第98話 弱き種族
人間と言う種族は弱い。
獣人よりも力は弱く、エルフよりも知能は低い……ただ群れで固まり、数が多いと言うだけ。
エルフより知能が低いと言ったが、基本的に人間は賢い、エルフが賢すぎるだけで……だが理解出来ない行動も度々とる。
なぜ勝てないと分かっていながら一人で挑むのか、理解出来ない。
「比喩とかじゃ無くて……まじで災厄かよ」
男はアンが振り下ろした斧を受け止め切れずに砕け散る剣を眺め、そう告げた。
斧は肩から深く彼の身体に入り込む、即死はしなかったが、時間の問題だ。
彼は強さ的には隊長格と言った所か……年齢は30〜40の間、かなり訓練を積んだのだろう。
彼の体格は人間にしてはでかい、そして大剣を振り回す腕力……それを獣人族は何の努力もせず手に入れられる。
哀れな生き物だった。
「一つ聞きたいんだが、何がお前達を動かしているんだ?」
その言葉に男は何も答えず、ただ不敵な笑みだけを浮かべた。
そして絶命する、死を間際にして笑みを浮かべる……そう言う奴らは少なくは無い。
最後くらいは見栄を張ろうと虚勢で笑う者や死への恐怖から笑みが溢れる者……その理由は様々。
だが彼は問いに笑みで答えを返した……この上なく不気味だった。
「アン、これからどうする?」
「これからか……」
正直言って状況はかなり良く無いだろう。
奇襲だからという事もあるが、ビルストの大部分を担う若い兵士達は戦争と言う物を経験して居ない。
実力はある、だが人を殺した経験がない者が多い……躊躇する者も少なくは無いだろう。
「一先ず、声がする方へ行こう」
アンは先頭を走る。
剣が鞘に収まったまま死んでいる兵士が居る、逃亡を試みて背中に多数の傷を受けた者も……いくら強い種族とは言え、その精神まで強い者は少ない。
ビルストはとうの昔に弱くなって居たのかも知れない。
「ん……なんだ?」
前方から人間の兵士が走って来る。
だが戦意がある様には見えなかった。
「こ、殺さないでくれ!」
兵士は武器を分かりやすく手放すと命乞いする、戦場で命乞いを見るのは珍しくは無いが……少し妙だった。
「何故逃げてる?」
そう言いアンは兵士に脅しを掛ける、今から急いで国を駆け巡っても助けられる人数に限りがある……それからば彼らの目的を、情報を得る方が優先だった。
「こ、殺さないでくれ」
彼は怯えて説明どころでは無いらしい。
「説明次第では見逃す、だから状況を話せ」
アンは呆れながら武器を下ろす、だが兵士の様子は依然としておかしかった。
「嫌だ、死にたく無い……お願いだ……」
よく聞くと、アンに命乞いをして居るのでは無かった。
「助けて……助けて……」
兵士はゆっくりとアンに近づこうとする、本能が危険だと伝えて居た。
「ドカーーーーン!!!!!!」
人の声が響き渡る、そしてその直後、兵士を中心とした爆発が起こった。
「さてさて、威力は中って感じかー、人を媒体にしてもこんなものか……いや、あいつがショボかっただけとか?」
モジャモジャとした黒髪の男は爆煙が晴れるのを待って死体を確認する、だがそこに死体は一つしかなかった。
「ん?獣人族とエルフの死体がねーな?」
思ったよりも高威力で木っ端微塵……なんて事は無かった。
「人間爆弾……人間のやる事は相変わらずえげつない」
「おお、あいつも意外と良い爆弾だったみたいだ」
姿を現したアンの身体は爆発の衝撃で傷だらけになって居た。
咄嗟にエラーリアを連れて距離を取ったが、ダメージは避けられなかった。
一人なら逃げれたのだろうが……そんな事は考えても意味はない。
「そのエルフは知らんけど、あんたはえーっと……要警戒リストのアンだな」
「要警戒リスト……ね」
「まあ気にしなくて良いさ、要するにこの国を潰すのに必ず殺さないと行けない奴らって事だからさ」
そう言い男は小石を拾い上げる、そしてアンに目掛けて親指で弾いた。
無意味に小石を投げるとは思えない、斧で弾こうとも考えたが何かおかしかった。
アンは小石に触れず、半身になって交わす、するとアンを通過した小石は地面に落ちるとポンっという音を立てて爆発した。
「察しが良いね、獣の本能ってやつ?」
魔法なのか、彼は物体に爆発する作用を付与できるらしい。
その規模は質量に左右されるのか、さっきの小石では小規模な爆発しかしなかった。
逆に人間が爆弾の時は直撃すれば死ぬ可能性もある程の爆発だった……やり難い相手だ。
