第三十四話 液体の謎
「きな臭い奴とは思ってたが、どこの差金だ?」
「どこの?俺は1人だよ」
剣を両者構えながら会話を交わす、何処で誰が聞いているかも分からない、英雄組合の差し金という事は伏せておいた方が良さそうだった。
「まぁ何処でも良いさ、それよりも何が目的なんだ?」
喋るばかりで仕掛けて来る様子はない、何かを準備しているのか……単純に彼が弱いのか、それ程警戒する必要も無さそうだった。
「目的は単純だよ、リリアーナ教の解体」
「リリアーナ教の解体?」
明らかに表情が変わった。
「モナの花、聞き覚えないか?」
「結構気付いてる感じか……やっぱ仲間にする前にある程度調べる必要があるかぁ」
カナデの言葉にまた頭を掻きむしる、そしてため息を吐いた。
「別にさぁ、異世界人の奴らがどうなろうが俺らには関係無くないか?」
「何でそう思うんだ?」
「だってこの世界、別に俺たちが生きてきた世界じゃないだろ?それにこの世界は力があれば何しても許される、要は弱い奴が悪いんだよ」
「まぁ……その言葉、一理あるな」
「だろ?」
カナデの同調に少し笑みを浮かべる、たが次の瞬間、桜庭の右腕が宙に舞っていた。
「痛っつっっ!!!?」
突然の事に痛み、驚きで桜庭は混乱していた。
「お前の言う通りだよ、弱い奴が悪い……だろ?」
そう言いながら剣に付いた血を拭く、彼は殺すのに罪悪感を抱かなくて済む、クズで助かった。
だが直ぐに殺すのは勿体ない、彼からは存分に情報を引き出させて貰う。
「ま、待て!!」
まるで何が起きたのか分からない表情、彼の能力は分からないが、恐らくそこまで強くない。
「なんだ?お前の言う通り弱い奴が悪いんだろ?」
「違っ……くっそ!」
「どうした?」
諦めたのか、桜庭は剣を離した。
だが油断は出来ない、腐っても転生者、能力も判明してないうちは何をして来るか分からない。
「タバコを吸わして貰っても良いか?」
「……まぁ良いだろ」
カナデがそう言うと懐から自分で作ったのか、下手くそな葉巻を取り出して火をつける、そして深く吸い込むと彼は咽せた。
「ごほっ……慣れない事はするもんじゃないな」
煙を手で払いながらもう一度ゆっくりと吸い込む、やけに諦めが良い……少し不気味だった。
「俺を殺すのか?」
「このままならな、リリアーナ教の情報を話すなら考えない事もないが」
「何でも話すぜ、別に忠誠心なんて無いからな」
そう言い壁にもたれながらゆっくりと座り込んだ。
「リリアーナ教が配っているあのペットボトル、モナの花を使ってるな」
「あぁ、お察しの通り、あのペットボトルには微弱な中毒性を含む液体が入っている、信者に配っているやつは大体一年弱で廃人になる……」
「他にももっと良い金策があったんじゃ無いのか?」
「まぁ、確かに効率が良いとは言えないな、今回みたいに金のある貴族を廃人にしてしまったら足が付く、とは言え量を少なくすればそれ程中毒性は生まれない、そうなればリピートもされないからな」
「なら何故こんな事を?」
「金策が理由じゃ無いからだよ」
「金策が理由じゃ無い?」
「詳しい理由は知らない、他の連中は知らないが、俺と茶神は少なくとも金を貰えればそれで良いからな、深い詮索はしてないんだ」
側近的立ち位置と思っていたのだが……彼の言葉に嘘は無かった。
肝心な所が分からないまま、金策で無いのなら、あの液体は何の為にあるのか……調べれば調べるほど不気味だった。
だがリリアーナ教はいつでも潰せる事は分かった、最後に一つ聞いておきたい事があった。
「クリミナティと繋がってる噂を聞いたが、本当か?」
「あぁ、詳しい事は知らないが、偶に宗形と言う眼鏡の男が赤井と話しているのを見たぜ」
「クリミナティで知っているのはその男だけか?」
その言葉に頷く、まぁ聞き出せるだけ……情報は聞き出した。
「プルラルフさん、話しは聞いていましたか?」
カナデの言葉にゆっくりとプルラルフが姿を表す、その表情は怒りに染まっていた。
「彼をどうするかは、貴方に任せますよ」
そう言い懐からナイフを手渡すとカナデは背を向ける、するとプルラルフは強くナイフを握りしめ、ゆっくりと桜庭へと近づいて行った。
「なんだ?そんな物で俺を殺すのか?」
凶器を持って近づく男を前に桜庭は余裕の表情だった。
理由は単純、プルラルフは異世界人で、桜庭は転生者だから……カナデには勝てなくても、彼くらいなら余裕だと。
