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第三十二話 見えない全貌

「きっちり50万レラ、確かに受け取ったよイケメン君」



満足そうに金を数え、茶神はそれを持って何処かへと向かう、どうやら見張りの類は付けられて居なかった様だった。


何故彼女が既にこの場に戻っているのかは謎だが、口が軽そうな彼女なら何か聞けそうだった。



「気になってたんだが、教祖様は何をしてるんだ?」



「あー、教祖様?あの人の事は赤井しか分かんねーよ、唯一分かる事と言えば、わたちゃんがお姉ちゃんって言ってるから、女って事くらいだな……まぁ美人なら一夜かましたいけど」



そう言いながら下品に笑い、酒を煽る、メリナーデと言い、ルドーシュと言い、彼女と言い……酒好きによく縁がある。



「茶神は何人殺して来たんだ?」



「私か?そうだな……」



そう言い指折り数えるが、やがて両の手では収まり切らず、そして考えるのを飽きたのか、また酒を注ぎ始めた。



「まぁ軽く2〜30人は殺してるな、大体が国の要人家族とか、脅しの為に殺したって感じだ」



まるで自慢をするかの様だった。


虫唾が走る、人を殺して何を誇れるか……彼女を殺すのは今ではない、だが殺すのに罪悪感を感じずに済む。



「そう言えばイケメン君、レイジを殺したんだろ?転生者を殺すなんて悪魔だねー」



「やむ負えずだけどな」



勿論嘘、明確な殺意を持ち彼を殺した……あまり思い出させて欲しくない、彼は唯一俺が殺して後悔してるかもしれない人物なのだから。



「レイジは度々リリアーナ教を調べようとしてたから邪魔だったんだ、いやー、感謝だね」



彼女の言葉に反応を示す事なく席を立つ、そしてカナデが部屋を後にしようと扉に手を掛けた瞬間、同じタイミングで扉が開いた。



「あ、お兄ちゃん!!」



「げっ……」



「茶神も居たんだ、私が一番だと思ったのに!」



「なら一番は譲るからお姉ちゃんて私も呼んでくれよー」



「茶神は茶神だから!」



そう言い椅子に座ると懐からナイフを取り出し、机に絵を彫り始める、まるで子供が鉛筆を持つかの様に手慣れた手つきでナイフを扱って居た。



「わたあめはいつからこの教団に居るんだ?」



「私はー、死んじゃってこの世界に来た時に一人で歩いてたらお姉ちゃんに拾って貰ったの」



子供特有と言うべきか、抽象的であまりわかりやすく無い説明で答える、彼女は運が悪かったと言うべきなのだろうか。


子供は何色にでも染まると言う、出会った人間が悪人なら、簡単に悪に染まる……カーニャと年齢が近い分、彼女はどうしても気に掛けてしまう。



「そのお姉ちゃんって教祖の事だろ?どんな奴なんだ?」



「んー、お姉ちゃんは少し怖いかな」



「怖い?」



「そう、一度お姉ちゃんの大切にしてる物を触っちゃったんだけど、すっごく怒られちゃったの」



触られると怒られる大切な物……あまり検討は付かない。



「そうか、普段は何してるんだ?」



「分かんない!」



そう屈託の無い笑顔で答える、何らかの情報を得られると少し期待したのだが……正直赤井以外からは有力な情報は得られそうに無かった。


これ以上わたあめに絡まれるのも面倒臭い、カナデは席を立つと特に何も告げずに部屋を後にした。



「しかし広い教団本部だな」



元々城の跡地を改装して作った様で、規模感的には城とあまり変わらないほどの大きさを誇っている、それに加えてこの豪華な内装、どれだけの金が掛かっているのか考えただけで目眩がする。


