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第四十一話 ルデールを目指して

馬車にゆらゆらと揺られながら代わり映えのしない外の草原を眺める、コロサスの街に転移して馬車を拾ったのが3日前、何度か野営を繰り返してようやく今日到着予定だった。


あまりにも長い……こうして馬車に揺られて居ると飛行機や車の便利さが恋しい。



「そう言えば、誰に会いに行くの?」



「言って無かったか、会いに行くのは俺の母の師匠でもあったメイガスタって大魔道士だ、少し性格が気難しい所もあるが……まぁ、良い人だよ」



「大魔道士……」



その言葉に少しときめいて居る様子だった。


母の両親は既に他界、父も親は戦死済み、そんな中で彼は正直おじいちゃん的存在だった。


正直、会うのが少し楽しみだった。



「お客さん、見えてきましたよ」



「ようやくか」



運転手の言葉にメリナーデを踏みながらカーニャは窓を開けて身を乗り出す、長時間酒を入れてない所為でメリナーデは使い物にならなくなって居た。



「本格的なアル中だな……」



メリナーデの情け無さに頭を抱えながらも外に視線を向ける、ルデールの街と言っても正直この世界の王都は大体同じ様な構造になって居る。


街の中心には国の規模を表せるとも言える大きく立派な城が建ち、その周りを囲む様に住宅や店の建物が並ぶ、そしてその全てを囲む城壁、大体どこの国も王都はこんな感じだった。


ただルデールは他と違う点が一つある、それは街全体に張り巡らされて居る強力な防御結界、出るのは容易いが、入るのがかなり難しい物だった。


この国はとても軍事力があるとは言い難い、だがその分魔法の技術が他国よりずば抜けて居る、それも全てメイガスタあっての物だった。



「そう考えると凄いな」



一人ボソッと呟く、やがて馬車は街に近づくとゆっくり停車した。



「すみません、馬車はここまでらしいので此処からは徒歩で城門へ向かって下さい」



「ご苦労様でした」



そう言いかなり高額な代金を運転手に渡すと馬車を降りる、城門までは50m程度なのだが、何故ここまでなのだろうか。



「やっと……着きましたか、ようやくお酒が飲める」



そうメリナーデがふらふらと降りてくる、光の無かった目にようやく光が戻った様だった。


彼女の酒への依存もそろそろ治療しといた方が良さそうだった。



「止まれ、そこの三人」



城門へ近づいて行くと門兵の一人に止められる、形だけなのだろうが、門の大きさは10m以上あった。


それに対して門兵は三人、少し少ない気もするが……かなりの手練れの様だった。



「うおっ……胸でか……じゃなくて何の目的で訪れた」



ちゃっかり心の声が漏れて居たが、まぁ分からなくも無い。



「メイガスタさんに会いに来ました」



「大魔道士様に?紹介状か何かあるか?」



「いや、ただ会わせてくれれば分かると思いますよ」



その言葉に門兵はあからさまに怪訝な表情をした。


確かにいきなり来た奴が国を象徴する大魔道士と知り合いと言えば怪しまれて当然……だがかなり警備は厳重の様だった。


まぁ色んな魔法技術が詰まって居る故に妥当の警備とも言えるが……少しめんどくさかった。



「どうすれば入国が許可されるのでしょうか?」



「まずは三人の身分証、最低でも出身国のわかる物を見せて貰いたい」



その言葉に顔を顰める、身分を証明する物など俺はとにかく、メリナーデとカーニャはある筈も無かった。


大抵の事は出来るが、それだけは無理だ。



「それがなければ入国は許可出来ない」



そう言い門兵の一人が威圧感を出す、出来れば正面から入りたかったのだが……まぁ仕方無いだろう。



「行こう、二人とも」



「は、はい」



あっさりと下がるカナデに少し驚くカーニャと酒にあり付けないと絶望するメリナーデ、門兵には怪しまれない様に姿が見えなくなる距離まで離れた。



「どうするんですかカナデさん!私そろそろ暴れ出しそうですよ!?」



「どうどう、心配せずとも大丈夫ですよ」



女神の威厳もクソも無いメリナーデを落ち着かせながら情報を整理する、門兵と会話して居る間に軽く索敵魔法で周囲を確認したが、国へ入る正規のルートは先程の正門と反対側の裏門の二つ、勿論門兵を倒すなんて事は出来ない。


