に大切で、未来を予言する力を持つ人が王様になったんです。雨を降らせる儀式もやったでしょう」
ふとひみこは昔見たドラマを思い出す。十二星座占いにハマっている女の子の物語を。自分はやぎ座らしいが、こっちの世界に星占いはまだあるのだろうか?
「卑弥呼はほとんど誰にも会わなかったのですが、弟だけには顔を見せました。彼が彼女の代わりに王の仕事を務めました。そういう何でもやってくれる弟、欲しいですね」
自分と同じ名前の女王が羨ましい。
「彼女の弟の名前を調べたところ、いくつか候補が出てきました。その中で、私が一番好きな名前はツクヨミです。太陽がイメージされる卑弥呼の弟には、月の名前が相応しいと思います」
鈴木ひみこには弟も妹もいない。あの険悪な両親から子供ができるはずがないのだ。
もし……弟か妹がいれば、少しはこの孤独感が癒されたのではないか、と思わないでもない。
それからひみこは、女王と隣の大国、中国とのつながり、当時の中国の情勢などを語る。この国は、先祖が中国人の人が多いと聞いている。
みんなの先祖の国とこの国は、そんな昔から繋がっていたんです、と強調する。
親のことがからむと泣き出したくなるが、それも堪えた。
今回は、親のことはほとんど話さない、と決めたのだ。
鈴木ひみこが親に捨てられたことを、ほとんどの人が知らない。
先にAIのひみこが主張した通り、自分で家を出たことになっている。
事実ではないが、ひみこ自身も、自分が親に捨てられた子供だとカミングアウトしたくなかった。
日本のアイドルと化していた彼女の親について、当然のようにマスコミが探り始めた。
しかし、ダヤル財団は先手を打った。
「彼女の両親は、病気療養のため長期入院中です」
それを知らされたひみこは、当然、アレックスを問い詰める。
しかし、彼は、冷静に答えた。
「ひみこ、マスコミ対策だよ。君が望むなら、僕が日本語族保護局に働きかけて、君の両親をマスコミの元に晒してもいい。彼らは、どれほど君がひどい娘か語り尽くし、実は彼らが君を捨てたんだと、公表するだろうね」
「いやあああ、やめて! お願いだからやめて!」
少女は保護者に取りすがり懇願した。
ひみこのプレゼンテーションが終わる。時間内に話せた。途中で泣き出すこともなかった。昨年と比べれば大きな進歩だ。
全てのプレゼンが終り、ひみこの講評が発表される。
「鈴木ひみこさんのプレゼンテーションはよくできていました。共通語で最後までまとまった内容を発表できたことは評価できます」
ひみこは観客席で目を輝かせる。
「ウシャスが使えず、日本語族というハンディを乗り越えた努力は、素晴らしいです」
も、もしかしてこれは優勝できるのでは? 胸が期待に膨らむ。
「内容もかなり高度で、昔の日本の歴史、それも今ではあまり知られていない歴史を、よく調べました」
そこはかなり自信があった。
そ、そうだよね? だって他の人たち、スコールが気持ちいい、とか、ひまわり畑の迷路で迷った、とか、そんな話ばっかりだもん。
うん、勝てる! あたし絶対に勝てる。ひみこは、左手の腕時計、タマの寝床を握りしめる。
「しかし、これは調べれば誰でもわかる話です。鈴木さんが邪馬台国の女王を尊敬していることはわかりましたが、事実を羅列しただけです。邪馬台国の女王について、何を感じたのか、もっと自分でしか語れないことを主張してください」
え? ひみこはがっくり肩を落とす。
結果、優勝は「スコール」。夏の暑さを前向きに受け止めたところ、特に雨で濡れた感触を伝えたところが評価された。
ひみこの順位は三位。ハンディキャップを乗り越えた努力が評価され「審査員賞」も受賞したが、北海道大会への出場は果たせなかった。