痛む右腕を我慢しながら左手で剣を拾おうとする、だが体が金縛りにあったかの様に動かなかった。
「な、なんだ!?」
ふと地面を見ると鎖の様な物が地面から伸び、桜庭の身体を縛っていた。
「ちょ、ちょっと待て!別に息子が死んだ訳じゃ……」
ここに来て漸く危機感を持ったのか、桜庭はプルラルフに呼び掛ける、だが彼の耳にはもう何も届かなかった。
「おい!ふざけんな!!こんな奴に、こんな雑魚に俺を殺させるな!!」
扉を後にするカナデに何度も叫び続ける、だがその叫びも虚しく、プルラルフのナイフがゆっくりと腹部に突き刺さった。
「いぃっっ!!?」
桜庭の断末魔が響き渡る、カナデはアルスフィアと合流すると屋敷を出た。
プルラルフに多少の非があるとは言え、元々は転生者達が来なければ息子も廃人にはならなかった。
転生者が居るせいで、この世界の人々は不幸になる。
「せめて安らかに……」
門の前で剣を握りしめ、生き絶えるギルスに祈りを捧げる、転生者なんて居ない方が良い。
「これからどうする?」
『一旦報告がてら戻って、リリアーナ教をどう潰すか話し合って来る、そっちは?』
「俺は2人のことが心配だ、それにもう少しだけ本部を調べる」
『そう』
アルスフィアはノートを広げる、カナデは横目にそれを確認すると転移魔法で教会本部へと転移した。
メリナーデ達に今の所異変は無い、だがこれだけの時間を2人だけにするとやはり不安が残る。
自分をもう1人増やせれば良いのだが……そんな贅沢は言ってられない。
2人には言って居ないが、彼女達の位置がわかる様にGPS的な魔法を施してある、プライバシーの面で色々と言われそうだが、位置がわかるだけ故に邪な事は無い。
「メリナーデは……街の酒場、カーニャは……何処だ?」
メリナーデは街の酒場に位置がある、だがカーニャは教会本部の3階にある部屋に居た。
何故そこに居るのか……攻撃されれば直ぐにわかる、危険な状況では無いが……心配だった。
元々城があった場所を改装して教会本部にしてるだけあって大きいが、基本的に信者は一階にある公共の場しか使えない。
本部は合計で4階あり、最上階は赤井しか入れない。
そして2階と3階は幹部が使用する部屋が殆ど、つまりカーニャは幹部の部屋にいる事になる。
大凡誰と居るかは予想が付く。
人が行き来する1階を抜けて2階へと上がる、2階は驚く程に静かだった。
そして3階に上がると笑い声が聞こえた。
声がする方へ行き、扉をノックする、そしてゆっくりと開けた。
「あ、お兄ちゃん!!」
可愛らしい声と共にわたあめが突進して来る、部屋の奥にはカーニャがぐったりと寝転んでいた。
「カーニャと遊んでいたのか?」
「うん!お姉ちゃんと鬼ごっことか色々遊んで貰ってたんだ!」
そうわたあめは元気に告げる、カーニャがぐったりしている理由がなんとなく想像ついた。
「大丈夫か?」
「うん、少し疲れただけ」
そう言いカーニャはゆっくりと起き上がる、それにしても少女の部屋にしてはやけに殺風景だった。
あるのはベットと衣装タンスのみ、年頃の少女の部屋とは思えない程物が無かった。
「わたあめはいつも何をしてるんだ?」
「えーと……お仕事がない時は街をお散歩したりしてるよ」
「散歩か」
この年齢から散歩が趣味とは渋い少女だった。
「部屋にぬいぐるみとかは置かないのか?」
「別に要らないもん」
そう言い髪をいじる、あまり物欲の無いタイプの様だ。
正直……カーニャとは仲良くして欲しく無かった。
彼女はただの無垢な少女に見える、だが実際はその手は血に染まっている、彼女に罪悪感や善悪の判断があるかどうかは知らない……だが、確実に殺さなければ行けない対象なのだから。
様々な人を殺して来たが、彼女は殺したくない……そう思っていた。
「どうしたのお兄ちゃん?」
そう言いわたあめは顔を覗き込む、こうして見ると本当に妹が出来た様だった。
「少しやる事があってな、カーニャ、もう少し留守にしても良いか?」
「うん、大丈夫だよ」
「と言う事だ、もう少し頼んだぞ」
そう言いわたあめの頭を撫でる。
「そう言う事は私に許可取ってよ!別に良いけど!!」
嬉しそうに怒っていた。
ぷんぷんしているわたあめを横目にカナデは2人に手を振ると部屋を後にする、そして真剣な顔つきになると地下へ向かう為に階段へと向かった。




