第三十六話 戦闘開始
「何があったんですか?」
一先ず本部の庭にプルドフを下ろすと水を渡す、彼には聞きたい事が山ほどあった。
「何があった……か、色々とありすぎて何から説明すれば良いのか」
「そうですね、いつからあの地下に?」
「地下に入れられたのは……多分2、3週間前からだと思う、体感では一年くらい居たと思うけどな」
「プルドフさんの後に入った人は居ませんよね?」
カナデの言葉に頷く、一番古い人でいつから入っていたのか……彼らは会話なんてとても出来る状態では無い、そもそも生きてるかどうかすら怪しかったのだから。
「あの液体、どれ程の期間飲んでたんですか?」
「思い出したくも無いな……確か、一ヶ月……二ヶ月程度だったと思う」
最長で二ヶ月、モナの花だけではあの状態にならない事を考えると……何かしらの改良をしている様だった。
「いつも何処からあの液体を入手してたんですか?」
「それは……教祖から一気に20本位まとめて買ってましたね、向こうから出向いてくれるので連絡さえすれば気軽に買える、貴族の方限定とか言ってた様な」
宅配サービスまでやってるとは、だがこれ以上液体の事を聞いてもあまり意味は無さそうだった。
あの飲み物が危険な物という事はプルドフの状態でよく分かる、アルスフィアがアジトで何か作戦を練っている様だが……もう待つ必要も無いだろう。
「プルドフさん、一人で実家まで帰れますか?お金は渡します」
「だ、大丈夫ですが……貴方はどうするんですか?」
「少し用事があるんで」
そう言いプルドフに家まで帰るには十分すぎるお金を渡すと背を向けた。
「あ、あの……お名前は?」
「カナデです」
それだけを告げ、メリナーデを連れて教会本部へと戻る、まずはカーニャの回収が最優先だった。
まだあの部屋から動いている様子は無い、いちいち階段で向かうより転移した方が早かった。
「メリナーデ様、何処か掴んでて下さいね」
「は、はい!」
メリナーデが服を掴んだのを確認すると転移魔法を使おうとする、だが発動しようと光が集まるが、中途半端な所で消滅した。
「魔法が使えない……か」
どうやら何かしらの無効系能力者が居る、そして能力を発動している辺り、此方を敵と見做している様だった。
「探知魔法も……当てにはならないか」
モヤが掛かったように探知魔法も使えない、カーニャを傷つけられる心配は今の所無いが……早く向かうに越した事は無かった。
「走れますか?」
「任せて下さい」
少し張り切った表情でメリナーデが頷く、魔法が使えないのは少し面倒くさいが……まぁそれほど問題では無いだろう。
カーニャが居るわたあめの部屋へ向かうべく廊下を走る、そして日中は信者が溜まっている体育館ほどの面積がある広間に入ると人影が見えた。
「お姉さん悲しいよ、君が裏切り者だなんて」
「元々仲間になったつもりはねーよ」
悲しそうに頭を抱えて告げる茶神に言い返す、彼女がここで待っていたと言う事はもう既に色々とバレているらしい。
「桜庭から君の魔力残滓を確認してね、やっぱり木中の言う通り素性調査は必要だったみたいだね」
「逆に何でしてなかったんだ」
「しなくても、問題ない理由があるからだよ」
そう言い剣を構える、その様子にカナデはため息を吐いた。
面倒が臭い、魔法が使えないと少し厄介だった。
「そう余裕なのも今のうちだよ!!」
そう言い茶神が距離を詰めて来る、一先ず剣に光を纏わせると何か違和感を覚えたのか、茶神は急ブレーキをかけた。
「突っ込んで来ないのか?」
不思議そうにカナデが尋ねる、茶神の額には冷や汗が流れていた。
「その力……魔法じゃ無いとなると、イケメン君は光系の能力者かな?」
「やっぱ魔法封じられてたんだな、あんたの能力か?」
「いいや、隠しても意味ないし、私の能力はコピー、凄く単純で当たり障りの無い能力だよ」
そう言い右手で握っていた剣を左手に出現させる、効率の悪いモナの花を液体化させて売れていたのは恐らく彼女の能力があってなのだろう。
