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第二話 正義の対価

『佐々木奏、目を覚ましなさい奏』



何処からともなく声が聞こえて来る。


美しい声だった……だが死んだ俺に目覚めろとおかしな事を言う物だった。


だが不思議な事に手の感覚や足の感覚がある、そして瞼の裏を見ていた。



「あれ……死んだ筈じゃ?」



ゆっくりと目を開く、目覚めに優しい薄暗い空間が視界には広がっていた。


徐々に辺りは明るくなって行く、そして一人の女性が奏の前に現れた。



『佐々木奏、貴方は確かに死にました』



先程の声の主、真っ白な髪に負けないほど透き通った白い肌、人の言葉で表現するなんて烏滸がましい程に美しい女性が其処には立っていた。



「女神……様?」



思わず口からこぼれ落ちた言葉、奏の反応に女性はただ静かに微笑んだ。



『はい、私はメリナーデ……貴方の言う通り、女神です』



本物の女神様……圧倒的な神々しいオーラと美しさに自分が死んだと言う事すら忘れてしまいそうだった。



「俺はこれからどうなるんですか?」



『良い質問です、佐々木奏……死因は強盗から受けた背中の刺し傷、死んでしまっては居ますが、今貴方は英雄的扱いですよ』



そう言い不思議な力で空中にテレビの様な映像が映し出される。



『奏君は……私達を命懸けで守ってくれた、何度感謝を言っても……言い足りないよ』



涙を流し、インタビューを受ける夫妻が映っていた。



「奏は昔っから正義感強くて、俺もいじめられてたのを助けられたし……何で……死んじまったんだよ」



友達の映像に移る、そして次に映ったのは父だった。


厳格で、口数が多い方では無い、年の瀬に帰っても二、三言葉を交わす程度……そんな父が涙を流していた。


見た事が無いほど顔をくしゃくしゃにして、その映像に自然と奏の目からは涙が溢れていた。



『息子は……私の誇りです』



その言葉共に映像は途切れた。



『今日本では英雄佐々木奏として大賑わいですよ』



「英雄……」



そう呼ばれるのは悪く無い、だがその嬉しさよりも……父があれ程俺の事を思ってくれて居た事の方が衝撃的だった。


お世辞にも一流どころか二流とは言えない会社に就職した俺を疎んでいると思っていた、英雄となったからあの発言をしたのか真偽は不明だが……俺は死んだ事をたった今、深く後悔して居た。



『奏……貴方の命はもうあの世界には有りません、それは後悔しても戻らない事実です』



女神の言葉が現実となって突き刺さる、そんな事は分かって居た。


俺は死んだ、もうあの世界に戻る事は出来ない、もし輪廻転生があったとしても同じ人間関係や家族は築けない……あれは一度限りの人生だったのだから。



『そう悲観する事はありません、貴方はとても崇高なる行いをしました、貴方の様な人にはもう一度……生きるチャンスをあげます』



「生きるチャンス?」



正直、一瞬どうでも良いと思っていた奏に一筋の光だった。



『異世界転生と言うのはご存知ですか?』



「は、はい……知識量ならかなり」



アニメや漫画で異世界転生系は網羅している、流石に活字が苦手故にラノベには手を出していないが、知識としては充分だった。



『貴方には別の世界でもう一度生きるチャンスを上げます、文字通り異世界転生です』



「異世界転生……ですか」



『はい、ですが一つ……チートな力や能力は無いです、それは異世界のバランスを崩す事になりますから、それが嫌なので有れば、天国と言う選択肢もありますよ』



そう言い指を指す、その先には扉が二ついつの間にか現れていた。


片方は天国、もう片方は異世界へと。


正直、即決は出来なかった。


天国がどんな場所かは分からないが、何は父や母……皆んなも来る筈、そこで待つのも一つなのではと、だがそれと同時に……俺はまだ生きたいと思っていた。


無くさない様に、失わない様に……一時期は偽物なのでは無いかと思っていた正義感があそこ迄、俺が確かにあの場所に居たと証明してくれた……あの嬉しさが忘れられなかった。


そしてゆっくりと歩み、ドアの前で立ち止まった。



『そちらで宜しいのですね?』



ドアノブに手を掛け、頷く……俺はもう一度、今度はしっかりと自信を持って生きたかった。


生まれ変わっても同じ人生を歩む……確かに一度はそう言った。


だが今度は異世界で、俺の正義感を疑わずに生きれる筈だった。



「女神様……ありがとうございます」



『貴方の第二の人生に加護が在らん事を』



女神の言葉を聞きながらドアノブを捻り、扉を開けると中へと入る……それと同時に再び意識は遠退いて行った。


暖かく何かに包まれる様な感覚だった。


そして意識を失う直前、奏はしみじみと思っていた。


人間きっかけがあれば変わる物だった。


きっかけがあれば。

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