城門を登って侵入しても恐らく何かしらの魔法が仕掛けられて居る筈、だが空なら何も仕掛けられて居ない筈だった。


とにかく一度中に足を踏み入れれば転移で二人も連れて行ける、とは言え日があるうちは目立ってしまう。



「取り敢えず……夜まで待ちましょう」



「うぅ……お酒……」



しょんぼりするメリナーデを他所に、三人は夜まで時間を潰す事になった。


視界の端では魔法の本を読むカーニャが映る、俺が教えられるのならそれで良いのだが……俺は魔法よりも体術や剣術の方が得意、魔法の才能はそれほど無かった。


最初は母に教わって居たが、魔法は死ぬ前に勉強して居たどの科目よりも難しかった。


魔道士の最高峰が賢者と呼ばれるのも頷ける、魔法自体使うのはそれ程苦労しないが魔道士と呼ばれるにはとんでもない努力が必要だった。


異世界に来たなら派手な魔法と思っていた当初の俺は魔導書入門編で挫折した……カーニャの読んでいる本がどの程度かは分からないが、俺よりも遥かに頭が良いのは確かだった。



「カーニャは拾って貰ったおじさんに字とか習ったのか?」



「うん、でも魔法とか、この世界の事はあんまり教えてくれなかった」



「そうなのか」



危険な目に遭って欲しくないと言う意図なのか……分からなくも無いが、せめて世界の状況くらいは教えても良い気はする。



「どれ、少し威力を確かめてみるか」



「確かめる?」



カナデの言葉にカーニャは不思議そうに首を傾げる、いきなり詠唱を破棄出来る位なのだから、威力もそれなりに楽しみだった。



「安心して打って来ていいぞ、俺は頑丈だからな」



そう言いカナデは両手を広げる、転生者の攻撃も通らないカナデの体、カーニャの魔法がどれだけ破壊力があっても程度は知れて居る筈だった。



「わ、分かった……」



少し不安そうな表情を見せながらもカナデに向かって手のひらを向ける、そして中規模の火球をそこそこのスピードでカナデに放った。


スピードはそれ程だが、大きさは中々、魔導書を読み込んでいたとは言え、凄い成長スピードだった。



「さて、威力はどんなものか」



火球はカナデの胸に着弾すると軽い爆発を起こす、煙は彼を包むとカーニャの視線を遮った。



「だ、大丈夫?」



心配そうにカーニャは問い掛ける、煙が晴れるとカナデは胸に手を当てながら笑っていた。



「凄いな、中級程度の威力はあったんじゃ無いか?」



そう言いながらカーニャに近づいて行く、そして胸から手を退けるが、服が焼けて居るだけで怪我は無さそうだった。



「本当に?」



「あぁ、天才と言わざる終えないかもな」



その言葉に珍しくニンマリする、褒められるのがこんなにも嬉しいとは思って居なかった。


表情豊かになって来たカーニャを眺めながらカナデは自身の胸をそっと撫でる、正直言って驚いて居た。


服が焼けた事でも、威力でも無い……俺が火傷を負った事にだった。


赤井渾身の一撃でもそれ程ダメージを負わなかった、炎を使う転生者の攻撃も意に介さなかった……なのに異世界人であるカーニャの一撃で傷を負った……心配させまいと爆煙の中で治療を施したが、何が起こったのか正直理解出来て居なかった。



「たまたま……な訳ないしな、弱体化してる訳でも無い、分からないな」



女神の力を過信し過ぎたのか……何か条件次第ではダメージが通るのかも知れなかった。


どちらにせよ……調べる必要はある様だった。



「さてと、そろそろ日も暮れるし、動き出すか」



「お酒……待ってます」



寝転がりながら手だけを振りカナデを見送るメリナーデ、もう呆れて言葉が無かった。



「数秒で戻って来ますよ」



そう二人に告げるとカナデは薄暗い草原の闇に溶け込んで行った。

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