戦闘には向かないが、かなり優秀な能力だった。
だが解せない、これ程有能な力を持っている茶神を俺に当てる必要があるのだろうか。
彼女は言わばこの教団の財源を担っている、それに戦闘向きではない能力故に負ける可能性は高い、何故一人でここに来たのか……少し気味が悪かった。
「戦う前に一つ、他の奴らは来ないのか?」
「心配しなくても来ないよ、赤井は家族なんて言ってたけど、私達に仲間意識もクソも無いからね」
そう言い茶神は笑う。
「ふぅ……仲間意識は無い、けど教団を解体される訳には行かなくてね、悪いけど死んでもらうよ」
「そうか」
突っ込んでくる茶神を横目に、剣へと視線を落とす、相変わらず女性を手に掛けるのは慣れない。
別に慣れる必要も無いのだが、彼女の場合は殺されて当然のクソ野郎と言うわけでも無い、ただ目的の為に障害となっているだけ。
「悪いけど手加減無しだから!」
茶神の攻撃を否しながら思考する。
人を殺す理由が目的の障害……我ながらイカれてる。
だが全てが終われば地獄へ行こうと何されようと別に良い……だからそれまでは、目的の為なら何だってする。
「恨むなら命を賭けた自分を恨んでくれ」
振り下ろされた茶神の剣をかえす刀でへし折ると、喉元に剣を突き付ける、その瞬間彼女は潔く諦めた様な表情を見せた。
「とてもじゃ無いけど勝てるビジョンが見えないね、能力が戦闘向きじゃ無い云々のレベルじゃ無いね」
そう言い笑う。
殺す前に少し気になることがあったら。
「何故教団の為に命を賭けるんだ?」
「この教団に居れば女の子がいっぱい抱けるからね」
彼女は嘘をついていた。
「悪いが、嘘は分かる、真実を言ってもらえるか?」
彼女からは恐怖の感情が感じられない、ずっとふざけた態度で紛らわしているのか……大した物だった。
「嘘じゃ無いさ、私は教団にいれば女の子に困らない……私の理想郷、だから命を賭ける価値があるんだよ」
その言葉にカナデは呆れた。
嘘は変わらずついている、本音を話させるのは無理だろう。
「俺に出会った運の無い自分を恨むんだな」
「どうせなら可愛い子に殺されたかったよ」
そう言い笑う茶神にカナデは剣を振り下ろす、そして返り血を拭くと剣を収めた。
「早く行きましょう、先は長そうです」
「……はい」
茶神に手を合わせ祈りを捧げるとメリナーデはゆっくり立ち上がり、少し駆け足でカナデを追いかけた。
「残すは木中、赤井、教祖……そしてわたあめか」
依然として疑問は残る、なぜ一人ずつ来るのか……だがそんな疑問も殺してしまえば何の意味もない。
酷く静かな教団をわたあめの部屋目指して走る、魔法が使えない今……カーニャが絶対に無事とは言い切れなかった。
だがそれ程焦りも無い、彼女には魔法では無く加護を施している、言わば女神の力……絶対的な防御力を誇る。
とは言え欠点もある、精神的な攻撃にはめっぽう弱い……急ぐに越した事は無かった。
「大丈夫ですか?」
「はぁ……まだ、走れますよ」
かなり息を切らしながらも必死にメリナーデはカナデに着いて行く、流石に女神が運動しているとは思えない、かなりキツそうだった。
「少し失礼しますよ」
「あ、え?」
メリナーデを抱き抱えると走るスピードを上げる。
突然抱えられたメリナーデは恥ずかしそうに戸惑っていた。
「あ、あの、重く無いですか?」
「何言ってるんですか、俺には重さなんてあってない様な物ですよ」
人……いや、女神を一人持ち上げるくらい造作もない、なんなら小指で持ち上げても重量なんて感じない。
先程とは比にならない程のスピードで一瞬の内にわたあめの部屋へと辿り着く、中から気配を三つ感じる……そのうち二つはカーニャとわたあめだが……もう一つは知らない気配だった。
恐らく木中だろう。
相変わらず赤井と教祖の気配が感じられないのが不気味だが……まずは目の前の事を片付けてから考えるとしよう。
「第二戦ですよ、メリナーデ様」
そう彼女に告げると、カナデは扉に手を掛けた。




