1.異能とダンジョンが当たり前の世界。
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結局、一週間の入院を経てもボクの記憶は戻らなかった。
いま自分の中にある知識は、一般的な生活に必要なものだけ。この国の名前が日本だとか、そういった内容については自然と話すことができた。忘れているのは自分の素性と過去に何をしていたか。
そして――。
「……異能力、ってなんですか?」
「異能力というのは、世界にダンジョンが出現して以降に生まれた人々に備わっていた超能力のようなもの、だよ。キミも例に漏れずその一人だったんだが、ね」
この世界に当たり前に存在し、誰もが普通に行使している力について。
担当医――長峰先生曰く現在から約百年前、世界中にダンジョンという謎の空間が発生したらしい。それに伴って、先ほどの話にも出てきた異能力者が誕生した。
それらはすでに常識となり、使いこなすことを目的とした教育や環境も整っている。それどころか、いまの社会は能力ありきで回っている、とのことだった。
「……ということは、長峰先生も異能力者なんですか?」
「あぁ、そうだね。私の異能は『構造把握』――触れた物の状態について、おおよそ判別することができる。もっとも、精密さは機械に負けるがね」
「へぇ……」
ボクの質問に、先生は丁寧に答えてくれる。
色々と便利に使えそうな能力だが、彼は謙遜するように笑っていた。
「とにかく、そんな感じに現代の人々は生活している。大和くんはこれから、その中で生きていかなければならないんだよ」
「………………」
先生の言葉に、ボクは思わず黙り込む。
そんな不思議な空間で、自分は果たして真っ当に生きていけるのだろうか。いいや、そもそも生きていたのだから、これといって問題はないのだろう。
少し悩んでボクは、今後については追々決めていこうと考えることにした。
記憶についてだって、ないものねだりは意味がない。問題は自分の立ち位置を見定めて、しっかりと生きていくことだった。
「そういえば、ボクの異能は何だったんですか……?」
「……あぁ、キミのかい?」
そのためにも、いまの自分のことは知っておこう。
そう思って訊ねると、長峰先生は少し間を置いてからこう言った。
「キミのは……そう、たしか『発火』だったかな」――と。
◆
どうやら、記憶を失う前のボクはマンションで一人暮らしをしていたらしい。両親は他界しており、引き取り手がなかったところを神谷さんに助けられたとか。そんな相手のことを忘れてしまうなんて、自分の薄情さに嫌気がさしてしまった。
「えっと、この部屋だな」
だが、いまは考えていても仕方ない。
とりあえず退院となったので、神谷さんの保護観察下での生活が許可された。これからは定期的に彼とやり取りしつつ、学校へも通えるようになるらしい。
ちなみに、現在は五月の半ば。
ボクは入学直前に入院したそうなので、出席日数諸々が大変そうだった。
「ふー……とりあえず、明日からは一般学生として生活、か」
だけど、なんとかなるだろう。
そんな考えが浮かぶのは、ボクの本来あった記憶によるものなのだろうか。そうだとしたら、元の自分はずいぶんと能天気な性格をしていたらしい。
もっとも、その精神のお陰でいまが助かるので感謝するべきか。
そう考えることにして、ボクは見慣れない部屋の中にあるベッドに身を横たえた。すると何だかんだ疲労はあったらしく、自然と目蓋が閉じていく。
「とりあえず、寝よう……」
そう最後に口にして、ボクの最初の一日は終わった。
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