「エラーリア、私が戦う、状況に応じて攻撃の支援も頼む」
「了解」
彼が何者かは分からないが、侮れない。
「2対1か、良いね……それっぽい状況だ」
男は笑みを浮かべる、何を思っての笑みなのか……人間は不気味な奴らばかりだ。
だがどう戦ったものか、爆弾にする能力の詳細も分からない、触れれば爆弾になるのか……そうだとすれば迂闊に近づけない。
恐らく爆発するのは衝撃が加わった瞬間、近接は正直……びっくりするほど不利だろう。
アンは思考し、結局考えるのをやめた。
どれだけ思考しようと遠距離で戦う術は持っていない、近接で片を付ける。
彼の能力は強い、だが戦闘に慣れて居ない。
度々視線が私から外れる、距離があるからと警戒も薄い……もしくは舐められて居るのか。
彼との距離は10m程、だが彼は分かっていない……獣人族の身体能力を。
視線が逸れる、完全には逸れて居ないが俯瞰で私を見て居る……それでは対応できない。
地を蹴り、一気に距離を詰める、獣人族の本気なら10m程度、1秒も掛からない。
「よそ見か」
彼が視線を戻した時にはアンは懐に飛び込んでいた。
「予想以上に早いな」
焦る様子はない、まだ舐められて居る様だ。
「私の呼び名……何か知ってるか?」
「ゴリラとか?」
「災厄だ」
チャンスは二度とは無い、この一撃で決める。
だが、彼を攻撃する寸前……妙な違和感が脳裏を過った。
何故彼は私を警戒すべき人物の一人として置きながら、ここまで油断出来るのか。
そして視線を彼方此方へ向ける軽率な行動……まるで誘って居るかの様だった。
そして男はアンの拳が到達する直前に笑みを浮かべた。
またもや笑みを……拭いきれない違和感と、獣の本能がアンの殴る威力を弱めた。
そして、それが彼女の命を救う事になる。
拳が男の顔面を捉える、鈍い音を立てながら彼は吹っ飛び、地面に転がる……だがその直後、彼女の拳が爆発を起こした。
「ドカン……爆発した気分はどうだ?」
体を仰向けにし、頭だけを起こしアンの様子を見る。
「ちっ……生きてるか」
人の形を保って居る事に舌打ちをする、だがアンの右手は爆発により吹き飛んでいた。
初見殺しにも程がある。
彼には触れてはならない、殴った瞬間に私の拳は爆弾となった。
こうして生きて居るのは恐らく直前に迷いが生じて腕を振り抜け無かったから……フルパワーで殴っていれば原型すらない筈だ。
「アン、あいつはマズイ」
「見りゃ分かるさ」
エラーリアは隣に来ると魔法で止血する、いくらエルフとは言え、木っ端微塵になった腕を再生させるのは無理らしい。
「意外と痛いな……流石獣人族と行った所か」
男は勢い良く立ち上がろうとして失敗すると手をついてゆっくり立ち上がる、そして口の中に溜まった血を吐き出した。
彼は強い。
今まで戦って来た者達の中で、種族を問わず恐らく一番強い。
アンは残った左手を開閉させて確認する、アドレナリンの所為か、エラーリアのお陰か……痛みはそれ程感じない。
「逃げるって選択肢は?」
「勿論……ないな」
エラーリアの問い掛けに斧を拾い上げながら答える、片手だとやはり若干重いが……仕方ない。
名も知らぬ人間の強敵相手にアンは覚悟を決める、その一方で、相対する男はぼんやりと夕食の事を考えていた。
今日の夜は何を食べるか……肉も良いが流石に人を殺した後に食べるのは気分が乗らない。
そんな事を考える。
モジャモジャとした癖の強そうな黒髪に無精髭、髪型以外はごまんといそうな見た目の彼の名は朝森忠太、転生者の一人だった。
能力は『爆発』
能力名がシンプルなのは単に彼が名付けるのをサボっただけである。
「さてと……どうするか」
やる気を出したアンに忠太は頭を掻きながら策を考える、爆発の能力は触れて初めて作用する。
先程の爆発はカウンター、二つある能力のうちの一つだった。
爆発の能力は自身が触れるか、自身に触れた時に発動する。
そして後者の場合、触れた時の威力が強ければ強いほど上がる……アンの一撃は中々聞いた、歯も折れて居る……だから腕を吹き飛ばした。
強力な能力だが、防御能力はそれほど無い。
相手の威力に応じて爆発と言うだけで、本人の俺はしっかりダメージを喰らう……どうせなら無効にして欲しかったが、それじゃチート過ぎるのだろう。
まぁ、今でも十分にチートだが。
「懲りないね、また爆発されるかい……ドカンと」
「今度はこっちがドカンとする番さ」




