表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/92

41 日本の三国志

 ひみこは、アレックスの指示に渋々従い「ウィザード・ローブ」と名付けられた商品を、外出時に着ることにした。全身を黒いタイツで身を包み、アウターはまさに昔の魔法使いらしい黄土色の頼りないローブだ。


「銃やナイフで襲われたら危ないだろ?」


 そう言われてひみこは恐ろしくなり確認する。もしかして「この日本」では銃が合法化されたのでは? と。ひみこが知ってる昔の日本とは違うのだ。

「この日本」でも銃の携帯所持は違法とされていると知り、安心する。


 ウィザード・ローブを着て走るのは、苦しい。インナーのタイツはびっちり張り付いてくるし、アウターのローブは袖も裾もぶかぶかして、スポーツにはまったく向いていない。

 それでもひみこは、毎日時計台まで出かけ、その白い壁にそっと手を添える。

 十五歳の誕生日には、煮込んだビーフシチューを味わった。



 鈴木ひみこは、望み通り「有名人」となった。が、有名なのは自分自身ではないと、ひみこはよくわかっていた。

 今までひみこは、自分と同じ名前の女王を中心に勉強を進めていたが、男らに絡まれてから、これまで以上に国際共通語、特に発音の改善に取り組むようになった。


 ホテルのスタッフにこちらから声をかけ、挨拶だけではなく、流行りの音楽やファッションといった話題をふってみる。ベッドメーキングの方法を聞く。変わり映えしない食事についても、ドレッシングの材料などを質問する。


 日常会話は着いていけるようになった。

 しかし、それだけでは駄目なのだ。次のプレゼンテーション・コンテスト。優勝は無理でも、もう少しいい評価が欲しい。こちらには脳情報通信装置ウシャスが使えないハンディがある。


「フィッシャーさん、卑弥呼の墓に行ってみたい。勉強のためです」


 いつもの学習時間、ひみこはフィッシャー先生にお願いする。

 するとフィッシャー先生は「直接モードへシフト」と謎の音声を放って、数秒固まった。そして、再び動きだした。

 いつものフィッシャー先生より厳しい口調で話し出した。


「わかってますよね? あそこは札幌からハイパーメトロで三時間はかかります。長距離移動は交通費もバカにならないし、何よりダヤルのイメージダウンにつながります……アレックスから聞かされてるでしょうが」


 でもアレックスは、月食やら日食やらで外国どころか月に行ってるんだけど……ひみこは納得できないが、引き下がる。彼は特別な人だ。ラニカ・ダヤルという、すごい人の息子だ。


「では、バーチャルツアーで構いません。方法を教えてください」


「それなら現地のセンターに担当がいるので、彼女に繋ぎます」


 一時間後、ひみこは、邪馬台国女王が眠る墓について、モニター越しに学んだ。


 王墓の奥に石室があり、七十代女性の全身骨格が見つかったこと。中国の皇帝から授けられた「親魏倭王(しんぎわおう)」の金印が見つかったこと。その皇帝が()の実質的建国者、曹操(そうそう)の孫、魏の二代皇帝曹叡(そうえい)だったことから、彼女が邪馬台国女王であると決定づけられた。


「中国では有名な三国志の時代なんですよ。卑弥呼の使いが渡った魏の国はその一つで、一番力があった国よ」


 担当者は自慢げに話す。が、ひみこは三国志、と言われてもよくわからない。


「三国志知らない? 三人の皇帝が同時に現れた時代はそれまでになかったの。日本でもよく知られていて……関帝廟(かんていびょう)には、三国志の英雄、関羽(かんう)が祀られているけど、日本中にあるんです」


 担当者の母は、日本ではさほど珍しくない中国出身だ。


 対話が終わり、ひみこはフィッシャー先生に、日本に伝わる三国志のドラマがないか調べてもらった。

 江戸時代には三国志の小説がよく読まれ、庶民の誰もが英雄たちの活躍に胸を躍らせていた。

 二十世紀になると、三国志を元にしたゲームがヒットし、中国では今も映画が作られている。


「インタラクティブムービーもたくさんあります」


 フィッシャー先生に言われたが、ウシャスのチップを装着できないひみこは楽しめない

 映画はともかく、ひみこは思わぬ勉強成果に満足した。自分と同じ名前の女王による絆が、今も残っていることを知ったから。


 ひみこの興味は、自分の名前から始まり、今は同時代の日本の歴史だけではなく、隣の大国、中国の古代まで広がった。

 バーチャルツアー、といってもウシャスが使えないひみこは、モニター越しに動画を眺めるぐらいだが、横浜や神戸をはじめとした関帝廟を見学する。古い物は三百年前に建立されたが、今世紀に入りさらに増え、現在、各都道府県の主要都市で英雄関羽は祀られている。


 世界は広がる。過去にも未来にも。小さなホテルの一室に閉じ込められた自分だけど。

 AIの「鈴木ひみこ」ではない、本物の鈴木ひみことして、プレゼンテーション・コンテストで成果を出すのだ。


『スズキサンハツヨイ。ヨワクナイ』


 コンテストで助けてくれた彼を思い出す。中国地方の高校生と言っていたから、そう簡単には会えない。でも……次のプレゼンテーション・コンテストで会えるのでは?

 ひみこにとって、いつしかそれも一つの目標となっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