適当に開いている扉を覗いてみるが、中は書庫だったり聖堂だったり、至って普通の部屋ばかり、信者も比較的自由に行動できている様だった。


だが教団内を歩き回っても特に変わった所は無い、あまりにも普通すぎる……それが不気味だった。


なぜ彼らはこんな教団に大金を出すのか、深まる謎に頭を悩ませながらカーニャ達の元へ戻ろうとした時、前方に見覚えのある少女を見つけた。



「あの子は確か……」



この教団では少し目立つ汚れた服に整えれば綺麗なはずの汚れた黒髪、少し前に街でぶつかった少女だった。



「あ……」



向こうもカナデに気付いた様子だった。



「リリアーナ教の信者の方だったんですね」



「そっちも、怪我は無かったか?」



「はい、頑丈さだけが取り柄なので」



そう言い笑う、昨日会った時よりも傷が増えている様な気がした。



「少し、良いか?」



「何でしょう?」



不思議そうに首を傾げる少女に近づくとカナデはそっと傷跡に手を当て、治癒魔法を掛けた。



「あ、あの……」



「事情は知らないが、こう言うのはあまり見過ごせなくてな」



そう言い治療を終えると少し距離をとった。



「あ、ありがとうございます……お名前は?」



「カナデ、怪我したらいつでも言ってくれ、教団のどっかに居るから」



「あ、あの……少しお礼をさせて貰えませんか?」



去ろうとするカナデの服を掴み少女は引き止める。



「礼なんて貰うためにしてる訳じゃ無いから、大丈夫だよ」



別に暇な訳でも無い、やんわりと断って去ろうとするが、少女は服を離さなかった。



「分かった、お言葉に甘えるよ」



彼女に恥をかかせる訳にも行かない、それにもしかすると何か情報がある可能性もある。



「本当ですか!では調理場に行くので着いてきて下さい」



パァッと嬉しそうな表情を見せると少女は調理場へと向かう、この様子だと信者はこの施設をある程度自由に使える様だった。



「そう言えば名前聞いてなかったな」



「あ、ごめんなさい!私はルミアです」



「ルミアか、言いたくなければ言わなくても良いが、何故傷だらけだったんだ?」



大体の予想はつくが、教団が暴力を振るっている……その可能性もなくは無い。



「あ、あれは……おじさんに殴られちゃって」



「そうか、聞いて悪いな」



そう言い頭に手を置く、よく聞く家庭環境の一つ、両親が居らず、頼れる人間はただ1人と言った所なのだろう。


俺がおじさんを矯正する事も出来るが、恐らくこんな少女に暴力を振るう奴は死んでも治らない、殺しても良いがそれだと彼女は1人になる。


俺は彼女を育てるなんて責任は負えない。



「出来ましたよ!」



そう言い自信満々に料理をカナデの前に出す、見覚えのある料理にカナデは少し驚いて居た。



「教祖様から教えて頂いたちゃーはん?って料理です、手軽で凄く美味しいんですよ!」



「チャーハンか……」



懐かしい、俺が好きな食べ物の一つだった。


この世界ではもう食べられないと思って居たが……まさか食べられるとは思わなかった。


贅沢な話しだが、自分で作れば食べられるのだが、俺は料理が下手でチャーハンすら作れない、一度フィリアスにも作って貰ったがとても食べれた物じゃなかった。


だが、人生で一番……あのチャーハンが一番美味かった。


そんな思い出の料理でもある。



「凄い美味いよ」



「良かったです、私料理だけは自信があるので」



「そうか、良いお嫁さんになるよ」



特に意識もせずカナデはそう言うと料理を口に運ぶ、その言葉にルミアの顔は真っ赤になって居た。



「あ……そろそろ時間なので私は行きますね」



「時間?何のだ?」



「お薬です、母が病気を患ってまして……その薬を教団から頂いたてるんです」



「そうなのか」



「はい、今日は……本当にありがとうございました」



そう言い深々と頭を下げてルミアは部屋を出る、カナデは残りのチャーハンを急いでかき込むと、流し台に皿を置いて彼女の後を追った。


バレない様に簡易的な透過魔法を掛け、背後を付ける、薬……普通に治療薬なのだろうが、少しだけ気になった。


この教団の財源が不明と言うのも理由の一つ、各国から脅しで金を巻き上げているなら英雄組合も動き易いはず……だがわざわざ潜入すると言う事は信者が何の疑いもなく金を払う財源がある筈だった。


要するに教団を簡単には潰せない理由が。



「ここは……教会か」



本部に併設されている教会にルミアは訪れる、その場には赤井……彼ら一般信者で言う教祖が壇上に立って居た。



「皆さま、私たちが日々こうして生活出来ているのは、我らが女神さま、リリアーナ様のお陰です」



赤井の教えが始まった。


いちいち聞くのも面倒臭い、要約するとリリアーナを敬い、感謝しろと言う事だった。


教会はかなり広く、その場で教えを聞いていた信者は1000人を優に超えて居た。


そして赤井が喋り終わると信者は赤井の方へと群がって行った。



「あれは……薬だな」



何か錠剤の様な物……一瞬ドラッグの類かと思ったが、信者によって薬の種類は違った。


俺も医者じゃないから薬の種類は断定出来ないが……これは白だ。



「結局、無収穫か」



教会の外に出て風に当たりながら呟く、潜入1日やそこらじゃ得られる情報も大した物は無い……粘り強く情報を集める必要があるのだが、面倒臭い。



『ここに居たの』



だがその面倒臭い作業に意味がある、ここで全て殺してしまっても良いが……それじゃ片凪と何ら変わりはない。



『共有して置きたい情報があるの』



俺は……4人の転生者を殺した、もうその時点で手は汚れている。


清廉潔白で居たい訳では無い、英雄になりたい訳でもない……ただ、今いる2人には少なくとも嫌われたくは無かった。



『ねぇ、見えてる?』



空を見上げながら思う、あの2人は……俺が人間としている為には必要だった。


ふと視線を下に落とすとアルスフィアが精一杯背伸びをして此方にノートを見せようと奮闘して居た。



「何してんだ?」



『やっと見た、共有したい事があるの』



そう言い何事も無かったかの様にページを捲る、全く気配に気が付かなかった。


そして一瞬、彼女を殺そうかと脳裏に過った。


自分でも何を言っているのかと思う、だが気配を感じなかった、つまりは俺に何も悟らせずに行動する事も可能と言う事……確実に厄介な障害になる、ならば此処で……あの一瞬でそこまで考えてしまって居た。


やはり俺はフィリアスが死んだあの日から何か壊れてしまっているらしい。



『見てる?』



「あぁ、見てるよ」



そう言い彼女のノートに目を向ける。


だが特に有益な情報は無かった。



「少し聞きたいんだが、この教団の財源って何か分かるか?」



『今分かってるのは二つ、クリミナティからの依頼で請け負っている要人の暗殺が一つ、もう一つが国の傭兵業ね』



「うーん……そうか」



財源がその二つでも不思議では無いが……それだとなぜこの宗教に大勢の信者が居るのか理解出来ない、やはりこの教団には何かある。



『重要な事を書き忘れてた、最近信者の失踪が相次いでるらしいの』 



「信者の失踪?」



『そう、いつ失踪してもおかしくない人ばかりなんだけど、その中に1人、とある貴族の長男が居るの』



ようやく……本腰に入れそうだ。



「つまり?」



『リリアーナ教が尻尾出したかも知れない、行くでしょ?』



その言葉にカナデは頷いた、メリナーデ達には悪いがもう少しだけ待ってもらう。


この時、カナデは無意識か……優先すべき守る者を後回しにした。

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